水槽を飼っていた人がアクアポニックスを組むと、必ず一度は手が止まります。フィルターは、どこに付けるんだろう。
作り方の記事を読んでも、外掛けフィルターも上部フィルターも出てきません。ポンプと配管と培地だけで、水がきれいになることになっている。手抜きなのか、それとも何か見落としているのか。
答えは3つ目です。フィルターが要らないのではなく、栽培槽がフィルターそのものだから書かれていない。この記事では、その関係を整理します。
- 培地を敷いた栽培槽そのものが、生物ろ過の装置です。だから市販のフィルターは基本的に要りません。
- ろ過には3つの役割があります。ゴミを取る・毒を変える・吸着して取る。混同されがちですが、別のものです。
- 要らないのは、この装置が手抜きだからではありません。すでにその役目を担っているからです。
- 活性炭のような吸着材は使いません。取ってほしくない栄養まで吸ってしまいます。
- 魚を詰めるなら話は別です。表面積が足りなくなったら、足す判断が要ります。

ろ過には3つの役割がある
まず言葉を分けます。ひとくちに「ろ過」と言っても、まったく違う3つの仕事が混ざっています。
1つめが物理ろ過。食べ残しやフンの固まりを、物理的にこし取る仕事です。ウールマットやスポンジがこれをやります。
2つめが生物ろ過。細菌が、魚に有毒なアンモニアを亜硝酸へ、さらに硝酸塩へと変えていく仕事です。水槽が立ち上がるというのは、この細菌が育つことを指します。
3つめが化学ろ過。活性炭やゼオライトのような材料に、水中の物質を吸着させて取り除く仕事です。
アクアポニックスで話がややこしくなるのは、この3つのうち2つを培地が担い、残る1つは使わないほうがいいからです。順に見ます。

生物ろ過は、培地がやっている
いちばん大事なのが、この2つ目です。そして、ここを担っているのがハイドロボールなどの培地です。
国連食糧農業機関の手引きは、細菌についてこう書いています。細菌の群れは、あらゆる材料の表面で育つ。植物の根、水槽の壁、そして管の内側でも。そして、利用できる表面積の総量が、処理できるアンモニアの量を決めると続きます。
つまり、生物ろ過の能力は装置の値段ではなく表面積で決まるということです。市販のフィルターが優れているのは、狭い箱に大きな表面積を詰め込めるからで、原理そのものは変わりません。
ハイドロボールは表面に無数の穴がある材料です。それを栽培槽いっぱいに敷いて、そこに水を通し続ける。これは、大きな生物ろ過の箱を作っているのと同じことです。
しかも、そこには植物の根も張っています。手引きが最初に挙げているのが「植物の根」だったことを思い出してください。アクアポニックスの栽培槽は、ろ材と根が同居した、かなり贅沢な生物ろ過装置です。
物理ろ過も、実は起きている
2つ目の仕事も、意識しないうちに片づいています。培地の粒のすきまが、そのままこし網になっているからです。
水と一緒に運ばれてきた細かいフンや食べ残しは、粒の間で止まります。止まったものは、そこにいる細菌がゆっくり分解していきます。取り除くのではなく、その場で処理する。これが土のある畑に近い振る舞いです。
ただし、完全ではありません。分解しきれない分は泥として底にたまるので、ときどき吸い出します。うちがやっている沈殿の吸い出しは、物理ろ過の掃除にあたる作業です。
逆に言えば、掃除をしない設備では、この物理ろ過が詰まっていきます。水の通りが悪くなり、流れの届かない場所ができ、そこがよどんで臭いはじめる。ろ過の話と臭いの話が地続きなのは、そのためです。
化学ろ過だけは、使わない
3つ目は、はっきり「使わない」でいい仕事です。
活性炭は水槽で広く使われます。濁りや臭い、薬の成分などを吸着して取り除きます。それ自体は優秀なのですが、アクアポニックスでは目的と正面からぶつかります。
この装置は、魚の出したものを野菜の栄養に変えて使い切るための仕組みです。吸着材を入れると、その栄養まで吸い取ってしまいます。せっかく作った肥料を、途中で回収してしまうようなものです。
ゼオライトも同じ理屈です。アンモニアを吸着する性質があるので水槽では有効ですが、この装置ではアンモニアは細菌に食べさせたい。吸われては困ります。
使う場面があるとすれば、魚に薬を使ってしまったあとなど、システムから切り離した別の容器での話です。回っている水に入れるものではありません。

それでもフィルターが要る場合
ここまで「要らない」と書いてきましたが、例外があります。手引きも、その条件をはっきり書いています。
魚の密度が高い系では、表面積の大きい材料を入れた独立した生物ろ過の区画が必要になるとされています。逆に、魚の量と設計しだいでは、植物の根と水槽の壁だけで十分な面積になるとも書かれています。
つまり判断の基準は、魚の量に対して表面積が足りているかの一点です。培地を敷いた栽培槽が十分に大きければ足ります。魚を詰めているのに栽培槽が小さければ、足りません。
足りているかどうかは、感覚ではなく数値で分かります。アンモニアと亜硝酸がゼロ近くに保たれていれば足りているし、検出され続けるなら足りていません。
足りない場合の手当ては2つ。魚を減らすか、表面積を足すかです。表面積を足すなら、砂利や軽石、焼成粘土のような材料を、水がよく通る場所に入れます。市販のフィルターを追加するのも、この意味では正解です。
方式によって、事情が変わる
ここまでは培地を敷いた方式を前提にしてきました。3つある方式のうち、他の2つでは事情が変わります。
根を水に浮かべる方式や、薄い水を流す方式では、培地がありません。細菌が住める表面は、根と容器の壁と管の内側だけになります。だからこれらの方式では、別に生物ろ過の区画を用意するのが普通です。
家庭で始めるなら培地を敷く方式をすすめているのは、ここにも理由があります。箱2つとパイプで組めるうえに、ろ過の設計を別に考えなくて済むからです。
1つの部品に2つの役目を持たせている。単純に見える構造が意外と手堅いのは、そのためです。
硝酸塩は、どこへ行くのか
ろ過の話には続きがあります。細菌がアンモニアを硝酸塩まで変えたあと、その硝酸塩はどうなるのか。
水槽では、ここで手詰まりになります。硝酸塩を分解する道が普通は無いので、たまり続ける。だから定期的に水を換えて捨てます。水槽の水換えは、硝酸塩を捨てる作業だと言い換えられます。
アクアポニックスでは、ここに出口があります。硝酸塩は野菜が根から吸って葉になります。だから水を捨てる理由が原理的に消える。これがこの装置のいちばん賢いところです。
ただし、つり合っている場合に限ります。魚が多くて野菜が少なければ、硝酸塩は余ります。逆に野菜が多くて魚が少なければ、栄養が足りず全部が細くなる。ろ過の設計と、株数の設計は、じつは同じ問題の裏表です。
水槽で聞く「脱窒」という言葉も、この文脈では出番がありません。酸素の少ない場所で硝酸塩を窒素ガスに変える仕組みですが、この装置では硝酸塩は捨てたい物ではなく使いたい物です。わざわざ空へ逃がす理由がありません。
グリーンウォーターとの関係
もうひとつ、ろ過と混同されやすいのが水の色です。
水が緑がかるのは、植物プランクトンが増えている状態です。栄養と光がある証拠なので、この装置ではむしろ起きて当たり前とも言えます。場所によって放っていいものと、取るべきものが分かれるのはそのためです。
問題になるのは、ろ過ではなく物理的な詰まりです。ポンプの吸込口に絡めば流量が落ちますし、配管の内側にたまれば同じことが起こります。色そのものではなく、流れをふさぐかどうかで判断してください。
ちなみに、緑の水は魚にとって悪いものではありません。むしろ稚魚の餌になります。見た目が気になるかどうかの問題であって、ろ過が失敗している合図ではない、という点は押さえておきたいところです。
水槽の常識と、ここが違う
最後に、水槽をやってきた人がつまずきやすい点をまとめます。どれも、水槽では正しくてここでは危ない習慣です。
ろ材を洗う。水槽でも本来は控えめにする作業ですが、この装置ではさらに慎重に。培地のぬめりは汚れではなく細菌の住まいです。詰まった部分だけ、飼育水で軽くゆすぐ程度にします。
硝酸塩を水換えで下げる。水槽では硝酸塩は捨てるものですが、ここでは野菜の食料です。上がり続けるなら、水を換える前に株を増やすか餌を見直すほうが筋が通っています。
フィルターを止めて掃除する。培地は止められません。水が止まれば細菌が酸欠になるので、掃除も回したまま、部分的に行います。
考え方の軸は1つです。水槽は水をきれいにする装置で、アクアポニックスは水を使い切る装置。同じろ過という言葉でも、向いている方向が違います。
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まとめ
ろ過は3つ。ゴミを取る、毒を変える、吸着して取る。このうち前の2つを培地が担い、3つ目は使いません。
だからフィルターの置き場所を探して手が止まったなら、答えは「もう置いてある」です。栽培槽そのものが、根とろ材の同居した生物ろ過装置になっています。
表面積の話は、国連食糧農業機関の手引きの該当節で確認しました。細菌は根にも壁にも管の内側にも付く、という一文が、この記事の背骨です。
よくある質問(FAQ)
Q. アクアポニックスにろ過装置は必要ですか。
A. 培地を敷いた栽培槽が生物ろ過の役目を担っているため、基本的には別に必要ありません。ただし魚の密度が高い場合は、表面積の大きい材料を入れた区画を足す判断が要ります。
Q. なぜ市販のフィルターが要らないのですか。
A. 生物ろ過の能力は表面積で決まるからです。ハイドロボールなどの培地を栽培槽いっぱいに敷いて水を通し続けることは、大きな生物ろ過の箱を作っているのと同じです。植物の根も細菌のすみかになります。
Q. 活性炭は入れてもいいですか。
A. 入れないでください。活性炭は水中の物質を吸着しますが、この装置ではその栄養を野菜に使わせたいので、目的とぶつかります。ゼオライトも同じ理由で向きません。
Q. ろ過が足りているかは、どう判断しますか。
A. 数値で分かります。アンモニアと亜硝酸がゼロ近くに保たれていれば足りています。検出され続けるなら足りていないので、魚を減らすか、表面積を足してください。
Q. 水槽で使っていたろ材を流用できますか。
A. 表面積のある材料なら生物ろ過の助けにはなります。ただし活性炭やゼオライトなど吸着する材料は外してください。また、洗いすぎると細菌ごと失われます。

