アクアポニックスの魚を何にするか。メダカで組んだら、野菜が薄い。金魚は迷う。錦鯉はどうなのか。
調べると「錦鯉は丈夫で最適」と一行あって、あとは設備の動画です。錦鯉で組むと何が変わるのか、何に気をつけるのかは、書いてありません。
農場の設備は、いちばん大きいハウスの深水式(DWC)と、60センチ水槽の設備、90センチ水槽の設備。3つとも錦鯉です。何が変わったか、そこから書きます。
- 錦鯉で変わるのは、野菜の種類ではなく量。20cmの錦鯉1匹の餌は、メダカ約200匹ぶん。
- 楽になるのは冬(加温なし)・塩(魚は平気)・水(濁っても崩れない)の3つ。
- 引き受けるのは大きくなる・塩は野菜に効く・フンでポンプが詰まるの3つ。
- 水換えはしていない。足し水だけ。条件は栽培槽があることと、魚と株の釣り合い。
- 数は匹数でなく餌の量で決める。少なめで始めて、野菜が薄ければ足す。
アクアポニックスに錦鯉を使うと、変わるのは「穫れる量」
答えを先に書きます。錦鯉で組むと、穫れる野菜の種類は変わりません。変わるのは、量です。
アクアポニックスの野菜は、魚の餌が変わったものを食べています。魚が食べる餌の量が、野菜に回る養分の量です。20センチの錦鯉1匹が食べる餌を、メダカで集めると約200匹。同じ栽培槽なら、錦鯉のほうが桁違いに養分が出ます。
だから、農場のメダカの設備と錦鯉の設備で、穫れたものはほぼ同じです。ラディッシュ、リーフレタス、空芯菜、バジル。違うのは、メダカの設備はベビーリーフの量、錦鯉の設備はレタスを密に植えられる量、ということです。
逆に言えば、錦鯉にしたからといって、トマトやナスが急に育つわけではありません。葉物、ハーブ、実ものの順に難しいのは、魚が何でも同じです。錦鯉は、葉物をたくさん穫るための魚です。
錦鯉の設備は3つ。ハウスの中の深水式(水を張った槽に既製のパネルを浮かべ、穴に苗を差す方式)、60センチ水槽の上にNVボックス22、90センチ水槽の上にトロ舟60。後の2つは下が錦鯉で、上がハイドロボールの栽培槽、ポンプで常時汲み上げて落とす形です。深水式は次の章で。
ハウスの中規模DWC|錦鯉の養分と、水量の安定が噛み合う
農場でいちばん大きい錦鯉の設備は、ハウスの中の深水式(DWC)です。水を張った槽に、水耕栽培用の既製パネルを浮かべて、穴に苗を差します。レタスを密に植えられるのは、この設備です。
3方式を試して、中規模まで育ったのはDWCだけでした。理由は水量です。水が多いほど、温度も水質も動きにくい。錦鯉は餌が多く、養分もフンも一度にたくさん出ます。それを受け止められるのは、水量のある槽です。錦鯉の養分と、DWCの安定は、噛み合っています。
冬もこの設備の話です。ハウスの中が氷点下2℃まで下がった朝も、槽の水は凍りませんでした。水量が多いからです。冬の栽培槽にあったのは、リーフレタスとスイスチャード。錦鯉は餌を止めて、底で春を待っていました。
ただし、小さなDWCは、すすめません。この方式の強みは水量からくる安定で、槽が大きいほど効きます。小さい槽では、強みが出ないまま、弱点だけが残ります。植えるものを選ぶ、立ち上げが遅い、パネルの下の根が水に全部沈む。
だから、錦鯉で「量」を取るなら、DWCは大きく。60センチ水槽から始めるなら、ハイドロボールの栽培槽のほうが向いています。ポンプは詰まりで止まったことがあります。分解掃除で直りました。大きい槽ほど、止まったときの猶予はありますが、止まらないわけではありません。

錦鯉の良いところ|冬を越す、塩に強い、水を選ばない
錦鯉を選んで、楽になったことが3つあります。
冬を加温なしで越します。ハウスの深水式は氷点下2℃まで下がった朝も、水は凍りませんでした。ヒーターも電気代も要りません。餌を止めるのは水温が安定して15℃を切ったら、再開は10℃を超えてから。それだけです。ティラピアのような熱帯の魚では、こうはいきません。
塩に強い。農場の60センチの設備に塩を入れていったことがあります。錦鯉は最後まで平気で、野菜のほうが全部枯れました。魚の病気で塩を使いたいとき、錦鯉側の心配は要りません。ただし、野菜側の心配は要ります。次の章です。
水を選ばない。錦鯉は、もともと泥の池で育つ魚です。アクアポニックスの水は、魚の側から見ると濁りやすく、ろ過も栽培槽任せです。その水で調子を崩さない魚であることは、始めやすさに直結します。
丈夫、と一言で書かれているのは、この3つのことです。分けて書くと、どれが自分に効くかが分かります。冬の手間を減らしたいのか、病気のときに塩を使いたいのか、水質の管理に自信が無いのか。
気をつけること|大きくなる、塩は野菜に効く、餌が多い
良いことの裏に、気をつけることが3つあります。
大きくなります。錦鯉は環境に合わせて成長を調整する魚で、水量・数・餌を絞れば水槽サイズで落ち着きますが、アクアポニックスでは餌を絞れません。餌が野菜の養分だからです。つまり、野菜を穫ろうとするほど、錦鯉は大きくなります。60センチ水槽なら、いずれ手狭になる前提で組んでください。
塩は、魚ではなく野菜に効きます。農場の実験では、穫った葉が先に塩辛くなり、それから枯れました。錦鯉が平気な顔をしていても、野菜はもう限界にいる。魚を基準に「まだ大丈夫」と判断すると、野菜を全部失います。塩浴は、隔離した容器でやって、その水は戻さない。
餌が多い=汚れも多い。養分が多いのは、フンが多いということでもあります。農場のポンプが止まったのは詰まりでした。分解掃除で直りましたが、フンが多い魚ほど、吸い込み口は早く詰まります。ポンプの吸い込み口は、月に一度は見てください。
この3つは、錦鯉の欠点ではなく、養分が多い魚を選んだ結果です。量を取るなら、この3つは引き受けます。

水換えはしていない|足し水と、沈殿の排水だけ
「錦鯉は水を汚すから水換えが大変では」と聞かれます。農場では、水換えをしていません。
アクアポニックスでは、魚のフンを細菌が変えて、野菜が吸います。この受け渡しが回っているあいだ、養分は溜まる一方にはなりません。農場の錦鯉の設備も、蒸発したぶんを足すだけで回っています。
ただし、2つ条件があります。栽培槽があること。ハイドロボールの栽培槽が、巨大なろ材になっています。栽培槽の無い容器に同じ数の錦鯉を入れたら、数日で崩れます。魚の数と株の数が釣り合っていること。錦鯉が多くて株が少なければ、養分が余って水が濁ります。
もうひとつ、水換えとは別に、底の沈殿を抜く作業はあります。錦鯉のフンは大きく、溶けきらない分が底に溜まります。これは細菌が分解する前の固形物なので、たまに抜きます。「水換えをしない」と「掃除をしない」は、別です。
90センチのほうはベランダで雨が入り、60センチのほうはハウスの中で雨は入りません。どちらも足し水だけで回っている、というのが、農場の実測です。
何匹入れるか|数ではなく、餌の量で決める
錦鯉を何匹入れるか。これは、匹数で決めるものではありません。
決めるのは、1日に与える餌の量と、栽培槽の広さの釣り合いです。錦鯉1匹でも、大きければ餌は多い。小さい錦鯉3匹と、大きい錦鯉1匹は、野菜から見れば同じくらいです。
農場も、匹数の記録は取っていません。見ているのは、水が濁らないか、野菜が薄くないか、の2つだけです。栽培槽が処理しきれない数を入れると、水が濁ります。水が濁りはじめたら、魚が多いか、株が少ないか。株を増やすほうが先です。
逆に、野菜が薄い、葉の色が淡いなら、養分が足りていません。液肥を足す前に、魚の数か餌の量を見ます。錦鯉なら、餌を少し増やすだけで変わります。メダカでは、この手が使えません。
数を決めるのは、最初ではなく、野菜と水を見ながらです。少なめで始めて、野菜が薄ければ足す。それが、錦鯉の設備の数の決め方です。
秋から冬|餌を止めると、野菜も止まる
錦鯉の設備で、季節の効き方を書いておきます。夏より、秋から冬のほうが、錦鯉らしさが出ます。
水温が安定して15℃を切ったら、餌を止めます。錦鯉は食べなくても冬を越しますが、野菜から見ると、養分の入り口が閉じたことになります。だから、餌を止めた時点で、野菜の成長もほぼ止まる。冬に穫るものは、餌を止める前に育てておく、が錦鯉の設備の冬の組み方です。
秋に播く葉物は、錦鯉が食べているうちに大きくしておきます。農場の冬の栽培槽にあったのは、リーフレタスとスイスチャード。餌を止めたあとは、育てるのではなく、穫るだけの季節です。
春は、逆です。10℃を超えてから餌を再開すると、数週間遅れて養分が回りはじめます。野菜が動き出すのは、餌の再開より少しあと。春に「動かない」と焦らないでください。
錦鯉の設備の一年は、魚の餌のカレンダーで決まります。野菜のカレンダーは、その少しあとを追いかけます。
沈殿の抜き方|水換えとは別の、たまの作業
水換えはしない、と書きました。では、底に溜まるものはどうするか。
錦鯉のフンは、メダカと違って大きく、細菌が分解する前に底に溜まります。溜まったままでも、すぐに悪さはしません。ただ、量が増えると、そこだけ酸素が尽きて、腐った臭いの元になります。
抜き方は、簡単です。ホースで底の沈殿を吸い出して、抜いた分だけ足し水をする。水槽全体を換えるのではなく、底の一部を抜くだけ。細菌のいる栽培槽には触りません。
いつやるか。決まった間隔ではなく、底に溜まった層が見えてきたら。ポンプの吸い込み口を見るついでに、底も見る。それで足ります。
これは「水換え」ではなく「掃除」です。農場が足し水だけで回っている、というのは、この掃除の排水を含めてのことです。
メダカ・金魚・ティラピアと、どう違うか
ほかの魚と比べて、錦鯉の位置を書いておきます。
メダカは、養分が少ない。穫れるのはベビーリーフの量。その代わり、小さな設備で、ベランダに置けます。錦鯉は、その逆です。
金魚は、錦鯉とメダカのあいだです。初心者向けの3種に入れていますが、農場では金魚の設備を持っていないので、実測は書けません。
ティラピアは、養分は多いですが、熱帯の魚です。冬に加温しないと落ちます。養分の多さは同じでも、冬の電気代と手間が、錦鯉とは別の話になります。
だから、錦鯉が向いているのは、屋外か無加温のハウスで、葉物をたくさん穫りたい人です。室内の小さな水槽で、少しだけ育てたいなら、メダカです。

錦鯉で組むなら、この順で決める
錦鯉で始めると決めたら、決める順番があります。
まず、栽培槽の大きさ。錦鯉の養分を受け止められる広さが要ります。60センチ水槽ならNVボックス22、90センチならトロ舟60。農場の組み合わせは、この2つです。もっと大きくするなら、深水式を大きく。
次に、大きくなったときの行き先。数年後に60センチに収まらなくなったとき、池があるか、大きい容器に移せるか、譲る先があるか。決めずに始めると、そこで詰まります。
魚は、小さいものを少なめに。幼魚は通販でも買えます。少なめで始めて、野菜が薄ければ足す。
冬の準備は、要りません。餌を止める水温だけ覚えておけば足ります。これが、錦鯉を選ぶ一番の理由です。
農場の施設は、義理の伯父たちと協力して建てました。世話と手直しは一人でやっています。60センチ水槽の設備なら、一人で十分です。ハウスも大きな槽も、始めるのに要りません。
どこで見切るか|終わりの判断
線を決めておきます。
水が濁りはじめたら、魚が多い。株を増やすか、魚を減らす。餌を減らすのは、野菜を減らすのと同じなので、最後。
野菜の葉が淡ければ、養分が足りない。餌を少し増やす。それで足りるのが、錦鯉の設備。
錦鯉が水槽に収まらなくなったら、その設備の終わりです。次の行き先を、始める前に決めておく。
最後にひとつ。錦鯉は、アクアポニックスで「量を穫る」ための魚です。種類を増やす魚ではありません。葉物をたくさん、冬も加温なしで。それが欲しいなら、錦鯉です。
まとめ
アクアポニックスに錦鯉を使うと、穫れる野菜の種類は変わりません。量が変わります。20センチの錦鯉1匹の餌を、メダカで集めると約200匹。レタスを密に植えられるのは、錦鯉の設備です。
楽になるのは、冬を加温なしで越すこと、塩に強いこと、濁りやすい水でも崩れないこと。引き受けるのは、大きくなること、塩が野菜に効くこと、フンでポンプが詰まること。
農場の60センチと90センチの錦鯉の設備は、水換えをせず足し水だけで回っています。条件は、栽培槽があることと、魚と株の釣り合い。
錦鯉は、量を穫るための魚です。屋外か無加温のハウスで、葉物をたくさん。それが欲しいなら、錦鯉です。
よくある質問(FAQ)
Q. アクアポニックスに錦鯉は向いていますか。
A. 葉物をたくさん穫りたいなら向いています。錦鯉で変わるのは野菜の種類ではなく量です。20センチの錦鯉1匹の餌をメダカで集めると約200匹。農場の錦鯉の設備は3つで、レタスを密に植えられるのは錦鯉の設備です。
Q. 錦鯉の良いところは。
A. 冬を加温なしで越す、塩に強い、水を選ばない。農場のハウスは氷点下2℃でも凍らず、錦鯉は底で春を待っていました。餌を止めるのは水温が安定して15℃を切ったら、再開は10℃を超えてから。
Q. 気をつけることは。
A. 大きくなる、塩は野菜に効く、餌が多いぶん汚れも多い。アクアポニックスでは餌を絞れないので錦鯉は大きくなる前提で組みます。農場の塩の実験では錦鯉は平気で、葉が先に塩辛くなって枯れました。ポンプの吸い込み口は月に一度見てください。
Q. 水換えは大変ですか。
A. 農場では水換えをしていません。足し水だけです。条件は、ハイドロボールの栽培槽があることと、魚と株の数が釣り合っていること。底の沈殿を抜く掃除は別にあります。
Q. 何匹入れればいいですか。
A. 匹数ではなく、餌の量と栽培槽の広さの釣り合いで決めます。農場も匹数の記録は取っておらず、水が濁らないか、野菜が薄くないかの2つで見ています。少なめで始めて、野菜が薄ければ餌を増やす。水が濁ったら株を増やす。
Q. 60センチ水槽で錦鯉は飼えますか。
A. 飼えますが、アクアポニックスでは餌を絞れないので、締め飼いのようには止まりません。いずれ手狭になる前提で、大きくなったときの行き先を先に決めてください。
Q. メダカと錦鯉、どちらで始めるべきですか。
A. 屋外か無加温のハウスで葉物をたくさん穫りたいなら錦鯉。室内の小さな水槽で少しだけなら、メダカ。穫れる種類は同じで、量が違います。
Q. ティラピアではだめですか。
A. 養分は多いですが熱帯の魚で、冬に加温しないと落ちます。養分の多さは同じでも、冬の電気代と手間が錦鯉とは別の話になります。
Q. 塩浴はできますか。
A. 錦鯉には効きますが、その水を栽培槽に回すと野菜が先に枯れます。隔離した容器で塩浴して、その水は戻さないでください。
次に見るのは、ここ
メダカとの違いはメダカで野菜が育たない|原因は餌の量。株を減らせば穫れるへ。大きさの話は錦鯉は水槽で飼える?大きくしない締め飼いへ。冬の実測はアクアポニックスの冬越し|加温なしで越冬した記録へ。塩の実験はアクアポニックスは海水でできるのか|錦鯉に塩を入れた実験へ。ほかの魚と比べるならアクアポニックスの魚の選び方|初心者向け3種と中級者向け4種へ。
