「アクアポニックスの野菜は、硝酸塩が多いのでは」という心配をよく聞きます。魚のフンを栄養にしているので、硝酸塩が野菜に溜まるのではないか、という話です。
先に結論を書くと、アクアポニックスだから多い、ということはありません。硝酸塩の量を決めるのは、育て方が水耕か土かではなく、光と温度だからです。
ただし「だから安全です」で終わらせると、今度は逆に雑になります。公の資料に当たって、順に見ていきます。
まず、ADIと野菜を直接比べてはいけない

「日本人の硝酸塩の摂取量はADIを超えている」という話がよく出てきます。数字だけ見ればそのとおりです。
農林水産省によれば、硝酸塩のADIは体重1キログラムあたり1日3.7ミリグラム(硝酸イオンとして)。一方で日本人の摂取量は、20歳から64歳で1日およそ289ミリグラム、1歳から6歳で129ミリグラムという調査があります(平成12年)。
ただし、ここが肝心なところです。ADIは、食品添加物や農薬など「意図して使うもの」に対して設けられた指標です。もともと野菜に入っているものを当てはめるために作られた数字ではありません。
農林水産省も、「野菜由来の硝酸塩摂取量とADIを直接比較するのは適当でないと考えられます」と書いています。同じ単位でも、意味が違うということです。
そもそも、野菜には多い


日本人が摂っている硝酸塩の大半は、野菜からです。添加物として摂っている分は、ごくわずかしかありません。
量が多いのは葉物です。農林水産省の資料では、こまつなとチンゲンサイが100グラムあたり0.5グラム(500ミリグラム)で最も多い部類とされています。硝酸塩は葉に溜まるので、葉を食べる野菜ほど当たります。
大事なのは、これが土で育てた野菜の数字だという点です。アクアポニックスに限った話ではありません。スーパーで買うこまつなにも、同じだけ入っています(水耕栽培との違い)。
決めているのは、水ではなく光

では何が量を決めているのか。農研機構の低減化マニュアルに、はっきり書かれています。光が強く、生育温度が低いほど、植物の中で硝酸を使う働きが高まり、硝酸イオンは下がる。
仕組みとしては、こういうことです。根から吸った硝酸塩は、光合成でできたエネルギーを使ってアミノ酸やタンパク質に変えられます。光が足りないと、この変換が進まず、硝酸塩のまま溜まります。
だから同じマニュアルには、遮光はしない、覆いの資材は透明度を保つ、施設内の温度を上げすぎないと書かれています。水耕か土かは、そこに出てきません。
うちは初年度、まさに逆をやりました。夏の温度を下げるつもりで、遮光率の高いネットをハウスの上に掛けたのです。生育が落ちたのはそのとき気づきましたが、硝酸塩の面でも逆効果だったことに、あとで気づきました(覆うのは水面だけでいい)。
収穫の時刻でも変わる

もうひとつ、すぐできることがあります。晴れた日が続いたあとの、午後に収穫することです。
朝は、夜のあいだに硝酸塩が使われずに残った状態です。日が当たって光合成が進むと、そのぶん減っていきます。曇天の翌日は避ける、というのも同じ理由です。
同じ株でも、いつ採るかで中身が変わる。これはアクアポニックスでもそのまま使えます。朝のうちに採って涼しい時間に片づけたくなりますが、硝酸塩だけで言えば午後のほうが下がっています。
水の数値と、野菜の中身は別の話

アクアポニックスをやっていると、水の硝酸塩を測る機会があります。保ちたい範囲は5〜150ミリグラム毎リットルです(水換えが要らない条件)。
ただしこの数値が高いと野菜も高くなる、という単純な比例にはなりません。水の数値は水質を見るためのもので、野菜の中身は光と温度で決まるからです。
とはいえ、水の硝酸塩が上がり続けているなら別の問題があります。野菜が吸いきれていない、つまり餌の量と栽培面積が釣り合っていない状態です。そちらは水質の側で見直してください(水質管理)。
気にしすぎないほうがいい、という話

ゆでれば、水に溶け出すぶんは減ります。それは事実です。
ただ、そこまでする必要があるかというと、野菜を食べないほうの損のほうが大きいと考えられています。欧州の評価でも、野菜からの硝酸塩の摂取について、食べることの利益のほうが勝るとされました。
硝酸塩は体内で亜硝酸に変わりうるので、乳児については注意が要るとされています。ただ、それも野菜をやめる話ではなく、離乳食で葉物だけを大量に与えない、という程度の話です。
心配なら、まず光を当てて、晴れた日の午後に採る。そこまでやったら、あとは普通に食べていいと思います。
よくある質問
アクアポニックスの野菜は、硝酸塩が多くて危ないですか。
アクアポニックスだから多い、ということはありません。硝酸塩の量を決めるのは、育て方が水耕か土かではなく、光と温度だからです。こまつなやチンゲンサイは、土で育てても100グラムあたり500ミリグラムほど含みます。
ADIを超えていると聞きましたが。
その比べ方が正しくありません。ADIは食品添加物や農薬など、意図して使うものに対して設けられた指標です。農林水産省も「野菜由来の硝酸塩摂取量とADIを直接比較するのは適当でない」と書いています。
日本人はどれくらい摂っているのですか。
20歳から64歳で1日およそ289ミリグラム、1歳から6歳で129ミリグラムという調査があります(平成12年)。そのほとんどが野菜からです。添加物として摂っている分は、ごくわずかです。
硝酸塩を減らすには、どうすればいいですか。
光を当てることです。光が強いほど、植物の中で硝酸が使われて減ります。遮光しない、覆いを汚さない、温度を上げすぎない。そして晴れた日が続いたあとの午後に収穫するのが効きます。
曇りが続いたときは、どうしますか。
収穫を1日ずらしてください。曇天の翌日は、硝酸塩が下がりきっていません。晴れた日の午後まで待つほうが、同じ株でも下がります。
水の硝酸塩の数値が高いと、野菜も高くなりますか。
そのまま比例するわけではありません。水の数値は水質を見るためのもので、野菜の中身とは別の話です。ただし水の硝酸塩が上がり続けているなら、野菜が吸いきれていないということなので、そちらは見直してください。
気になる場合、どう食べればいいですか。
ゆでると水に溶け出すぶんは減ります。ただ、そこまで気にする必要があるかというと、野菜を食べないほうの損のほうが大きいと考えられています。欧州の評価でも、野菜を食べる利益のほうが勝るとされました。
まとめ
アクアポニックスだから硝酸塩が多い、ということはありません。量を決めているのは、育て方が水耕か土かではなく、光と温度です。
「摂取量がADIを超えている」という話は、比べ方そのものが正しくありません。ADIは意図して使うものに対する指標で、農林水産省も直接比較は適当でないと書いています。
減らしたいなら、遮光しない、覆いを汚さない、温度を上げすぎない。そして晴れた日が続いたあとの午後に収穫する。これだけで、同じ株でも下がります。
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