アクアポニックスで育てる生き物として、オニテナガエビは少し変わった選択肢です。最大30cmにもなる大型の淡水エビで、大きく育ったオスは青く長いハサミを持ちます。そして何より食用として美味しい。
その代わり、壁が2つあります。ひとつは水温——熱帯性なので日本では通年の加温が必要。もうひとつは共食いで、隠れ家が足りないと脱皮直後の個体から順に減っていきます。この2つを押さえられれば、半年ほどで収穫できるサイズまで育ちます。


- 壁は2つ。水温と、共食いです。ここを押さえれば半年ほどで穫れる大きさになります。
- 適温は25〜30℃。熱帯性なので、日本では通年の加温が前提になります。
- 共食い対策がすべてを決めます。脱皮直後は殻が柔らかく、隠れ場所が無いと狙われやすくなります。
- 隠れ家は十分な数を。個体数より多めが目安です。そのうえでサイズをそろえ、餌を切らさないこと。
- 餌が足りないと、共食いも起きやすくなります。沈むタイプの餌を、十分に与えてください。
- 加温の設備が無い人、水換えをこまめにできない人には向きません。
- 迷ったら、隠れ家を足す。個体数より多めに。共食いで減る数を抑えやすくなります。
オニテナガエビとはどんなエビか
オニテナガエビは東南アジアを原産とする大型の淡水エビです。学名はマクロブラキウム・ロゼンベルギー。名前のとおり長いハサミ脚を持ち、大きく育ったオスでは、ハサミ脚がとても長くなります。

注目すべきは成長の速さです。おおよそ6か月で、食べられる大きさに育ちます。魚を育てるより回転が速く、「飼う」というより「育てて収穫する」感覚に近い生き物です。寿命が1〜2年と短いのも、その裏返しといえます。
体色は透明感のあるグレーがかった色で、大きく育ったオスのハサミは鮮やかな青になります。観賞価値も十分にあります。ただし後述するとおり、複数飼育では共食いという難題が待っています。
飼育に必要な水温と設備
最大の制約が水温です。オニテナガエビは熱帯性で、25〜30℃を外れると成長が落ちます。

18℃を下回ると活動が鈍り、さらに下がれば死に至ります。日本の屋外では冬を越せません。これは避けようのない事実で、日本で育てるなら通年の加温が前提になります。
屋内であればヒーターで対応できますが、大きな水量を年間通して加温する電気代は現実的な負担になります。屋外でまとまった量を育てるなら、ビニール温室で全体を保温するほうが効率的です。太陽熱を利用できるぶん、ヒーターだけに頼るより維持費を抑えられます。
水槽そのものは底面積が広いものを選びます。オニテナガエビは底を歩いて生活するため、水深より底の広さが重要です。加えて強めのろ過とエアレーションが必要になります。よく食べてよく汚す生き物なので、ろ過が追いつかないと水質が一気に悪化します。
共食い対策がすべてを決める

オニテナガエビ飼育の大きな損失要因のひとつが共食いです。ここを甘く見ると、順調に育っているつもりが、気づけば数が減っています。

なぜ起きるかというと、脱皮の直後は殻が柔らかく、無防備になるからです。エビは成長のたびに脱皮を繰り返すので、この無防備な瞬間が何度も訪れます。そこに隠れ家がなければ、他の個体に食べられます。
対策の中心は隠れ家を十分に用意することです。塩ビ管を切ったもの、植木鉢、ネットを丸めたもの——形は何でも構いません。隠れ家は、脱皮しそうな個体がいつでも逃げ込めるだけの数を入れます(個体数より多めが目安)。
あわせてサイズをそろえること。成長差が開くと、大きい個体が小さい個体を襲います。同時期に導入しても成長速度には個体差が出るので、明らかに差がついたら容器を分けるのが確実です。
そして餌を切らさない。餌が足りないと、共食いも起きやすくなります。オニテナガエビは雑食性で、沈下性の配合飼料をよく食べます。底で生活するエビなので、必ず沈むタイプを選んでください。
届いた稚エビの水合わせ
オニテナガエビは稚エビの状態で購入することが多く、導入時の水合わせが初期生存率を大きく左右します。

エビは水温とpHの急変で落ちやすい生き物です。とくにpHと水温の差には敏感で、袋の水と飼育水をいきなり混ぜると、それだけで落ちます。袋を浮かべて水温を合わせ、そのあと少しずつ飼育水を足して、時間をかけて慣らします。
移すときはエビだけをすくい、袋の水は入れないのが原則です。輸送中の袋の水は排泄物で汚れており、そのまま入れると水質を悪化させます。

アクアポニックスとの相性

オニテナガエビはよく食べてよくフンを出すため、植物にとっては優秀な養分源になります。魚と同じように、排泄物が硝化バクテリアを経て野菜の栄養に変わる仕組みは問題なく働きます。
ただし正直に言えば、アクアポニックスの生体として最適とは言い切れません。理由は次の3つです。
ひとつは加温コスト。25〜30℃を通年維持する電気代は、野菜の収穫で得られる価値を上回ることがあります。ふたつめは共食いによる歩留まりの悪さ。育てた数がそのまま収穫数にならないため、計画が立てにくい。3つめは底面積を必要とすること。同じ設備規模なら、魚のほうが多くの個体を養えます。
とはいえ、他では味わえない面白さがあるのも確かです。自宅で大型の淡水エビを育てて食べるという体験は、ティラピアやメダカでは得られません。コスト効率より面白さを取るなら、挑戦する価値は十分にあります。まずは温室環境が確保できるかを確認したうえで、少数から始めるのが現実的でしょう。
なお、アクアポニックス自体の立ち上げや水質管理に不安があるなら、先に丈夫な魚で仕組みを回せるようになってからのほうが安全です。オニテナガエビは水質にも水温にも要求が高く、初挑戦の相手としては難易度が高めです。
よくあるトラブル
水質の悪化がもっとも多い問題です。よく食べる生き物なので、餌の食べ残しとフンで一気に汚れます。エビだけの水槽なら、部分換水をこまめに行います。アクアポニックスに組み込んでいるなら定期の換水はせず、アンモニアと亜硝酸を測って、上がっていれば餌を減らします。それでも外れたときだけ、3分の1まで(私の目安)を換えます。

脱皮不全も起こります。脱皮の途中で力尽きる状態で、原因はミネラル不足や水質悪化です。カルシウムが不足すると殻がうまく作れないため、牡蠣殻などでカルシウムを補うと改善することがあります。
牡蠣殻を容器に沈めておけば、脱皮に要るカルシウムを少しずつ補えます。
そして脱皮直後の個体を死骸と間違えないでください。脱皮殻はエビの形をそのまま残すため、死んだように見えます。取り除く前に、本体が別の場所にいないか確認してください。なお脱皮殻はそのまま食べさせて構いません。カルシウム源になります。
→ 個人で始めたアクアポニックスの費用と失敗をnoteで読む
どこで見切るか|終わりの判断
線を決めておきます。
25〜30℃を通年で保てないなら、オニテナガエビは選ばない。熱帯性で、下がると育ちが落ちます。
隠れ家が足りないなら、増やしてから入れる。脱皮直後は殻が柔らかく、隠れ場所が無いと狙われやすくなります。個体数より多めが目安です。
数が減りはじめたら、隠れ家と餌の量を見直す。沈む餌を十分に。餌が足りないと、共食いも起きやすくなります。
水が濁る、においがする。水換え(アクアポニックスなら測って餌を減らすこと)で追いつかないなら、数が多い。よく食べてよく汚す生き物です。
半年ほどで穫れる大きさ。そこが区切りです。それ以上は成長の差が開いて、管理が難しくなります。
共食い対策は、満員電車と同じで、座席(隠れ家)が乗客より多ければ、押し合いは起きません。
よくある質問(FAQ)
Q. オニテナガエビの適水温は何度ですか?
A. 25〜30℃です。熱帯性のエビなので18℃を下回ると活動が鈍り、さらに下がれば死に至ります。日本の屋外では冬を越せないため、ヒーターかビニール温室での通年の加温が前提になります。
Q. オニテナガエビはどのくらいの大きさになりますか?
A. 最大で30cm前後まで育ちます。大きく育ったオスでは、ハサミ脚がとても長くなります。成長は速く、おおよそ6か月で食べられる大きさに育ちます。
Q. オニテナガエビの共食いを防ぐには?
A. 隠れ家を十分に用意することが重要です(個体数より多めが目安)。脱皮直後は殻が柔らかく無防備になるため、身を隠せる場所がないと狙われやすくなります。あわせてサイズをそろえ、餌を切らさず、過密にしないことも効果があります。
Q. オニテナガエビの餌は何を与えますか?
A. 沈下性の配合飼料が基本です。底で生活するエビなので、沈むタイプの餌を選びます。雑食性なのでよく食べます。餌が足りないと共食いも起きやすくなるため、十分に与えてください。
Q. オニテナガエビの寿命はどのくらいですか?
A. 1〜2年ほどです。成長が速いぶん寿命は短く、長期飼育より育てて収穫する対象と考えるのが実態に合っています。
Q. オニテナガエビはアクアポニックスに向いていますか?
A. フンが植物の養分になるため仕組み自体は成立します。ただし通年の加温コスト、共食いによる歩留まりの悪さ、必要な底面積の広さから、コスト効率では魚に劣ります。面白さを重視するなら挑戦する価値があります。
Q. 脱皮したあとの殻はどうすればよいですか?
A. そのまま残しておいて構いません。カルシウム源としてエビ自身が食べます。なお脱皮殻はエビの形をそのまま残すため死骸と間違えやすいので、取り除く前に本体が別の場所にいないか確認してください。
次に見るのは、ここ
ティラピアを飼うならティラピアの飼い方へ。
チョウザメを飼うならチョウザメの飼い方へ。
水質の数字の見方を知りたいなら水質管理の基本へ。
メダカで育てていて野菜が伸びないならメダカで野菜が育たないへ。

