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アクアポニックスの魚が病気に|治療した魚は戻していいのか

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錦鯉の群れ。アクアポニックスの魚の健康管理を解説する記事のアイキャッチ アクアポニックス

アクアポニックスで魚が病気になったとき、いちばん迷うのがここだと思います。隔離して治療した魚を、システムに戻していいのか。

先に答えを書きます。塩水浴だけで治した魚は戻せます。でも魚病薬で薬浴した魚は、戻さないのが原則です。(例外は、魚も植物も観賞用の場合だけです。後半で場合分けします。)理由は薬の成分にあります。

魚病薬の中には、発がん性等を理由に食用の魚に使ってはならないと定められている成分があり、しかも薬の入った水は野菜の根まで届くからです。

アクアポニックスに魚病薬を入れるとどうなるかの断面図。別の容器で治療すれば薬はバケツの中だけでシステムの水は汚れず野菜は育ち続けるが、システムに薬を入れると配管を通って栽培槽へ上がり根から吸い上げて葉まで回り、ろ過を担う菌が減って野菜がしおれる
水は必ず循環する。飼育槽に入れたものは、配管を通って野菜の根まで届く。

まずこの図を見てください。アクアポニックスは水が循環しているので、飼育槽に入れたものは配管を通って栽培槽まで上がり、野菜の根まで届きます。

左のように別の容器で治療すればシステムの水は汚れませんが、右のようにシステムに直接薬を入れると、薬が根から吸い上げられ、ろ過を担う菌も減ります。

アクアポニックスの全景。上の栽培槽で野菜が育ち、下の飼育槽に魚がいる
上の栽培槽と下の飼育槽が同じ水でつながっている。だから魚に入れたものは、必ず野菜の根まで届く。

結論|戻していいもの、いけないもの

アクアポニックスの魚が病気に|治療した魚を戻していいか。分かれ道は「薬浴に進んだかどうか」。進んだら、その個体はシステムから外れる
分かれ道は「薬浴に進んだかどうか」。進んだら、その個体はシステムから外れる。

順番に見ていきます。まず魚を食べるつもりかどうかで、使える薬が変わります。次に何で治したかで、その魚を戻せるかが決まります。そして使った水と器具の扱いは、どちらの場合も共通です。

アクアポニックスの魚が病気に|システムに戻していいもの、いけないもの。「魚は戻せるが、水は戻さない」。塩水浴でも、塩水そのものは植物を枯らす
「魚は戻せるが、水は戻さない」。塩水浴でも、塩水そのものは植物を枯らす。

覚えることは「魚は戻せることがあるが、水は戻さない」です。塩水浴で治した魚は、真水で数日かけてならしてから戻せます。一方、薬を使った魚と、薬や塩の入った水は、システムに入れません。

塩水そのものを戻せないのは、植物が塩に弱いからです。これは薬より分かりやすい失敗で、少量でも根から吸い上げて枯れます。塩水浴のやり方はメダカの塩浴|0.5%の作り方と3〜7日の手順にまとめているので、濃度と期間はそちらを見てください。

何を食べるかで、答えが変わる

アクアポニックスの魚が病気に|何を食べるかで、答えが変わる。変わるのは「治療した魚を戻せるか」。薬をシステムに入れないことは、どの場合も共通
変わるのは「治療した魚を戻せるか」。薬をシステムに入れないことは、どの場合も共通。

ここで場合分けが必要になります。アクアポニックスには食べるものが2つあるからです。魚と、野菜です。どちらを食べるつもりかで、守るべき理由が変わります。

魚も野菜も食べるなら、いちばん厳しくなります。法令で使えない成分があり、そのうえ野菜も薬を吸います。魚は観賞用で野菜だけ食べる場合は、魚への薬の使用そのものは規制の対象外ですが、野菜が根から吸うので、戻せないことに変わりはありません。

逆に、魚を食べて植物は観賞用という場合は、そもそもニトロフラゾンとマラカイトグリーンが使えません。薬に進むなら「この魚は食べない」と決めることになります。

そしてどちらも食べない場合だけ、話が変わります。観賞魚と観葉植物で組んでいるなら、食品としての問題は無くなります。この場合は、真水で数日かけて薬を抜いてから戻すという判断もあり得ます。ふつうの観賞魚の飼育でやっていることと同じです。

ただし4通りとも共通していることが1つあります。薬をシステムに直接入れないことです。ろ過を担う菌が減ることと、植物に薬害が出ることは、食べるかどうかと関係なく起きるからです。

魚は食用か、観賞用か

アクアポニックスの魚が病気に|魚は食用か、観賞用か。法令の線は「魚を食べるか」で引かれる。でも野菜はどちらの場合も食べる
法令の線は「魚を食べるか」で引かれる。でも野菜はどちらの場合も食べる。

まず線を引いておきます。食用動物に使用してはならない医薬品の成分(農林水産省 畜水産安全管理課)という資料に、食用動物に使ってはならない成分が15物質挙げられています。

この「食用動物」の範囲には「食用に供するために養殖されている水産動物」が含まれています。つまり食べるつもりで育てている魚は、この規制の対象です。

逆に言えば、観賞用として育てている魚には当てはまりません。観賞魚用の魚病薬を、承認どおりに使うぶんには問題ないということになります。ここは正確に分けておきたいところです。

ただしアクアポニックスには、もうひとつ食べるものがあります。野菜です。魚が観賞用でも野菜は食べるので、話はここで終わりません。

野菜は、薬を吸うのか

水面に群がって餌を食べる魚。餌やりのときがいちばんよく観察できる
餌やりのときがいちばんよく観察できる。寄ってこない個体がいたら、その日に確かめる。
アクアポニックスの魚が病気に|野菜は、薬を吸うのか。分かっているのは「吸う」ことと「物質による」こと。安全性が確かめられた話ではない
分かっているのは「吸う」ことと「物質による」こと。安全性が確かめられた話ではない。

吸います。水耕栽培のレタスを使った研究では、水耕栽培のレタスが薬剤を根から吸収し、体の中へ移っていくことが実測されています。根に留まるものと、葉まで上がってくるものがあります。

ただし、どれくらい吸うかは物質によって大きく違いました。根にたまりやすさで数百倍の開きがあり、根から葉へ上がる割合にも差があります。何がその差を決めているのかは、この研究では分かっていません。分子量でも、水と油へのなじみやすさでも、はっきりした関係は出なかったと書かれています。だから「どんな薬でも同じように溜まる」とも、「この薬なら大丈夫」とも言えないということです。

そして、ここが大事なところなのですが、「どの魚病薬が、野菜にどれだけ蓄積するか」までは分かっていません。分かっているのは「吸うこと」と「物質によること」までです。

安全だと確かめられた話ではない、というのが正確なところです。アクアポニックスの水の中の抗菌剤について総説が出るほど、これは研究の途中にある論点です。

加えて、植物そのものへの害も報告されています。魚を治しても野菜が育たなくなるなら、システムとしては失敗です。

薬を使った魚を戻せない、3つの理由

アクアポニックスの魚が病気に|薬を使った魚を戻せない3つの理由。3つのうち2つは、魚が観賞用でも当てはまる。だから「戻さない」が原則になる
3つのうち2つは、魚が観賞用でも当てはまる。だから「戻さない」が原則になる。

1つ目が、いま見た野菜への移行です。2つ目は、抗菌剤がろ過を担う菌にも効いてしまうこと。アンモニアを分解してくれている菌が減れば、水質は一気に崩れます。この仕組みはアクアポニックスの硝化サイクルで数値の見方まで書いています。

3つ目が、植物への直接の害です。そしてこの3つのうち2つは、魚が観賞用でも当てはまります。だから「魚が食用かどうか」にかかわらず、薬を使った魚と水はシステムに戻さない、が原則になります。

どの薬が、食用に使えないのか

アクアポニックスの魚が病気に|魚病薬と、食用への使用。出典は農林水産省 畜水産安全管理課の資料。推測ではなく、名指しされている成分
出典は農林水産省 畜水産安全管理課の資料。推測ではなく、名指しされている成分。

食用動物に使用してはならない医薬品の成分(農林水産省 畜水産安全管理課)が挙げている15物質のうち、観賞魚の魚病薬に関係するのは2つです。ニトロフラゾンマラカイトグリーンで、理由は発がん性等、食品中では「不検出」であることが求められています。

ニトロフラゾンはグリーンFゴールド顆粒の主成分、マラカイトグリーンはアグテンやヒコサンZの主成分です。つまりよく使われる魚病薬が、そのまま該当します。

正確を期すと、エルバージュエースの主成分であるニフルスチレン酸は、この15物質には入っていません。ただし承認されている対象は観賞用のコイ・フナ・キンギョで、食用の魚への承認はありません。

観パラDやメチレンブルーも同じで、承認されているのは観賞魚です。つまり「名指しで禁止されていない薬なら食用魚に使える」わけではありません。

病気が出たときの手順

アクアポニックスの魚が病気に|病気が出たときの手順。薬に進むかどうかが分かれ道。進んだら「戻さない」と決めておくほうが迷わない
薬に進むかどうかが分かれ道。進んだら「戻さない」と決めておくほうが迷わない。

手順そのものは観賞魚と大きく変わりませんが、薬に進むかどうかが分かれ道になるところが違います。そこを越えたら、その個体はシステムから外れると決めておくほうが、あとで迷わずに済みます。

隔離容器は洗面器やタライで足ります。大事なのは、病気が出てから探さないことです。先に用意しておかないと、その日のうちに動けません。0.5%の塩水浴に使う塩も、常備しておくと安心です。

症状から病気の見当をつけるにはメダカの病気の見分け方|症状から原因をたどる早見表が使えます。メダカ向けにまとめたものですが、白点病や尾ぐされ病、水カビ病といった見分け方の考え方は、アクアポニックスで飼う魚にもそのまま当てはまります。

アクアポニックスは資本がある人のものだと思われがちですが、個人でも始められます。設備にいくら掛かったのか、どこでつまずいて、どう直したのか。鷲林寺アクアファームの実践の記録をnoteに書いています。見学に来られた方はのべ100人を超えました。
→ 個人で始めたアクアポニックスの費用と失敗をnoteで読む

だから、予防が段違いに大事になる

アクアポニックスは予防が段違いに大事。観賞魚なら「治せばいい」が、アクアポニックスでは治療の選択肢が狭い。だから予防
観賞魚なら「治せばいい」が、アクアポニックスでは治療の選択肢が狭い。だから予防。

観賞魚なら「病気になったら治せばいい」で済みますが、アクアポニックスでは治療の選択肢がもともと狭くなっています。薬に進んだ時点で、その魚はシステムに戻せなくなるからです。だから予防にかける手間の価値が、ふつうの飼育より大きくなります。

いちばん効くのは、新しい魚を必ず別の容器で2週間ほど見てから入れることです。持ち込みが最大の入り口で、しかもシステムに入れてしまうと薬が使えません。どの魚を選ぶかも含めて、アクアポニックスの魚の選び方を参考にしてください。

そして水質を数値で見ることです。アンモニアと亜硝酸はゼロが理想で、出たときに手を打てれば魚が弱る前に戻せます。見るべき数値はアクアポニックスで失敗する原因は水質管理にまとめています。

よくある質問(FAQ)

Q. 隔離治療が終わった魚は、システムに戻していいですか?

A. 塩水浴だけで治した魚なら戻せます。真水で数日かけてならし、体から塩を抜いてから、水温とpHを合わせて戻してください。一方、魚病薬で薬浴した魚は戻さないのが原則です。

薬は魚の体に取り込まれていますし、観賞魚用の薬には「いつまで待てば残らなくなるか」という基準そのものがありません。

Q. 魚も植物も観賞用なら、治療した魚を戻せますか?

A. 食品としての問題は無くなるので、戻すという判断はあり得ます。真水で数日かけて薬を抜いてから、水温とpHを合わせて戻してください。ふつうの観賞魚の飼育でやっていることと同じです。

ただしその場合でも、薬をシステムに直接入れるのは避けてください。ろ過を担う菌が減ってシステムが崩れますし、観葉植物にも薬害が出ます。

Q. 魚が観賞用なら、薬を使っても問題ありませんか?

A. 魚に薬を使うこと自体は問題ありません。農林水産省の規制は「食用動物」が対象なので、観賞用の魚には当てはまらないためです。ただし野菜は食べます。

薬の入った水が循環すれば根から入りますし、ろ過を担う菌も減ります。つまり魚が観賞用でも、薬を使った魚と水をシステムに戻さない理由は残ります。

Q. 野菜は薬の成分を吸い取るのですか?

A. 吸います。水耕栽培のレタスを使った研究で、根から吸収されて体の中へ移っていくことが実測されています。ただし、どれくらい吸うかは物質によって違い、根に留まるものと葉まで上がるものがあります。

「どの魚病薬がどれだけ蓄積するか」までは分かっていないので、安全だと確かめられた話ではない、というのが正確なところです。

Q. どの薬が食用の魚に使えないのですか?

A. 農林水産省の資料に、食用動物に使ってはならない成分が15物質挙げられています。そのうち観賞魚の魚病薬に関係するのは、ニトロフラゾンとマラカイトグリーンです。

ニトロフラゾンはグリーンFゴールド顆粒、マラカイトグリーンはアグテンやヒコサンZの主成分です。理由は発がん性等で、食品中では「不検出」であることが求められています。

Q. 塩水浴の塩水は、システムに戻せますか?

A. 戻せません。魚は戻せますが、塩水そのものは絶対に入れないでください。植物は塩に弱く、根から吸い上げて枯れます。これは薬より分かりやすい失敗で、少量でも影響が出ます。塩水浴は必ず別の容器で行い、使った水は捨ててください。

Q. 薬を使った魚は、その後どうすればいいですか?

A. そのまま別の容器で飼い続けるのがいちばん確実です。観賞用の水槽を1つ持っておくと、判断が楽になります。アクアポニックスでは治療の選択肢がもともと狭いので、「薬に進む=その個体はシステムから外れる」と決めておくほうが迷いません。

まとめ|薬に進んだら、その魚は戻さない

隔離治療した魚をシステムに戻していいかは、何で治したかで決まります。塩水浴だけなら、真水でならしてから戻せます。魚病薬を使ったなら、戻さないのが原則です。そして塩水そのものは、どちらの場合も戻しません。植物が枯れます。

理由は3つあり、そのうち2つは魚が観賞用でも当てはまります。野菜が根から吸うこと、ろ過を担う菌が減ること、植物に害が出ること。魚を食べるつもりなら、これに加えてニトロフラゾンとマラカイトグリーンが法令で使用を禁じられています。

裏を返せば、アクアポニックスでは予防の価値がふつうの飼育より大きいということです。新しい魚は2週間別容器で見る。過密にしない。餌を与えすぎない。水質を数値で見る。隔離容器を先に用意しておく。この5つで、薬に進む場面そのものを減らせます。

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この記事を書いた人
鷲林寺アクアファーム(兵庫県西宮市)

植木屋として5年、アクアリウムは10年。2021年から、義理の祖母が守ってきた農地を休耕地にしないためにアクアポニックスを始め、一人で続けています。書いているのは、その農場で実際に起きたことと、確かめられた範囲のことだけです。

農場見学は全国から受け入れてきました(現在は休止中)。ラジオ関西「羽川英樹 ハッスル!」、雑誌「Mer」などの取材を受けています。
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