穫れたリーフレタスを食べて、あれ、と思いました。塩辛い。ドレッシングをかける前の、ただの葉です。
うちの60センチの設備は、下に錦鯉がいて、上でリーフレタスとスイスチャードを育てていました。そこに塩を入れていったらどうなるのか。それが知りたくて、実際にやってみたときの話です。結果を先に書くと、錦鯉は最後まで平気で、野菜のほうが全部枯れました。
この記事は、その記録と、国連食糧農業機関の手引きにある塩水アクアポニックスの節を突き合わせたものです。数字は手引きのもので、うちの実験では濃度を測っていません。測らなかったことも含めて、そのまま書きます。
- うちの錦鯉の設備で、塩を入れていったことがあります。先に音を上げたのは、魚ではなく野菜でした。
- 順番は決まっています。味が塩辛くなる → 枯れはじめる → 枯れきる。味の変化が最初の警告です。
- 錦鯉のほうは、最後まで問題なし。魚と野菜では、塩に耐えられる幅がまるで違います。
- ただし薄い塩分なら成立します。どこまで薄めるかで、育てられる作物が変わります。
- やり直すなら、水を濃くするのではなく塩に強い作物のほうへ寄せる。これがいまの結論です。
アクアポニックスシステムに塩を入れていったときの記録
やり方は、正直に言えば雑でした。ひとつかみを、ざっくり入れる。それを数回にわたって繰り返しています。何パーセントになったかは測っていません。ここが、この実験のいちばんの反省点です。
最初に変化が出たのは、味でした。穫った葉が、塩辛くなっていったのです。枯れる前に、まず味に出る。手引きが「塩分の下で育てた作物は風味や食味の点で優れる」と書いているのは、たぶんこの手前の段階の話です。うちはそこを通り越しました。
次が見た目です。葉が傷みはじめ、生育が止まり、そのまま枯れていきました。リーフレタスもスイスチャードも、区別なく落ちています。最後は完全に枯れて、そこで実験を止めました。
そして錦鯉は、まったく問題ありませんでした。いつもどおり泳ぎ、いつもどおり食べていた。もともと錦鯉の飼育では塩を使う習慣があるくらいなので、魚にとっては何ということもない濃さだったのだと思います。
この非対称が、この記事でいちばん伝えたいことです。魚が平気な顔をしていても、野菜はもう限界にいることがある。魚の様子を見て「まだ大丈夫」と判断すると、野菜を全部失います。
この実験の失敗は、塩分濃度を測らなかったこと
枯らしたこと自体は、やってみた以上は仕方がありません。もったいなかったのは別のところです。
濃度を測っていなかったので、どこで境界を越えたのかが分からない。味が変わった時点が何パーセントだったのか、枯れはじめが何パーセントだったのか。測っていれば、そのまま「この作物はここまで」という表が作れたはずでした。
手引きによれば、スイスチャードのようなアカザ科は海水の6分の1から3分の1という、かなり塩気のある水でも育つとされています。うちで枯れたということは、そこを超えていたのか、あるいは一気に上げすぎて馴らす時間がなかったのか。どちらなのかも、測っていないので言えません。
だから、これから試す人には強く言えます。電気伝導度の計測器を1本用意してから始めてください。数百円の塩で数千円の苗を失うより、測る道具を先に買うほうがずっと安く済みます。
もう一度やるなら|塩に強い作物と、好適環境水
いまの結論を書きます。塩分を上げていく方向は、少なくとも普通の葉物では行き止まりでした。だから、水を作物に合わせるのではなく、作物を水に合わせるほうへ発想を変えます。
候補として考えているのが、アイスプラントとオカヒジキです。どちらも塩気のある環境で育つ植物で、しかも食べられる。普通の葉物では塩が敵になりますが、この手の植物では条件になります。
もうひとつ気になっているのが、好適環境水です。岡山理科大学の山本俊政准教授が2010年に開発したもので、海水よりずっと薄い塩分で海水魚を飼うという発想の水です。海水魚と野菜を同じ水で、という組み合わせが成り立つとすれば、この方向でしょう。
いずれも、まだやっていません。やったら、この記事に追記します。
なぜアクアポニックスは海水では育たないのか
塩が植物に効く道すじは、大きく2つあります。
1つめが浸透圧です。植物は根から水を吸いますが、まわりの水の塩分が濃いと、逆に根から水が出ていきます。手引きはこれを「浸透圧の衝撃」と呼んでいます。水があるのに、脱水する。塩害で植物が枯れるときに起きているのは、これです。
2つめがナトリウムそのものの害です。塩分が高い環境では、ナトリウムが植物の中にたまって毒性を示します。生育が止まり、葉が傷みます。
この2つがあるので、手引きは海水は植物にとって理想的ではないとはっきり書いています。ただし同じ段落で、「それでも、より低い塩分でなら有用な植物を育てることは可能」とも続けています。ここからが本題です。

塩分の濃さで、育つものが変わる
手引きの記述を、濃い順に並べます。数字はすべて海水の強さを1としたときの割合です。
| 塩分の濃さ | 育つもの | 補足 |
|---|---|---|
| 海水そのまま(1) | ほぼ不可 | 普通の野菜は浸透圧の衝撃とナトリウム毒性で育たない |
| 海水の3分の1〜2分の1 | 耐塩性の植物 | オカヒジキ属など、塩に強い種の適した範囲 |
| 海水の6分の1〜3分の1 | ビート・チャード | アカザ科は塩への耐性が高く、容易に育つ |
| 海水の10分の1 | トマト・バジル | 養分濃度を上げる、接ぎ木するなどの工夫が要る |
| 淡水(0) | ほぼ全部 | うちを含め、家庭の装置はここ |
この表のいちばんの発見は、スイスチャードの位置です。アカザ科の植物は塩への耐性が高く、海水の6分の1から3分の1という、かなり塩気のある水でも容易に育つと書かれています。
うちの栽培槽の主力もスイスチャードです。ただし、さきほど書いたとおり、うちの実験ではそのスイスチャードも枯れました。塩に強い部類でも、上げすぎれば落ちます。「強い」は「無制限」ではない、というのがここでの教訓です。

耐塩性の植物という選択肢
もっと濃い側には、そもそも塩水で育つ植物の一群があります。手引きはこれをハロファイト(耐塩性の種)と呼び、乾燥地や塩害地で生産を高めうるものとして紹介しています。
名前が挙がっているのは、オカヒジキの仲間、シーフェンネル、ハマアカザの仲間、アッケシソウの仲間。日本でも海辺に生える植物や、食材として流通しているものが含まれます。
これらの適した塩分は、海水の3分の1から2分の1。さらに濃い環境に耐える種もあると書かれています。
面白いのは、これらが単なる「我慢して育つ植物」ではないことです。手引きは、付加価値の高い特産作物として扱われるものがあると書いています。穀物として使われるトウジンビエやキヌア、燃料用に育てられるものもある。塩水を持て余している場所では、これが資源になります。
トマトやバジルも、10分の1までなら
意外だったのがここです。手引きは、トマトやバジルのような一般的な作物でも、海水の10分の1までなら相当な生産が可能だと書いています。
ただし条件付きです。そのままではなく、個別の農法上の工夫を採り入れることが前提とされています。挙げられているのは、養分の濃度を上げること、植物を事前に馴らすこと、耐塩性の台木に接ぎ木すること、環境制御を改善すること、そして密植することです。
家庭の装置で、ここまで揃えるのは現実的ではないでしょう。淡水でも実ものは難しいのに、塩分という条件が乗るからです。ただ「塩気があるからもう無理」ではない、と知っておく意味はあります。
そして、報告のなかでいちばん意外なのがこの一文です。塩分の下で育てた作物は、風味や食味、日持ちの点で淡水のものより優れるとされています。塩は、生育には不利でも、品質には有利に働くことがある。
日本の家庭で、実際にやるとしたら
ここからは、条件を日本の家庭に引き寄せて考えます。
海水魚を飼いながら野菜を育てたいという場合、いちばん素直な答えは「同じ水では回さない」です。海水魚が必要とする塩分は、ほとんどの野菜が耐えられる範囲を超えています。魚の側に合わせれば野菜が死ぬ——うちの錦鯉と葉物で起きたのが、まさにこれの小さい版でした。
現実的なのは汽水の生き物を選ぶことです。塩分を落とした水で飼える魚と、塩に強い植物を組み合わせる。手引きが紹介している事例も、この考え方の延長にあります。
もう一つ、日本で起こりやすいのが意図しない塩分の上昇です。塩水を使っていなくても、蒸発が続いて足し水だけを繰り返すと、水に溶けた成分は濃くなっていきます。とくに雨が入らないハウスの中では、この現象が起きやすい。
魚の病気の治療で塩を使ったあとの水も同じです。塩浴した水はシステムに戻さないと繰り返し書いているのは、そのためです。魚には効く濃度でも、野菜には十分すぎる。うちはそれを、実験のほうで先に確かめてしまいました。
塩分を測るには
塩の話をするなら、測り方にも触れておく必要があります。塩分は、見ても匂っても分かりません。
家庭で使えるのは、水に挿すだけで数秒で読める電気伝導度の計測器です。水に溶けている成分の総量を、電気の通りやすさで見るもので、水質で見るべき5つの数値のひとつにも入っています。塩分そのものを表示する機能が付いた機種もあります。
大事なのは、絶対値より変化の向きです。同じ設備で同じ時刻に測り続けて、じわじわ上がっているなら、蒸発と足し水で濃くなっているということ。横ばいなら、出ていく量と入る量が釣り合っています。
上がり続けているときの手当ては単純です。足し水ではなく、水を一部入れ替える。3分の1までなら、できあがった水と細菌を壊さずに薄められます。
汽水でやるなら、どの生き物か
塩分を落とした水、いわゆる汽水でやる場合についても、考え方を書きます。うちの実験は淡水を上げていく方向でしたが、こちらは海水を下げていく方向です。
汽水は、海と川が混じる場所の水です。そこには両方に耐える生き物がいて、日本の身近な水辺にもいます。魚の選び方の基本は淡水と同じで、その水温とその塩分で健康に暮らせるかを最初に確かめます。
ただし難易度は確実に上がります。調整する変数が1つ増えるからです。水温、pH、アンモニアと亜硝酸、硝酸塩。そこに塩分が加わります。しかも塩分は、蒸発で勝手に濃くなる方向へ動きます。
そして植物の側の選択肢が狭まります。塩に強い植物が、育ててみたい野菜と一致するとは限りません。「海水魚も飼えて、好きなレタスも穫れる」という組み合わせは、まず成立しません。うちがレタスとスイスチャードで確かめたとおりです。
それでも挑むなら、順番があります。まず淡水で1年回して、装置と自分を慣らす。次に測る道具を用意する。そのうえで塩分を上げるのではなく、塩に強い作物のほうへ寄せる。この順ならやり直しがききます。

この技術が本当に光る場所
塩の話を追っていくと、この技術の位置づけが見えてきます。
手引きは、海水や汽水の養殖と農業を統合することで、沿岸部や塩害を受けやすい地域に、これまでの農業ができなかった食料生産の道が開けると書いています。土が塩をかぶって使えなくなった土地でも、土を使わないこの方法なら作物が作れる。
同じことは、乾燥地についても言われています。歴史の記事で触れたとおり、統合した系の水の使用量が池での養殖の5パーセントだったという報告もあります。水が足りない場所、土が使えない場所。ここでこの技術は本領を発揮します。
逆に言えば、土も水も豊かな日本の家庭で「効率」を理由にこれを選ぶ必要はありません。儲かるのかという問いに慎重な答えしか返せないのも、結局は同じ理由です。
→ 容器ごとの記録を、次に迷ったときに引き出せる
台帳でできることを、もう少し詳しく
まとめ
海水そのままでは育たない。けれど薄めれば育つ。しかも薄め方の度合いで、育つ作物がきれいに分かれます。
アカザ科は海水の6分の1から3分の1、トマトやバジルは10分の1まで。そして塩に強い植物の一群は、もっと濃い水でも育ちます。
数字は国連食糧農業機関の手引きの該当節で確認しました。うちの実験は濃度を測っていないので、順番と結果だけが記録です。次にやるときは、測ってから始めます。
よくある質問(FAQ)
Q. アクアポニックスの水に塩を入れるとどうなりますか。
A. うちの錦鯉の設備で試したときは、まず穫れた葉が塩辛くなり、次に葉が傷んで生育が止まり、最後は完全に枯れました。リーフレタスもスイスチャードも同じです。一方で錦鯉には最後まで問題が出ませんでした。魚が平気でも、野菜は限界にいることがあります。
Q. 魚は塩に強いのに、野菜が先に枯れるのはなぜですか。
A. 耐えられる幅が違うからです。錦鯉の飼育では塩を使う習慣があるほど魚は塩に耐えますが、普通の葉物は浸透圧の衝撃とナトリウムの害で先に落ちます。魚の様子を基準に判断すると、野菜を全部失います。
Q. アクアポニックスは海水でできますか。
A. 海水そのままでは普通の野菜は育ちません。浸透圧の衝撃とナトリウムの害が出るためです。ただし薄めれば成立し、どこまで薄めるかで育てられる作物が変わります。
Q. どのくらいの塩分なら野菜が育ちますか。
A. 国連食糧農業機関の手引きによると、ビートやスイスチャードなどアカザ科は海水の6分の1から3分の1、トマトやバジルは10分の1までなら相当な生産が可能とされています。ただし後者は養分濃度を上げるなどの工夫が前提です。
Q. 海水魚と野菜を一緒に育てられますか。
A. 同じ水で回すのは現実的ではありません。海水魚が必要とする塩分は、ほとんどの野菜が耐えられる範囲を超えています。汽水で飼える生き物と塩に強い植物を組み合わせるほうが成立します。
Q. 塩水で育てた野菜は味が落ちませんか。
A. 手引きは逆のことを書いています。塩分の下で育てた作物は、風味や食味、日持ちの点で淡水のものより優れるとされています。生育には不利でも、品質には有利に働くことがあります。
Q. 塩分はどうやって測りますか。
A. 水に挿すだけで数秒で読める電気伝導度の計測器が手軽です。大事なのは絶対値より変化の向きで、同じ時刻に測り続けて上がっていくなら蒸発と足し水で濃くなっています。そのときは足し水ではなく、3分の1までの部分的な入れ替えで薄めます。
Q. 汽水でアクアポニックスをやるのは難しいですか。
A. 難易度は上がります。水温やpHに加えて塩分という変数が増え、しかも塩分は蒸発で勝手に濃くなる方向に動くからです。まず淡水で1年回してから、塩分を上げるのではなく塩に強い作物へ寄せる順番をおすすめします。
Q. 淡水でやっているのに塩分が上がることはありますか。
A. あります。蒸発した水を足し続けると、水に溶けた成分は濃くなっていきます。雨が入らないハウスではとくに起きやすいので、定期的に数値を確認してください。魚の塩浴に使った水をシステムに戻さないのも同じ理由です。

