メダカが横向きに浮いている。頭を下にしたまま底から離れない。くるくる回るように泳ぐ。こうした姿を見つけたときに真っ先に知ってほしいのは、転覆病はほかのメダカにうつらないということです。慌てて全部を隔離したり、容器に薬を入れる必要はありません。
転覆病は感染症ではなく、体の浮き沈みを調節している浮き袋がうまく働かなくなった状態です。そして原因のほとんどは、低い水温での消化不良と餌の与えすぎ。
つまり薬ではなく、餌と水温で戻す病気です。この記事では、姿勢から型を見立てる方法、ダルマメダカが特になりやすい理由、そして治らなかったときにどう暮らすかまでを整理します。
転覆病とは|浮き袋が働かなくなった状態

メダカの背中側には、浮き袋という細長い袋があります。この中の空気の量を変えることで、体を浮かせたり沈めたりしています。人が息を吸って水に浮くのと似た仕組みで、メダカはほとんど泳がずに好きな深さにとどまることができます。
転覆病は、この調節がうまくいかなくなった状態をまとめて呼んだものです。特定の菌や虫が原因の病気ではないので、病名というより症状の呼び名に近い言葉です。だから「転覆病の薬」というものは存在せず、なぜ調節できなくなったのかを探して、そこを直すことになります。
どの型か|姿勢で見立てが変わる
まず姿勢を見てください。浮いたまま沈めないのか、底に沈んだまま浮けないのか、横向きや逆さで泳ぐのか。この3つは見た目が違うだけでなく、原因も逆になります。
浮いてしまう型は、浮き袋に空気が入りすぎているか、腸にガスがたまって体を押し上げています。消化不良と便秘がいちばん多い原因なので、まず餌を止めるのが正解です。
沈んでしまう型は逆に、浮き袋に空気が入らないか、体が重くなっています。ただし水温が低くて動けないだけ、ということもよくあります。水温計を入れて、いま何度かを確かめてから判断してください。
横向きや逆さで泳ぐ型は、浮き袋の左右差か、平衡をとる力が落ちています。ダルマ体型ではこれが体質として出ることがあり、その場合は治りません。次の章で、なぜダルマに多いのかを説明します。
ダルマメダカが転覆しやすい理由

ダルマメダカは、背骨のひとつひとつが融合して胴が縮んだ体型です。
高い水温で育てたときに現れやすい形で、できる仕組みはダルマメダカの作り方|高水温が生み出す突然変異と遺伝の秘密で詳しく書いています。この「体が詰まっている」ことが、そのまま転覆しやすさになります。
胴が縮んでも内臓の量は変わらないので、浮き袋や消化器官が狭い場所で押し合うことになります。少しガスがたまったり、消化が滞ったりするだけで姿勢が崩れるのは、この窮屈さが関係していると考えられています。
さらにダルマは泳ぐ力が弱く、ひれで姿勢を補うことも苦手です。だから「ダルマの転覆は宿命」と言われることがあります。実際、防ぎきることはできません。ただし起きる頻度は、餌と水温の管理でかなり下げられます。
転覆の引き金になる5つのこと
いちばん多い原因は、低い水温での消化不良です。メダカは水温が下がると消化そのものが止まります。それなのに餌を食べると、消化しきれないものが腸に残ってガスになり、浮き袋を押して姿勢を崩します。だから転覆は秋から春に集中します。
次に多いのが餌の与えすぎです。一度に多く食べると消化が追いつきません。沈む餌を底で食べ続けるのも負担になります。量と回数の目安はメダカの餌やり|量と回数の目安にまとめています。
便秘も引き金になります。膨れた腸が浮き袋を押すためです。お腹が膨れているなら、卵や内臓の病気とも見分ける必要があります(お腹が大きい・パンパンの見分け方)。まれに、体を打ったり細菌が入ったりして浮き袋そのものが傷むこともあり、この場合は回復が難しくなります。
ここから手当てに入ります。始めた日と、使った薬の名前と量を、どこかに控えておいてください。数日たつと必ず分からなくなりますし、うまくいかなかったときに何を変えればいいのかの手がかりは、その記録しかありません。メダカ台帳を使うと、水温が急に動く日の知らせと一緒に残せます。
手当ての順番
順番が大事です。まず餌を2〜3日止めます。消化不良と便秘なら、これだけで戻ることがあります。メダカは数日食べなくても弱りませんから、「かわいそうだから少しだけ」と与えるほうがかえって長引きます。
次に水温です。20〜25℃まで戻すと消化が動き出します。上げるときは1日1〜2℃ずつにして、28℃を超えないようにしてください。室内で加温するなら小さな容器で足りるので、ヒーターの選び方はメダカ水槽のヒーターの選び方を参考にしてください。
そのうえで水深を浅くします。浮き袋に頼らずに水面へ届く深さにすることで、体力の消耗を抑えられます。これは治療というより環境づくりですが、姿勢が崩れている個体にはかなり効きます。
0.5%(水1Lに塩5g)の塩水浴は、粘膜を守って体力の消耗を抑えます。ただし転覆そのものを治す手当てではありません。濃度と期間はメダカの塩浴の適切な濃度と頻度にあります。
メチレンブルーは効きません
ここは誤解が多いところです。転覆病にメチレンブルーを使うという話をよく見かけますが、これは効きません。メチレンブルーの承認された効能は「白点病、尾ぐされ症状、水カビ病」で(動物用医薬品等データベース(農林水産省 動物医薬品検査所))、いずれも体の表面に出る病気です。浮き袋の働きが落ちている状態には届きようがないからです。
体に白い点が散らばっていたり、綿のようなものが付いていて、感染を併発しているなら話は別です(白点病の記事)。えらが白っぽく褪せて呼吸が荒いならエラ病も疑ってください。ですが姿勢が崩れているだけなら、薬を入れる前に餌と水温を見直すほうが結果につながります。
治らないとき、どう暮らすか
2週間ほど手当てを続けても姿勢が戻らないなら、「治す」から「暮らせるようにする」へ切り替える判断もあります。特にダルマ体型は体質に近いので、戻らないことが珍しくありません。ここを認めるのは辛いのですが、認めたほうがメダカは楽になります。
やることは環境を合わせることです。水深を5〜10cmほどにして、泳がなくても水面に届くようにする。広さより深さを削るのが要点です。そして餌を浮くものに変えます。沈む餌は、底まで潜れない個体が食べられません。
流れは弱くしてください。姿勢を保てない個体は流れに逆らえません。ほかの個体と分けるのも大事で、泳げない個体は餌を取り負けますし、つつかれることもあります。単独か、少数の静かな容器がいちばんです。
こうした環境を整えれば、転覆したまま数年生きる個体もいます。姿勢が崩れていても、食べて泳いで卵も産みます。「治らない」は「終わり」ではありません。
冬に転覆させないための備え
転覆は冬の入口で決まります。水温が下がると消化が止まるのに、秋の感覚で餌を与え続けると、そのまま転覆につながるからです。15℃を下回ったら量と回数を落として、10℃を切ったら基本的に与えないという運び方にしてください。
水温の振れを小さくすることも効きます。浅い容器は外気でそのまま冷えるので、水量の多い容器にするか、発泡スチロールや断熱材で包んで振れを抑えます。越冬全体の考え方はメダカの冬越し|成否は秋で決まるにまとめています。
ダルマは屋外での越冬が普通体型より難しいので、冬は室内に入れることを検討してください。加温するなら20〜25℃で一定に保つのがよく、中途半端に上げ下げするほうが体には負担になります。
よくある質問(FAQ)
Q. メダカがひっくり返ったらどうすればいいですか?
A. まず餌を止めてください。2〜3日与えないだけで戻ることがあります。あわせて水温を確かめて、20〜25℃より低ければゆっくり上げます。それから水深を浅くして、泳がなくても水面に届く環境にしてください。薬を入れるのは最後で、多くの場合は必要ありません。
Q. 転覆病は何日で治りますか?
A. 消化不良や便秘が原因なら、餌を止めて2〜3日で姿勢が戻ることがあります。1週間ほどで戻る個体もいます。
一方、ダルマ体型で体質的に起きている場合や、浮き袋そのものが傷んでいる場合は、何日待っても戻りません。2週間ほど手当てを続けて変化がなければ、治すより暮らせるようにする方へ切り替えます。
Q. メダカの転覆病に塩浴は有効ですか?
A. 体力の消耗を抑えるという意味では有効ですが、転覆そのものを治す手当てではありません。0.5%(水1Lに塩5g)の塩水浴は粘膜を守り、姿勢を保てない個体の負担を軽くします。ただし原因が消化不良なら、効くのは塩ではなく絶食と加温です。順番を間違えないでください。
Q. 転覆病にメチレンブルーは効きますか?
A. 転覆病そのものには効きません。メチレンブルーの承認された効能は「白点病、尾ぐされ症状、水カビ病」で、いずれも体の表面に出る病気です。浮き袋の働きが落ちている状態には届きません。
体に白い点や綿のようなものが付いていて感染を併発しているなら別の話ですが、姿勢が崩れているだけなら、薬を入れる前に餌と水温を見直すほうが効きます。
Q. 転覆病はほかのメダカにうつりますか?
A. うつりません。転覆病は感染症ではなく、浮き袋の働きが落ちた状態です。ただし同じ容器の複数匹が同時に転覆したときは、低い水温や餌の与えすぎという共通の原因があると考えてください。うつったのではなく、全部が同じ条件に置かれているということです。
Q. ダルマメダカは転覆病を防げますか?
A. 完全には防げません。ダルマは背骨が融合して胴が短く、同じ量の内臓が狭い場所に収まっているため、体質として起きやすい体型です。
ただし秋のうちに餌を落とし、水温の振れを小さくして、冬は室内に入れることで、起きる頻度はかなり下げられます。防ぐより、起きにくい環境を作るのが現実的です。
まとめ|薬ではなく、餌と水温で戻す
転覆病はうつりません。浮き袋の働きが落ちた状態なので、感染を心配して全部を隔離する必要はありません。まず姿勢を見て型を確かめ、浮くのか沈むのか横向きなのかで見立てを分けてください。
手当ては、餌を止める、水温を20〜25℃に戻す、水深を浅くする、そして必要なら塩水浴。この順番です。メチレンブルーは転覆そのものには効かないので、薬から入らないでください。
ダルマメダカは体型のせいで起きやすく、治らないこともあります。そのときは浅い容器と浮く餌で暮らせるようにしてあげてください。転覆したまま何年も生きる個体は、実際にいます。
→ メダカ台帳の使い方を見る


