アクアポニックスは、水を入れて魚を放せば始まるものではありません。魚の出す毒を処理してくれるバクテリアが、まだどこにもいないからです。
そのバクテリアを育てる期間を「立ち上げ」と呼びます。ここを飛ばすと、数日から二週間ほどで魚が落ちることがあります。見た目はきれいな水のままで、です。
やっかいなのは、よく紹介されている「水だけ回して待つ」やり方では、待っても立ち上がらないことです。なぜそうなるのかを説明したうえで、魚を死なせずに立ち上げる手順を、日数と数値で追えるところまで書きます。


- 水だけ回して待つ「空回し」では立ち上がりません。バクテリアの餌になるアンモニアが入っていないからです。
- やり方は2つありますが、魚を入れずに立ち上げれば、魚を死なせる心配がありません。
- 完了は見た目ではなく数値で判定します。アンモニアと亜硝酸がどちらも出なくなったら完了。水のきれいさでは分かりません。
- よく売られているテトラの「テスト 6in1」など、6項目の試験紙にアンモニアは入っていません。アンモニア用を別に用意します。
アクアポニックスは、その「空回し」では立ち上がらない

魚を入れる前に、水とポンプだけを何日か回しておく。これを空回しと呼びます。多くの解説が「三日から一週間ほど空回しを」と書いていて、その間にバクテリアが定着すると説明しています。
ここが誤解のもとです。硝化バクテリアにとってアンモニアは餌です。餌のない水槽では、いくら回しても数は増えません。

ただし、空回しがまったく無意味というわけではありません。目的を分けて考えてください。
配管から水が漏れないか、ポンプが空気を吸わないか、ヒーターが安全に動くか。こうした器具の確認には十分に意味があります。実際、水を張ってみて初めて分かる漏れは珍しくありません。
意味がないのは、硝化を立ち上げる工程としての空回しです。バクテリアを増やしたいなら、水を回すことではなく、餌を入れることが要ります。

育てているのは、このろ材の表面に住むバクテリアです。水そのものではありません。だから水を何日回しても、住民が増える理由がないのです。
立ち上げには二つのやり方がある
バクテリアの餌をどう用意するかで、道が二つに分かれます。魚に出してもらうか、自分で入れるかです。

魚を入れて立ち上げる方法は、昔から使われてきました。丈夫な魚を数匹だけ先に入れ、その魚が出すアンモニアでバクテリアを育てます。手軽ですが、立ち上がるまでの数週間、その魚は毒のある水の中で過ごすことになります。
英語圏ではこの魚を、使い捨ての魚という意味の言葉で呼ぶことがあります。国連食糧農業機関の手引きも、魚は立ち上げが終わってから入れるよう書いています。アンモニアや亜硝酸にさらされた魚は、泳ぎや餌の食べ方が鈍り、病気にもかかりやすくなることが分かっています。
もう一方が、魚を入れずに立ち上げる方法です。バクテリアの餌を自分で入れて育て、水ができてから魚を迎えます。手間は増えますが、魚に無理をさせません。
どちらを選ぶか
すでに魚を買ってしまった、あるいは今日から始めたい、という場合は、魚を入れる方法しかありません。その場合は魚を必要最小限にして、毎日測ってください。
そうでないなら、魚を入れないほうを選んでください。初めてだと数値の変化に気づきにくく、魚を死なせてしまいやすいです。魚を入れないやり方なら、失敗しても失うものがありません。
魚を入れずに立ち上げる手順
ここからが本題です。やることは単純で、アンモニアを入れて、毎日測って、減るようになるまで待つ。それだけです。
何をアンモニア源にするか
国連食糧農業機関がまとめたアクアポニックスの手引きでは、細かく砕いた魚の餌がいちばん良いアンモニア源だとされています。生物学的に安全だから、というのが理由です。

つまり、多くの人は何も買い足さずに始められます。餌をすりつぶして入れ、腐らせてアンモニアを出させるだけです。ただし量の見当がつけにくく、水も少し濁ります。
量を計算して入れたいなら、アンモニア水を使う手があります。薬局で売っている日本薬局方のものは、規格上アンモニアと精製水だけでできているので、この用途に使えます。
注意してほしいのは、同じアンモニアでも掃除用の製品は使えないことです。界面活性剤が入っていると、バクテリアのほうが死んでしまいます。振ってみて泡立つものは避けてください。家畜のフンも、大腸菌などが入る恐れがあるので使いません。
どれだけ入れるか
目標は1〜2mg/Lです。3mg/Lを超えたら水を換えて下げてください。
ここは競合の解説がほとんど触れないところですが、濃ければ早く立ち上がるわけではありません。アンモニアが濃すぎると、育てたい硝化バクテリアそのものが働けなくなります。亜硝酸も同じで、高くなりすぎると二段目のバクテリアが毒されて、立ち上げが止まります。
日本薬局方のアンモニア水はおよそ10%なので、1mLにおよそ100mgのアンモニアが入っている計算になります。水が100リットルの設備を2mg/Lにするなら、必要なのは200mg、つまり2mLです。水が30リットルの小さな設備なら0.6mLほど。スポイトか計量スプーンで測ってください。
原液は刺激が強いので、換気をして、皮膚や目に付けないように扱います。バケツの水で薄めてから、流れのあるところへ少しずつ入れるのが安全です。
測る道具を用意する
この手順は、測らないと一歩も進みません。入れたアンモニアが減ったかどうかが、バクテリアが育っている唯一の証拠だからです。
ここで落とし穴があります。よく売られているテトラの「テスト 6in1」など、六項目まとめて測る試験紙には、アンモニアが入っていません。測れるのは硝酸塩・亜硝酸塩・pH・硬度・塩素などで、肝心のアンモニアが抜けています。
アンモニア専用の試験紙を別に用意するか、アンモニアも測れる試薬キットを使ってください。立ち上げ中は毎日測るので、試験紙のほうが続けやすいはずです。
亜硝酸と硝酸塩のほうは、六項目の試験紙で足ります。この二枚があれば、立ち上げに必要な数値はすべて追えます。
水を張るときのカルキ抜きも忘れないでください。塩素は硝化バクテリアにも効いてしまうので、せっかく入れた餌が無駄になります。
→ 個人で始めたアクアポニックスの費用と失敗をnoteで読む
何日目に、何が起きるのか
毎日測っていると、数値が順番に動いていくのが分かります。この順番を知っておくと、いま自分がどこにいるかが分かり、待つのが苦になりません。

最初の数日は、入れたアンモニアがそのまま残ります。まだ食べるバクテリアがいないからです。ここで「効いていない」と思ってやめてしまう人がいますが、まだ何も起きていないだけです。
一週間ほどで亜硝酸が出はじめます。これは一段目のバクテリアが働きだした合図で、いちばん嬉しい瞬間です。ただし亜硝酸も魚には毒なので、まだ魚は入れられません。
二週目あたりで亜硝酸が山になります。数値がいちばん荒れる時期で、ここが正念場です。三週目を過ぎると亜硝酸が下がりはじめ、代わりに硝酸塩が上がってきます。二段目のバクテリアが育った証拠です。
アンモニア・亜硝酸・硝酸塩がそれぞれどういう物質で、なぜこの順に動くのかは、アクアポニックスの硝化サイクル|いまどの段階かを数値で見分けるにまとめてあります。
完了は、こう判定する
「アンモニアと亜硝酸がゼロになったら完了」とよく書かれていますが、これだけでは足りません。たまたま今日ゼロだっただけかもしれないからです。

確実なのは、処理する速さで判定することです。アンモニアを1〜2mg/L入れて、翌日に測ってゼロになっていて、しかも亜硝酸も出ていない。ここまで来て、はじめて完成です。
この確認をしておくと、魚を入れた初日から安心して見ていられます。数値だけそろった状態で魚を入れると、処理が追いつかずに亜硝酸がぶり返すことがあります。

立ち上げを早くする三つの手
何も足さずに待つと、二十五日から四十日ほどかかります。急ぐ理由があるなら、短くする方法があります。

いちばん効くのは種菌をもらうことです。すでに動いている水槽やアクアポニックスがあれば、そのろ材をひとつかみ分けてもらってください。国連食糧農業機関の手引きも、既存のろ材を分けるのは非常に有効で、必要な時間を大きく縮めると書いています。
手近に動いている水槽がなければ、市販のバクテリア剤で代用します。
三つめが水温です。硝化バクテリアがよく働くのは17〜34℃で、そこを下回ると目に見えて遅くなります。同じ手引きは、条件がよければ完了まで25〜40日、水温が低ければ2か月かかることもあると書いています。冬に立ち上げを始めると、そのまま春まで終わらないこともあります。
屋外なら、立ち上げ中は日陰に入れる
これは日本語の解説でほとんど見かけないのですが、アクアポニックスでは効きます。

硝化バクテリアは、ろ材にしっかり住みつくまでのあいだ、光に弱いのです。国連食糧農業機関の手引きにも、硝化バクテリアはコロニーができるまで光に敏感で、日光は生物ろ過に相当な害を与えうると書かれています。
研究でも、紫外線に近い光は硝化バクテリアの両方の段階を、青い光は主にアンモニアを分解する側のバクテリアを邪魔すると報告されています(海の硝化バクテリアでの研究、1996年)。アクアポニックスは屋外に置くことが多く、植物用の強い照明を当てることもあるので、水槽の中だけを見ていると気づけません。
難しいことをする必要はありません。立ち上げが終わるまでのあいだ、ろ過槽やタンクに直射日光が当たらないようにするだけです。遮光ネットやすだれを一枚かけておけば足ります。
栽培槽にろ材を敷いている形なら、もともと日光が当たらないので何もしなくて大丈夫です。外付けのろ過槽やむき出しのタンクだけ気にしてください。
立ち上がった後に、やりがちなこと
完成してほっとしたところに、最後の落とし穴があります。
ひとつは、一度に魚を入れすぎることです。育ったバクテリアの量は、それまで入れていたアンモニアの量に釣り合っています。いきなり満員にすると処理が追いつかず、せっかく立ち上げた水がまた荒れます。少しずつ増やしてください。
もうひとつは、完成してから魚を入れるまで、間を空けすぎることです。バクテリアは餌がなくなると休みに入り、処理する力が落ちていきます。すぐ死んでしまうわけではないので慌てなくていいのですが、数週間空けるなら、その間もアンモニアを少しずつ与え続けてください。
長く空けた後は、亜硝酸が出ることがあります。そのときは餌を控えめにして、数日様子を見てください。
よくある質問(FAQ)
Q. 水だけ回す「空回し」に意味はないのですか?
A. 目的によります。配管の水漏れ、ポンプが空気を吸わないか、ヒーターが安全に動くかといった器具の確認には十分な意味があります。ただし硝化バクテリアを増やす工程としては意味がありません。バクテリアの餌はアンモニアなので、餌のない水槽では数が増えないためです。器具の確認と、バクテリアを育てる工程は別のものだと考えてください。
Q. 立ち上げにはどれくらいかかりますか?
A. 種菌を使わず、アンモニアの餌だけ入れて魚を入れない方法なら、水温20℃台で25〜40日が目安です。魚を入れて立ち上げると、その間、魚がアンモニアと亜硝酸にさらされます。動いている水槽からろ材を分けてもらうと、必要な日数を大きく縮められます。市販のバクテリア剤でも短くなることがあります。水温も効いていて、17℃を下回るとはっきり遅くなり、冬は2か月かかることもあります。
Q. アンモニアは濃く入れたほうが早く立ち上がりますか?
A. 逆です。1〜2mg/Lを目標にして、3mg/Lを超えたら水を換えて下げてください。アンモニアが濃すぎると、育てたい硝化バクテリアそのものが働けなくなります。亜硝酸も同じで、高くなりすぎると二段目のバクテリアが毒され、そこで立ち上げが止まります。急ぎたいなら濃度ではなく、種菌と水温で縮めてください。
Q. 六項目の試験紙を持っていますが、これで足りますか?
A. 足りません。テトラの「テスト 6in1」など、よくある六項目の試験紙は、硝酸塩・亜硝酸塩・pH・硬度・塩素などを測るもので、アンモニアが入っていません。立ち上げはアンモニアが減るかどうかを見る作業なので、アンモニア専用の試験紙か、アンモニアも測れる試薬キットを別に用意してください。
Q. 掃除用のアンモニア水でもいいですか?
A. 使えません。界面活性剤や香料が入っていると、育てたいバクテリアのほうが死んでしまいます。振ってみて泡立つものは避けてください。使うなら薬局で売っている日本薬局方のもののように、アンモニアと水だけでできているものを選びます。魚の餌を砕いて入れる方法なら、そもそもこの心配がありません。
Q. 立ち上げが終わったのに、まだ魚を用意できていません。
A. 数日から一、二週間なら問題ありません。バクテリアは餌がなくなると休みに入りますが、すぐ死ぬわけではなく、餌が戻れば比較的早く働きだします。ただし数週間以上空けるなら、その間もアンモニアを少しずつ与え続けてください。長く空けた後は、亜硝酸が出ることがあります。
Q. 屋外に置いていますが、日陰にする必要がありますか?
A. 立ち上げが終わるまでは、そのほうが確実です。硝化バクテリアはろ材にしっかり住みつくまで光に弱く、直射日光が生物ろ過をいためることがあります。外付けのろ過槽やむき出しのタンクには、遮光ネットやすだれを一枚かけてください。栽培槽にろ材を敷いている形なら、もともと日光が当たらないので何もしなくて大丈夫です。
次に見るのは、ここ
今どの段階か数値で確かめたいなら硝化サイクルへ。
水質の数字の見方を知りたいなら水質管理の基本へ。
水を換えなくていいのか迷っているなら水換え不要が成り立つ条件へ。
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