アクアポニックスの方式は、大きく3つです。培地を敷くメディアベッド、水に浮かべるDWC、管に流すNFT。
どれを選ぶかは、「初心者向けかどうか」では決まりません。何を育てたいかで決まります。そして規模を大きくしたとき、方式ごとに弱点の出る場所が違います。
鷲林寺アクアファームでは3方式とも作りました。DWCだけが中規模まで育ち、メディアベッドとNFTは小規模で止まりました。なぜそうなったのかを、順に書きます。
- 方式は大きく3つ。培地を敷くメディアベッド・水に浮かべるDWC・管に流すNFT。
- 選ぶ基準は「初心者向けかどうか」ではなく「何を育てたいか」です。
- うちは3方式とも作りました。中規模まで育ったのはDWCだけ。水が多いぶん、大きくしても崩れにくい方式です。
- メディアベッドは培地の値段・入れ替えの手間・重さが、NFTは温度が、規模を上げると効いてきます。
何を育てたいかで、方式が決まる
この考え方は国連食糧農業機関の技術報告(2014年)にもまとめられています。メディアベッド・薄膜水耕・湛液型の3つは、この報告でも代表的な方式として整理されています。



トマトやナスのような実ものを作りたいなら、メディアベッドです。培地が株を支えてくれるので、背が高くなっても倒れません。根も広く張れるので、大きく育つ野菜に向いています。
レタスや小松菜のような葉物を量産したいなら、DWCです。水面に浮かべた板の穴に苗を差すだけなので、植えるのも収穫も速い。面積を広げるのも、板を増やすだけで済みます。
置く場所が限られているならNFTです。管の中を水が薄く流れるだけなので、同じ面積を作るのに要る水がいちばん少なくて済みます。棚に段を作って重ねることもできます。
迷ったら、小さくメディアベッドから始めるのがいいと思います。培地があるぶん失敗に強く、葉物も実ものも試せます。何を作りたいかは、作ってみてから分かることが多いからです。育てる野菜はおすすめの葉物と実物を見てください。
メディアベッド|大きくすると3つが効いてくる

培地を敷いた箱に苗を植え、そこへ魚の水を回す方式です。培地が株を支え、同時に細かいごみを受け止めて、バクテリアの住み場所にもなります。3方式のなかでいちばん素直で、小さく作るぶんには扱いやすい。
ただし、大きくすると3つが効いてきます。1つ目は培地の値段です。面積に比例して要る量が増えるので、広げようとした途端に材料費がふくらみます。
2つ目は入れ替えの手間です。培地は洗えば繰り返し使えますが、リセットするときは全部出して洗うことになります。これが、想像しているよりずっと重い作業です。洗う時間の話はアクアポニックスの培地に書きました。
3つ目は重さです。水だけでも重いところに、培地の重さが加わります。ベランダや二階に置くなら、そもそも載せられるかどうかを先に確かめてください。床が抜ける話ではなく、置けないので作れない、という話になります。
DWC|水が多いぶん、大きくしやすい


水を張った槽に板を浮かべて、その穴に苗を差す方式です。根はそのまま水に垂れます。培地が要らないので、材料費も入れ替えの手間もかかりません。
いちばんの強みは水量です。水が多いほど、温度も水質もゆっくりしか動きません。同じ日に同じ場所へ置いても、水の少ない方式とは振れ方がまるで違います。だから、大きくしても崩れにくい。中規模まで育ったのは、この方式でした。
弱点は、植えるものを選ぶことです。浮き板の浮力には限りがありますし、培地が無いので株を支える力もありません。重いもの、背の高いものは、そのままだと傾いて沈みます。
できないわけではありません。支柱を立てる、上から吊る、といった工夫をすれば作れます。ただ、その手間を毎株ぶん払うことになるので、効率としては良くない。実ものを作りたいなら、培地が最初から支えてくれるメディアベッドのほうが素直です。
立ち上げに時間がかかるのも、水量が多いことの裏返しです。バクテリアが行き渡るまで、小さい設備より日数がかかります。進み具合は硝化サイクルの数値で見てください。
NFT|水は少ないが、温度に弱い

管を斜めに並べて、その中を薄く水を流す方式です。管の底に流れる水に根が触れて、そこから吸います。総水量がいちばん少なくて済むのが特徴で、同じ面積を作るのに要る水はDWCよりずっと少ない。棚に段を作れるので、狭い場所にも向いています。
ただし、水が少ないことがそのまま弱点になります。夏は水温が上がり、冬は凍ります。DWCなら水の量で吸収できる外気の変化が、NFTでは直に効きます。屋外に置くなら、この2つの季節をどう越すかを先に決めてください。
もうひとつが根詰まりです。根が管の中で育って固まると、そこで流れが止まります。水位が浅いので、少し塞がるだけで水路が変わり、あふれた水が外へこぼれます。気づくのが遅れると、設備の水がどんどん減っていきます。
定期的に管の中をのぞいて、根が育ちすぎていないか見てください。収穫のたびに古い根を取り除くだけでも違います。
垂直に積む方式について
管を縦に立てて、横に開けた穴に苗を差す方式もあります。ここでは試していないので、実際に使った感触は書けません。
やっている人から聞いた話としては、同じ床面積でたくさん作れるのが利点だそうです。面積あたりの株数でいえば、ほかのどの方式よりも多く取れます。
手間として挙がっていたのは2つです。液がつたって垂れることと、塩ビの管に沿ってコケが出ること。縦に長いぶん、水が通る面が全部そのまま外に出ているので、掃除する面積も増える、ということだと思います。
聞いた話だけで判じるのは避けますが、「面積を稼げるかわりに、掃除が増える」という筋は、通っていると感じます。
規模を上げるとき、どの順で考えるか


順番はろ過が先です。ろ過が足りないまま魚を増やすと、アンモニアと亜硝酸が処理しきれずに溜まり、pHまで下がっていきます(野菜が育たない)。
次が魚、最後が野菜です。野菜だけ先に増やすと、栄養が足りずに全部が細くなります。この順番は、どの方式でも変わりません。魚の選び方はアクアポニックスの魚の選び方へ。
そして、大きくする前に一度考えてほしいのが置き場所です。メディアベッドなら重さ、NFTなら夏と冬の温度、DWCなら水を張った槽をどこに置くか。方式ごとに、場所に対する要求が違います。費用の目安は初期費用とランニングコストにまとめました。
よくある質問
初心者はどの方式がいいですか。
「初心者向け」で選ばないほうがいいです。何を育てたいかで決まります。トマトのような実ものを作りたいなら培地で支えられるメディアベッド、レタスなどの葉物を量産したいならDWC、置く場所が狭いならNFTです。
DWCでトマトは作れますか。
できないことはありませんが、支えるための工夫が要ります。浮き板の浮力に限りがあり、培地も無いので、重いものや背の高いものは、そのままでは支えられないからです。
支柱を立てる、株を吊るといった手当てをすれば作れますが、そのぶん手間がかかって効率が落ちます。うちでは、DWCは葉物に絞って使っていました。
メディアベッドを大きくすると、何が困りますか。
3つあります。培地の量がそのまま値段になること、入れ替えのたびに全部出して洗う手間がかかること、そして水と培地の重さが床にかかることです。小規模では気になりませんが、大きくすると全部効いてきます。
NFTは水が少なくて済むと聞きました。
本当です。管の中の水位が低くてよいので、同じ栽培面積ならDWCよりずっと少ない水で回せます。ただし、そのぶん温度が振れます。夏は上がり、冬は凍る。水の量は、そのまま温度の安定につながっています。
NFTで気をつけることは何ですか。
根詰まりです。根が管の中で固まると、そこで流れが止まってあふれます。水位が浅いので、少し塞がるだけで水路が変わります。定期的に管の中をのぞいて、根が育ちすぎていないか見てください。
垂直に積む方式はどうですか。
ここでは試していないので、実際のところは分かりません。やっている人から聞いた話としては、同じ床面積でたくさん作れるのが利点で、液がつたって垂れることと、塩ビの管に沿ってコケが出ることが手間だとのことでした。
まとめ
方式は「初心者向けかどうか」ではなく、何を育てたいかで選んでください。実ものならメディアベッド、葉物ならDWC、場所が狭いならNFTです。
大きくすると、弱点の出る場所が違います。メディアベッドは培地の量と重さと洗う手間。NFTは水が少ないぶんの温度と、根詰まり。DWCは、重いものと背の高いものに工夫が要ること。
効いてくるのは総水量です。水が多いほど温度も水質も動きにくく、大きくしても保ちます。中規模まで育ったのがDWCだったのは、つまりそういうことでした。
→ 費用と失敗の記録をnoteで読む
あわせて読みたい:アクアポニックスを始める
仕組みの全体はアクアポニックスとは?、立ち上げは立ち上げ手順、培地は種をまくものと育てるものへ。

