メダカの水槽の上に栽培槽を載せてみたけれど、野菜がどうにも細い。葉が小さいまま止まって、収穫というほどのものが穫れない。そういう話をよく聞きます。
世話が悪いわけではありません。ほとんどの場合、原因はもっと単純で、魚が出せる栄養に対して、野菜を植えすぎているだけです。そしてどれくらい足りないのかは、紙の上で計算できます。答えを先に書くと、20センチの錦鯉1匹ぶんの働きを、メダカで埋めるには約200匹要ります。
- 20センチの錦鯉なら1匹で育つレタス1株に、メダカは約200匹要る。60センチの水槽なら3本から7本ぶんの群れにあたる。
- 理由は餌の量。葉物1株に1日1.6〜2.5グラム要るのに、メダカ1匹が食べるのは0.012グラムしかない。
- だから直し方は「メダカを増やす」ではなく「野菜の株を減らす」。種を直に播いたなら間引く。
- 薬を使った水も、塩浴した水も、システムに戻してはいけない。野菜が傷む。

野菜が細くなるのは、世話ではなく餌の量で決まる
アクアポニックスで野菜が育つ道すじは、たどってみると一本道です。魚に入れた餌が、フンとして水に出る。それを細菌が硝酸塩に変える。野菜がその硝酸塩を根から吸って葉になる。この順番のどこにも、抜け道はありません。
だから野菜が受け取れる栄養の量は、突きつめると入れた餌の量で決まります。日当たりでも、水の量でも、容器の値段でもありません。餌を入れなければ、栄養はどこからも湧いてきません。

ここがメダカで引っかかるところです。メダカは1匹が軽く、食べる量もそれに比例して少ない。数十匹いても、1日に入る餌は指先でつまむほどの量にしかなりません。その量で葉物を何株も養おうとすれば、どれも細くなります。
錦鯉1匹ぶんを、メダカで集めると何匹になるか
グラムの話が続いたので、目に見える形に直します。
錦鯉といっても大きさはさまざまなので、体長で区切ります。20センチの錦鯉が1匹。売り場でよく見る、手のひらより少し大きいくらいの個体です。
この1匹が毎日出す量で、レタスがだいたい1株育ちます。同じ働きをメダカで埋めようとすると、およそ200匹。60センチの水槽に入るメダカが30匹から50匹ですから、水槽3本から7本ぶんの群れを全部集めて、やっとレタス1株という計算になります。
写真で見かける、レタスがずらりと並んだ栽培槽。あれを支えるには水槽が何十本も要ることになります。錦鯉なら数匹で済む話です。
| 錦鯉の体長 | 体重 | メダカ何匹ぶんか |
|---|---|---|
| 10センチ | 約20グラム | 約15〜35匹 |
| 20センチ | 約150グラム | 約100〜260匹 |
| 30センチ | 約480グラム | 約300〜850匹 |
体長が2倍になると、体重は8倍近くになります。だから10センチと30センチでは、同じ「錦鯉1匹」でも意味がまるで違います。比べるときは、必ず体長をそろえてください。
なお、かさだけで比べるともっと差が開きます。20センチの錦鯉はメダカ330匹ぶんの体積があります。それでも餌の量では200匹ほどで釣り合うのは、メダカが体のわりによく食べるからです。実験室の飼育手順では1日に体重の3%を与えていますが、50グラムを超える魚では1〜2%が目安とされています。
体の小ささのわりには健闘している、ということです。それでも足りないことに変わりはありませんが、「メダカだからまるで役に立たない」わけではありません。
なぜ200匹になるのか
ここからは、その200匹がどこから出てきた数字なのかを書きます。順に3つの資料をつないでいます。
まず、メダカ1匹の体重。緯度の違う野生のメダカを比べた研究に実測値があり、屋外で1年育てた個体で374.7〜512.6ミリグラムと報告されています。
次に、1日に食べる量。飼料を比べた研究の飼育手順に、体重の3%を毎日与えるとあります。0.4グラムの3%は0.012グラム。粒でいえば数粒です。
最後に、野菜の側。国連食糧農業機関の手引きは、葉物なら1平方メートルあたり1日40〜50グラムの餌、植える間隔は1平方メートルに20〜25株としています。割り算すると、レタス1株につき1.6〜2.5グラムです。
1.6〜2.5グラムを、1匹あたりの0.012グラムで割る。答えがおよそ100匹から220匹です。実のなる野菜はもっと要るので、ミニトマト1株なら400匹から1800匹になります。
断っておくと、この匹数はどこかが公表している数字ではありません。3つの資料を掛け合わせた、こちらの計算です。ただ、元になった数字はどれも原典を開いて確かめています。
ひとつ補足があります。メダカは体のわりによく食べます。いま使った3%は実験室の飼育手順の値で、50グラムを超える魚では1〜2%が目安とされています。だから、かさが200倍違うわりには、届く栄養の差はそこまで開きません。体の小ささのわりには健闘している、ということです。


「メダカ何匹」という数字は、どこにも無い
「メダカ何匹で野菜がどれだけ育つのか」という数字は、探しても出てきません。「30尾くらいから」「魚と野菜は1対1」といった目安は見かけますが、どこから来た数字なのかは書かれていないことがほとんどです。
なかには「商業アクアポニックスの実証データによると、ティラピア約10匹でトマト1株」と書いている記事もあります。ただ、その記事が挙げている出典を実際に開くと、どちらにもその数字は載っていません。権威のある言い回しだけが先に流通している状態です。
60センチ水槽で、どこまで穫れるのか
自分の水槽に当てはめてみます。60センチの水槽なら、メダカは30匹から50匹くらいが上限です。1匹あたり1〜2リットルとして計算した数で、これ以上詰めると水が持ちません。
30匹なら1日の餌は0.34グラム、50匹でも0.77グラムです。これを葉物の目安である1平方メートルあたり45グラムで割ると、養える栽培面積は75平方センチから170平方センチ。はがき1枚から2枚ぶんです。
レタス1株が必要とする面積は400平方センチから500平方センチですから、1株ぶんの3分の1から6分の1にしかなりません。栽培槽に穴が8つ空いていても、埋められるのはその一部だということです。

逆から見ると、栽培槽を1平方メートル用意した場合に要る餌は1日40〜50グラム。メダカの餌の徳用サイズが150グラムなので、その袋が3日ちょっとで空になる量です。ひと月で10袋。メダカに与えられる量ではありません。

アクアポニックスの写真でよく見る、レタスがびっしり並んだ栽培槽。あれが成り立っているのは、それだけの餌を毎日入れられる魚がいるからです。上の写真がその例で、うちでレタスを密に植えている栽培槽の下にいるのは錦鯉です。
自分の容器で確かめるなら、1日に与えている餌を料理用のはかりに載せて、45で割ってください。出てきた数字(平方メートル)に1万を掛ければ、養える面積が平方センチで出ます。
足りないときに、どちらを動かすか
魚と野菜のつり合いは、二つのつまみで決まります。どちらか一方だけを動かすと、必ずもう一方が崩れます。

メダカで野菜が細くなっているのは、この図の左下です。魚が少ないまま、野菜だけが多い状態にあります。
右下へ動かす、つまり魚を増やす道はあります。ただしメダカは1匹あたり1〜2リットルが目安で、入れられる数に先に上限が来ます。60センチの水槽なら30匹から50匹で、そこから倍にはできません。
だから現実に動かせるのは、上へ、つまり野菜を減らす方向だけです。魚と野菜のどちらを増やすかという一般の話は、アクアポニックスで野菜が育たないに詳しく書きました。
足りないのは、野菜の側を減らせば解決する
ここまで読むと「メダカでは無理」と思えてきますが、そう決めつけるのは早いです。足りないのなら、野菜のほうを減らせばいいからです。


同じ餌の量でも、8株に分ければ全部が細くなり、2株に絞ればその2株はちゃんと育ちます。栽培槽が大きいほど有利に見えますが、メダカの場合はむしろ逆で、広い栽培槽ほど失敗しやすくなります。
うちで葉の色が薄くなったのも、これでした。栽培槽に種を直に播いて、芽が出たぶんをそのまま育てたので、株が多くなりすぎたのです。間引いていれば、残した株はもっと濃い色になっていたはずです。
直に播くと、どうしてもこうなります。芽が出そろった時点では小さいので、多く見えません。込み合っているのに気づくのは、葉が触れ合うくらいまで育ってからです。そのころには、どの株も薄いままになっています。
魚を増やすほうで釣り合わせる、という考え方もあります。ただメダカの場合、入れられる匹数に先に上限が来るので、間引くほうが早くて確実です。種は少なめに播いて、それでも込み合ったら早めに抜く。抜いた芽は、そのままベビーリーフとして食べられます。
だから市販のキットを選ぶときも、大きいほうを選ぶ理由がありません。栽培部分が小さいものでちょうどよくなります。穴が余るなら、使わない穴は塞いでおけば水はねも蒸発も減ります。
メダカで組むなら、この順で決める
餌の量が上限を決めていると分かれば、選ぶ基準もはっきりします。
まず、育てるものを葉物とハーブに絞ります。手引きの目安では、実のなる野菜は1平方メートルあたり1日50〜80グラム。葉物よりさらに多く要ります。トマトやナスをメダカで狙うのは、はじめから分の悪い賭けです。
ハーブは、この条件と相性のいい作物です。バジルやルッコラは収穫の単位が葉1枚から数枚で、株が小さいうちから使えます。レタスのように「1玉になるまで待つ」必要がありません。
葉物を選ぶなら、結球しないリーフレタスが向いています。玉にならなくても、外葉から順に摘んでいけるからです。育てられる野菜の並びはアクアポニックスのおすすめ野菜にまとめました。
もうひとつ、栽培方式でも要る量が変わります。ヴァージン諸島大学の資料は、いかだ式なら1平方メートルあたり60〜100グラム、砂利床や薄膜式ならその25%ほどとしています。水を薄く流す方式のほうが、少ない餌でも成り立ちやすいということです。
最後に、目的の置きどころです。メダカのアクアポニックスは、食卓を支える仕掛けにはなりません。それよりも、水換えの回数が減ることのほうが実際に効いてきます。
魚が出した窒素を植物が引き取るので、水の傷み方が変わります。この効き目はメダカの量でも十分に出ます。どこまでなら水換えが要らないのか、その条件はアクアポニックスは水換え不要?にまとめました。
いちばん危ないのは、薬と塩を使ったとき
ここは、メダカを飼っている人ほど気をつけてほしいところです。調べたかぎり、日本語のアクアポニックス記事にはどれも書かれていませんでした。
メダカの飼育では、尾ぐされや白点が出たときに薬を使い、調子を崩したときには塩を入れます。ふつうの容器なら、規定量を守って薬浴させ、終わったら水を換えればそれで済みます。
アクアポニックスでは、それができません。ヴァージン諸島大学らがまとめた資料に、はっきり書かれています。魚の寄生虫や病気を治す薬は使うべきでない、野菜がそれを吸収して濃縮しうるから。そして病気の治療や亜硝酸の毒性を下げるために塩を入れるやり方は、作物にとって有害であると。
塩浴のほうは、意外に思う人が多いかもしれません。メダカ飼育では困ったときの定番の手当てですが、同じ水で野菜を育てているなら話が変わります。ナトリウムは野菜がほとんど使わないので、入れた分が設備に残り続けます。
さらに、抗菌剤は硝化を担う細菌にも効きます。アンモニアを処理していた側が弱ると、数日遅れで水質が崩れる。そのとき魚はまだ元気に見えるので、気づいたときには手遅れになりがちです。
だから原則はひとつです。薬も塩も別の容器で使い、その水はシステムに戻さない。どの薬が食用に使えないのか、観賞魚用の承認はどうなっているのかは、アクアポニックスで魚病薬を使うとどうなるかに整理しました。
立ち上げの前に、魚を入れない
もうひとつ、メダカで始める人がつまずきやすいところがあります。水ができる前にメダカを入れてしまうことです。
硝酸塩を作る細菌は、水槽をセットした日にはまだいません。餌になるアンモニアが入って、そこから数週間かけて増えていきます。その期間、水の中はアンモニアと亜硝酸が高い状態になります。
メダカは丈夫な魚ですが、丈夫であることと、毒のある水で平気なことは別です。魚を入れずに立ち上げる手順はアクアポニックスの立ち上げ手順に書きました。この方法なら、失敗しても失うものがありません。
水温は、野菜のほうが先に音を上げる
メダカは水温の幅が広い魚で、屋外なら夏も冬も越します。ところが同じ水につながっている野菜は、そこまで丈夫ではありません。
手引きが挙げている植物の適温は16〜30℃です。真夏の屋外で水温が30℃を超えると、メダカは平気な顔をしていても、葉物のほうが先に伸びを止めます。夏に急に育たなくなったら、まず水温を疑ってください。
水温が上がると、水に溶ける酸素も減ります。この対策は夏の酸欠対策に書きました。育たない理由が水温以外にもあるときは、野菜が育たない3つの理由を先に見てください。
繁殖のほうは、むしろ得意
野菜の話ばかり書きましたが、メダカの側から見ると悪いことばかりではありません。
先に、よくある誤解をひとつ。栽培槽と魚の水槽は、分かれているのが標準です。水はポンプで栽培槽へ上げ、通ったあと魚のところへ戻ります。だから野菜の根が魚の水槽に垂れることはありません。根が産卵床になる、という話を見かけますが、ふつうの組み方では起こりません。
それでも繁殖に向いているのは、水質のほうです。魚が出した窒素を野菜が引き取り続けるので、硝酸塩が上がりにくい。産卵と稚魚の時期は水が荒れやすいので、ここが安定しているのは効きます。
産卵床は、魚の水槽の側に別に用意してください。市販のものでも、毛糸をたばねたものでも構いません。

ただし卵をそのままにしておくと、親メダカが食べてしまいます。増やしたいなら、産卵床ごと別の容器に移してください。
まとめると、増やすのは魚ではなく、減らすのは野菜
メダカのアクアポニックスで野菜が細くなるのは、世話が足りないからではありません。入れられる餌の量に対して、野菜を植えすぎているだけです。
レタス1株に1日1.6〜2.5グラム。メダカでいえば100匹から220匹ぶん。この数字を持っておけば、自分の容器で何株までなら育つのかは、餌を量るだけで出せます。そして足りないと分かったときにやることは、魚を増やすことではなく、植える数を減らすことです。種を直に播いたなら、育ちきる前に間引いてください。
穫れる量は多くありません。それでも、水換えの回数は確実に減ります。そちらを本命に置くと、この仕組みは長く続けられます。
→ 個人で始めたアクアポニックスの費用と失敗をnoteで読む
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よくある質問
メダカのアクアポニックスで、野菜は何株まで育てられますか。
1日に与えている餌の量を量って、45で割ってください。それが養える栽培面積(平方メートル)です。60センチの水槽にメダカ30〜50匹なら、餌は1日0.34〜0.77グラムで、面積にすると75〜170平方センチ。レタス1株が400〜500平方センチ要るので、1株ぶんの3分の1から6分の1にあたります。葉物を1株だけ小さく穫るか、ハーブを数株というあたりが現実的な線です。
レタス1株を育てるのに、メダカは何匹必要ですか。
およそ100匹から220匹という計算になります。メダカ1匹の体重が0.375〜0.513グラム、1日に食べるのが体重の3%で0.011〜0.015グラム。いっぽうレタス1株に要る餌は1.6〜2.5グラムなので、割るとこの数字が出ます。公表されている数値ではなく、3つの資料を掛け合わせた計算です。
メダカを増やせば、野菜も育ちますか。
増やせる数に限りがあるので、解決にはなりません。メダカは1匹あたり1〜2リットルが目安で、60センチの水槽なら30〜50匹ほどが上限です。レタス1株ぶんの100匹以上を入れようとすれば、先に水のほうが持ちません。栽培する株数を減らすほうが、確実に結果が出ます。
メダカの容器に塩を入れてもいいですか。
同じ水で野菜を育てているなら、入れないでください。ヴァージン諸島大学らの資料は、病気の治療や亜硝酸の毒性を下げるために塩を入れるやり方は作物にとって有害である、と明記しています。ナトリウムは野菜がほとんど使わないため、入れた分が設備に残り続けます。塩浴が必要なときは別の容器で行い、その水は戻さないでください。
トマトやナスは育てられますか。
おすすめしません。手引きの目安では、実のなる野菜は1平方メートルあたり1日50〜80グラムの餌が要ります。1株あたりでは6.25〜20グラムで、メダカに換算すると400匹から1800匹ぶん。家庭の水槽で届く数ではありません。葉物とハーブに絞ってください。
メダカのアクアポニックスでも、水換えは減りますか。
減ります。野菜の収穫量は少なくても、魚が出した窒素を植物が引き取る働きは変わりません。ただし足し水は毎日のように必要で、蒸発した分を補い続けると水に溶けているミネラル分が濃くなっていきます。水換えが必要になる条件は別の記事にまとめています。

