アクアポニックスの方式を調べていくと、DWCに行き着く。商業農場で一番使われている、構造が単純、培地が要らない。それなら家でもDWCで、と思う。
私の設備には、中規模のDWCがあります。錦鯉が主役の槽で、冬はリーフレタスとスイスチャードを穫っています。だからDWCを否定する立場ではありません。それでも、家庭の小さな装置でDWCを選ぶ人には、先に言っておきたいことがあります。
DWCの強みは、水の量から来ています。小さく作ると、その強みが出ないまま、弱点だけが残る。この記事は、その理由と、では家庭で何を選ぶかを書きます。
- DWCは槽が大きいほど効く方式。家庭の小さな装置には向きません。
- 理由は1つ。強みが水量から来る。小さく作ると、安定が抜けて、培地が無い弱点だけ残る。
- 私の設備の中規模DWCは、錦鯉が主役で、冬にリーフレタスとスイスチャード。いちごも穫れた。この規模なら強みが全部出る。
- 浮き板は既製の水耕栽培パネル。穴の精度は自作では出ない。
- 家庭で選ぶならメディアベッドか、NVボックス2つ。迷ったらメディアベッド。
- アクアポニックスのDWCは、家庭の小さな装置には向かない|強みが水量から来るから
- 小さく作ると、何が起きるか|立ち上げが遅く、植えるものを選ぶ
- DWCとNFTは、どちらも小さいと弱い|違うのは水の持ち方
- 水耕栽培のDWCと、アクアポニックスのDWCは別物|足せないものがある
- 中規模なら、話が変わる|私の設備のDWCで穫れているもの
- DWCで魚は何が向くか|私の設備は錦鯉
- 中規模DWCの日々の手入れ|やることは3つ
- ラフトは自作か、既製品か|私は既製の水耕栽培パネル
- 家庭で選ぶなら|メディアベッドか、NVボックス2つ
- それでも小さなDWCを作るなら|線は3つ
- どこで見切るか|終わりの判断
- まとめ
- よくある質問(FAQ)
- 次に見るのは、ここ
アクアポニックスのDWCは、家庭の小さな装置には向かない|強みが水量から来るから
答えを先に書きます。DWCは、槽が大きいほど効く方式です。家庭の小さな装置では、その強みが出ません。
3方式の記事に書いたとおり、DWCは水を張った槽に板を浮かべて、穴に苗を差す方式です。浮き板の下は、そのまま魚の水。水量が多いので、水温も水質も動きにくい。それが、商業農場がDWCを選ぶ理由です。
裏を返せば、水量が少なければ、動きにくさは手に入りません。小さな槽のDWCは、ただの「培地の無い水耕」です。培地が無いので、根を支えるものも、ろ過を助けるものも無い。安定という強みが抜けて、培地が無いという弱点だけが残ります。
私が「小規模のDWCはすすめない」と言うのは、この一点です。方式が悪いのではなく、大きさと方式が合っていない。

小さく作ると、何が起きるか|立ち上げが遅く、植えるものを選ぶ
小さなDWCで起きることを、2つに絞ります。
立ち上げが遅い。メディアベッドなら、培地の表面に細菌が住みつきます。硝化サイクルが回りはじめるのは、細菌の住む場所があってこそ。DWCには培地が無いので、細菌の住む場所は槽の壁と根だけ。水量が多ければ、それでも量で持ちます。少なければ、細菌の総量が足りないまま、アンモニアが溜まる。
植えるものを選ぶ。DWCは根が水に垂れる方式なので、根が水に浸かり続けて平気な野菜に限られます。葉物はいい。実ものや根菜は、培地のほうが向く。おすすめの野菜の記事で葉物を先に書いているのは、この方式の都合もあります。中規模なら葉物だけで十分に穫れますが、家庭の小さな槽で葉物だけとなると、穫れる量に対して手間が合わない。
もうひとつ、小さい槽ほど水温が振れる。夏の水温は22℃で線を引きますが、浮き板の下の水が少ないと、その線を昼に超えて、根が傷みます。大きな槽なら、水量が振れを止めてくれる。
DWCとNFTは、どちらも小さいと弱い|違うのは水の持ち方
DWCと並べて出てくるのがNFTです。細い樋に薄く水を流して、根をその流れに当てる方式。どちらも培地が無い水耕で、商業農場で使われます。
違いは、水を持つか、流すか。DWCは槽に水を溜めて持つ。NFTは溜めずに流す。だからNFTは、ポンプが止まった瞬間に根が乾きます。DWCは、止まっても槽の水が残るので、根はしばらく水に浸かったまま。ポンプが止まったときに時間を稼げるのは、DWCの側です。
ただし、それも槽の水量があってこそ。小さなDWCは、止まっても持つ水が少なく、根が浸かっている水の酸素がすぐ尽きる。NFTの「流れが止まると乾く」と、小さなDWCの「溜まった水の酸素が尽きる」は、行き着く先が同じです。
家庭で水耕の2方式のどちらかを選ぶなら、その前に「培地を使わない理由が自分にあるか」を先に考えてください。理由が無ければ、メディアベッドで済みます。
水耕栽培のDWCと、アクアポニックスのDWCは別物|足せないものがある
「DWC」で検索すると、水耕栽培のDWCが多く出てきます。同じ名前ですが、アクアポニックスに持ち込むと、できないことが増えます。
水耕栽培のDWCは、槽の水に液肥を溶かします。足りなければ足す、濃ければ薄める。水は栄養液です。アクアポニックスのDWCは、浮き板の下が魚の水です。液肥を足せば魚に効く。養分は魚の餌から出た分だけで、足りなければ魚か餌を増やすしかない。
だから、水耕栽培のDWCの手順を、そのままアクアポニックスに当てはめると失敗します。とくにpH。アクアポニックスの水は硝化で下がるのが正常で、水耕栽培のように薬で合わせるのではなく、カキ殻で支えます。
小さな装置ほど、この違いが効きます。水量が少ないと、養分もpHも早く動く。大きな槽なら動きが遅いので、魚の餌だけで野菜が追いつく。ここでも、答えは水量です。

中規模なら、話が変わる|私の設備のDWCで穫れているもの
ここからは、私の設備で実際にやっていることです。
私の設備にはハウスの中に中規模のDWCがあり、錦鯉が主役です。浮き板の下がそのまま魚の水で、槽が大きいので、冬でも水温が急には動きません。冬に穫れているのはリーフレタスとスイスチャード。いちごもこのDWCで育てて、夏から秋口に苗を入れ、冬をそのまま越して、実が穫れました。水っぽいけれど、おいしかった。
この規模なら、DWCの強みが全部出ます。水量で温度と水質が安定し、培地の入れ替えが無く、板を持ち上げれば根の様子が一目で見える。手間は、ポンプの吸込口と、板の穴の周りの掃除くらいです。
ただし、ここまで来ると、家庭の装置ではありません。槽を置く場所と、水を張る量と、それを支える床が要ります。「DWCが一番」は、この規模の話です。
DWCは、大きな鍋で煮る料理と同じで、量があるほど火が安定して、少量で作ると焦げやすい。方式の良し悪しではなく、量の話です。
DWCで魚は何が向くか|私の設備は錦鯉
DWCの槽は、浮き板の下がそのまま魚の水です。だから魚の側も、槽の大きさに引っぱられます。
私の設備の中規模DWCの主役は錦鯉です。錦鯉は体が大きく、餌をよく食べ、フンが多い。その分だけ野菜を養える。中規模の槽だから、その量を受け止められます。
小さな槽でDWCを作るなら、魚も小さく、少なくなります。メダカや金魚を数匹。それでも回りますが、養える野菜が少ない。小さな槽で葉物を数株、という規模になります。それならNVボックス2つのほうが、同じ魚で同じだけ穫れて、立ち上げが早い。
魚を増やして養える野菜を増やそうとすると、細菌が追いつかず水が傷む。魚を減らすと野菜が育たない。小さなDWCは、その間の狭い範囲でしか動きません。大きな槽は、その範囲が広い。それが「水量から来る強み」の正体です。
中規模DWCの日々の手入れ|やることは3つ
強みが出る規模のDWCで、日々やることは3つに絞れます。DWCは手間が少ない方式ですが、ゼロではありません。
ポンプの吸込口。浮き板の下は根と藻が集まる場所で、吸込口に絡みます。私の設備でポンプが止まった原因は詰まりで、分解掃除で直りました。月に一度、吸込口を見る。
板の穴の周り。苗を差した穴の周りに藻が付きます。放っておいても育ちますが、穫るときに手が汚れるのと、次の苗を差すときに穴がふさがる。穫ったついでに、穴をこすっておく。
根の様子。板を持ち上げれば根が全部見えるのが、DWCの一番いいところです。白ければ問題なし。茶色く、ぬめっていれば酸素不足。週に一度、1枚だけ持ち上げて見る。全部は見なくていい。
この3つ以外は、魚の世話と同じです。餌の量、水の色、においを見る。中規模なら、水量が振れを止めてくれるので、毎日つきっきりになることはありません。

ラフトは自作か、既製品か|私は既製の水耕栽培パネル
DWCで最初に迷うのが、浮き板です。発泡スチロールの板を自分で切って穴を開ける人が多い。
私のところでは、水耕栽培用のパネルを使っています。発泡の板に穴が等間隔で開いた既製品で、自分で切り出してはいません。理由は、穴の大きさです。スポンジごと苗を差すので、穴がスポンジに合っていないと、苗が沈むか、浮いて根が水に届かない。自分で開けると、この精度が出ません。
既製品の弱点は、槽の大きさに合わせて板を選ぶことになる点です。逆に言えば、槽を板に合わせて作れば、それで済む。中規模のDWCを作るなら、板の寸法から槽を決めるほうが早い。
小さな槽にDWCを作りたくて、板を自分で切る。その時点で、もう「小さいDWC」の側に入っています。板の話より先に、大きさの話に戻ってください。

家庭で選ぶなら|メディアベッドか、NVボックス2つ
では、家庭の小さな装置では何を選ぶか。答えは2つです。
メディアベッド。培地に細菌が住むので、小さくても立ち上がる。培地はハイドロボールの中粒。実ものも根菜も植えられる。家庭でアクアポニックスを始めるなら、まずこれです。
NVボックス2つ。メダカで小さく始めるなら、NVボックスを2つ重ねる形が一番手間が少ない。水換えのいらない容器として、まず動かしてみる。
どちらも、DWCより「小さくても回る」側の方式です。小さく始めて、槽を大きくできる場所と余裕ができたら、そのときにDWCを考える。順番はそれで足ります。
迷ったら、メディアベッド。小さくても立ち上がり、植えるものを選ばず、失敗しても培地を洗えばやり直せます。
それでも小さなDWCを作るなら|線は3つ
「それでもやってみたい」という人はいます。止めはしません。線だけ書いておきます。
葉物だけにする。レタス、水菜、小松菜。実ものは植えない。
魚は少なく。水量が少ないDWCで魚を増やすと、細菌が追いつかない。餌の量から逆算して、魚を減らす側で始める。
エアレーションを入れる。浮き板の下の水は動きにくい。根が水に浸かりっぱなしなので、酸素が切れると根腐れが早い。大きな槽なら水量で持つところを、小さな槽ではエアで補う。
この3つを守れば、小さなDWCも動きます。ただし、それはDWCの強みで動いているのではなく、弱点を手当てで埋めて動いている状態です。同じ手間なら、メディアベッドのほうが穫れます。
どこで見切るか|終わりの判断
線を決めておきます。
私の設備では中規模のDWCを回していて、小規模のDWCはすすめていません。この判断は、方式ではなく大きさで分かれています。
槽を大きく置ける場所と床があるなら、DWC。強みが全部出る。
家庭の小さな装置なら、メディアベッドかNVボックス2つ。小さくても回る方式から。
小さなDWCをやるなら、葉物だけ・魚は少なく・エアを入れる。それで動くが、同じ手間ならメディアベッドが穫れる。
浮き板は、既製の水耕栽培パネル。穴の精度は自作では出ない。
迷ったら、メディアベッド。DWCは、槽を大きくできる日が来てからで遅くありません。
まとめ
アクアポニックスのDWCは、槽が大きいほど効く方式です。強みが水量から来るので、家庭の小さな装置では強みが出ないまま、培地が無い弱点だけが残ります。
私の設備の中規模DWCでは、錦鯉が主役で、冬にリーフレタスとスイスチャード、いちごも穫れました。この規模なら強みが全部出ます。浮き板は既製の水耕栽培パネルです。
家庭で選ぶなら、メディアベッドかNVボックス2つ。小さくても回る方式から始めて、槽を大きくできる日が来たらDWCを考える。迷ったらメディアベッドです。
よくある質問(FAQ)
Q. アクアポニックスのDWCとは何ですか。
A. 水を張った槽に板を浮かべて、穴に苗を差す方式です。浮き板の下はそのまま魚の水で、根は水に垂れます。培地が要らず、水量が多いので水温も水質も動きにくい。商業農場で一番使われています。
Q. 家庭でもDWCがいいですか。
A. 小さな装置には向きません。DWCの強みは水量から来るので、小さく作ると強みが出ないまま、培地が無いという弱点だけが残ります。家庭ならメディアベッドかNVボックス2つから。
Q. 小さいDWCだと何が困りますか。
A. 立ち上げが遅く(細菌の住む培地が無い)、植えるものが葉物に限られ、水温が振れます。大きな槽ならどれも水量が解決しますが、小さいと手当てで埋めることになります。
Q. どのくらいの大きさならDWCでいいですか。
A. 何リットル以上、という線は書けません。私の設備の中規模DWCは、ハウスの中で錦鯉を主役に、冬にリーフレタスとスイスチャードが穫れる規模です。槽を置く場所と床の強さが要ります。
Q. 浮き板は自作できますか。
A. できますが、私は既製の水耕栽培用パネルを使っています。穴の大きさがスポンジに合っていないと苗が沈むか浮くかするので、自作では精度が出ません。
Q. DWCでいちごは育ちますか。
A. 私の設備のDWCで、夏から秋口に苗を入れて、冬をそのまま越して実が穫れました。水っぽいけれどおいしかった。ただし中規模の槽での話です。
Q. 小さいDWCをどうしてもやるなら。
A. 葉物だけにする、魚は少なく、エアレーションを入れる。この3つで動きます。ただし同じ手間ならメディアベッドのほうが穫れます。
Q. DWCは冬でも育ちますか。
A. 私の設備の中規模DWCは、ハウスの中で冬にリーフレタスとスイスチャードが穫れています。水量が多いので水温が急に動かないからです。小さな槽では冬の水温が下がりきるので、同じようにはいきません。
Q. メディアベッドとDWCは組み合わせられますか。
A. できます。私の設備でも方式は1つではありません。小さく始めるならメディアベッド、槽を大きくできる場所ができたらDWCを足す、という順番が無理がありません。
→ 費用と失敗の記録をnoteで読む
次に見るのは、ここ
3方式をもう一度比べるならアクアポニックスの3方式へ。小さく始めるならメダカでアクアポニックス|NVボックス2つで作るへ。メディアベッドの培地を決めるならハイドロボールの選び方へ。DWCで穫れたいちごの話はアクアポニックスでいちごは育つのかへ。中規模DWCの魚の側はアクアポニックスに錦鯉へ。
