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アクアポニックスは儲かるのか|見学者100人に必ず聞かれた質問に、正直に答える

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アクアポニックスは儲かるのかの記事のアイキャッチ。ハウスの栽培槽に並ぶ赤いリーフレタスを背景にしている アクアポニックス

見学に来た人が、いちばん最後に必ず聞くことがあります。ひととおり設備を見て、魚をのぞき込んで、野菜を触って、それから少し声を落として——「これ、儲かるんですか」。

延べ100人ほどを受け入れて、聞かれる質問はほぼ3つに落ち着きました。儲かるのか。初期費用はいくらか。難しいのか。しかも来た人のほぼ全員が、農家でも養殖業者でもなく、新規事業を探している人でした。

この記事では、そのうちの1つめに答えます。実際の金額まで書ききるのは無料の記事では無理があるので、ここでは「どこで儲かって、どこで詰まるのか」という構造を書きます。数字の話は最後に置きました。

この記事の結論(要点)
  • 家庭サイズでは、まず黒字になりません。穫れる量の上限が、餌の量で決まっているからです。
  • 売上の作り方は5つあります。野菜、魚、体験、情報、設備。野菜だけで考えると、たいてい行き詰まります。
  • 規模を上げるほど、難しくなるのは水ではなく販路と手間のほうです。
  • うちは有料見学に延べ100人ほどを受け入れました。ほぼ全員が、新規事業を探している人でした。
  • この記事は構造の話です。実際にいくらかかっていくら残るのかは、別に有料でまとめました。
アクアポニックスで売上を作る5つの道の図。野菜・魚は面積が要る、体験・情報は面積が要らない、設備は企業が入る道
面積が要る売り方と、要らない売り方。個人が入るのは下の2つです。

まず、何を売って売上にするのか

「アクアポニックスで稼ぐ」と言ったとき、実は5つの違う商売が混ざっています。ここを分けないまま考えるから、話が噛み合いません。

1つめは野菜です。いちばん素直な形ですが、あとで書くとおり、いちばん儲けにくい形でもあります。

2つめが魚。食べる魚を育てて売る道で、ティラピアチョウザメが候補に挙がります。ただし食用の魚を売るには、育てる以外の手続きと設備が必要になります。

3つめが体験です。見学、教室、企業向けの視察。うちが実際にやってきたのはここで、有料見学に延べ100人ほどが来ました。

4つめが情報。書く、教える、相談に乗る。5つめが設備で、作って売る、あるいは導入を請け負う道です。企業がアクアポニックスに参入するとき、たいていはこの5つめから入ります。

ここで大事なのは、「アクアポニックスは儲かるか」という問いの答えが、どれをやるかで正反対になるということです。野菜だけを見て「儲からない」と言うのも、設備販売だけを見て「儲かる」と言うのも、どちらも正確ではありません。

家庭サイズで採算が合わない理由

まず、いちばん多い期待から潰しておきます。ベランダや庭の装置で、家計が浮くほど穫れるか。答えは、ほぼ穫れません。

理由は根本的です。この装置で穫れる量の上限は、毎日入れている餌の量で決まっています。魚が小さければ入る餌も少なく、入る餌が少なければ、育つ葉の量もそこで頭打ちになります。

国連食糧農業機関の手引きでは、葉物なら1平方メートルあたり1日40〜50グラムの餌、植える間隔は1平方メートルに20〜25株とされています。メダカの水槽ではレタス1株にも届かないのは、この割り算の結果です。

つまり、収穫を増やしたければ魚を増やすしかなく、魚を増やすには水と設備と餌代が要ります。家庭サイズの装置は、この入口の手前で止まっています。

家庭でやる価値は別のところにあります。穫りたてが食べられること、仕組みが面白いこと、水換えがほとんど要らないこと。元を取る対象は食費ではなく、時間の使い方のほうだと考えるほうが正確です。

ビニールハウスの中の栽培槽に整然と並んだ赤いリーフレタス。奥までハウスが続いている
栽培面積を決めた瞬間に、魚の側の規模も決まります。

規模を上げると、何が起きるか

では事業として成り立つ規模はどれくらいか。ここは、さきほどの数字を逆にたどると見えてきます。

1平方メートルで1日40〜50グラムの餌。栽培面積を100平方メートルにすれば、毎日4〜5キログラムの餌を食べる魚が要ることになります。これはこちらの掛け算ですが、元の数字は手引きに載っているものです。

4〜5キログラムの餌を食べる魚とは、たとえば体長20センチの錦鯉に換算すると千匹規模です。その魚が入る水量、その水を回すポンプ、その水を支える設備。野菜の面積を決めた瞬間に、魚の側の規模も自動的に決まります。ここがアクアポニックスの、ほかの農業と違う点です。

そして規模が上がるほど、難しくなるのは水質管理ではありません。毎日決まった量の餌をやり、決まった量を収穫し、決まった先に届ける。面白さが作業に変わるのは、この段階です。

アクアポニックスの維持費は?

よく検索される質問なので、家庭と事業に分けて答えます。

家庭サイズなら、かかるのはポンプの電気代と餌代、それに種と少しの資材です。加温しなければ月に数百円から数千円という水準で、ここは大きく崩れません。

事業規模になると、性質が変わります。電気は水量に比例して増え、餌は収穫量に比例して増えます。しかし本当に効いてくるのは、そのどちらでもなく人件費です。自分でやるなら、自分の時間が最大の費用になります。

加えて、施設の維持があります。ビニールは経年で張り替えが要り、ポンプにも寿命があります。年に1回の点検が家庭では数十分で済むところ、規模が上がれば一日仕事になります。

アクアポニックスの課題は?

これも検索でよく出る質問です。技術の課題と、事業の課題は別ものなので、分けて書きます。

技術の課題は、正直なところ、ほぼ解けています。硝化の仕組みも、pHの扱いも、足りない栄養の見分け方も、この十数年で情報がそろいました。うちの記事も、その多くを書いてきました。

残っている課題は、ぜんぶ事業の側にあります。ひとつは販路です。作った葉物を、どこに、いくらで、どれだけ安定して届けるのか。畑を持たない生産者にとって、これがいちばん高い壁です。

もうひとつが制度です。農地でやるのか、農地以外でやるのか。この線引きは思っているより面倒で、「良いですよ」と言われたことが後からひっくり返ることも起こります。うちも行政と何度もやり取りしました。

そして3つめが、単価です。アクアポニックスで育てた葉物は、見た目では普通の葉物と区別がつきません。物語を伝えないかぎり、値段は普通の野菜と同じところに落ちます。ここを甘く見ると、規模を上げるほど苦しくなります。

「初期費用はいくらか」に、構造で答える

2つめの質問にも触れておきます。金額は条件で違いすぎるので、家庭サイズの実額は費用の記事に譲って、ここでは費用がどこに積み上がるかを書きます。

装置そのものは、実は安いほうです。箱と塩ビ管とポンプと培地。家庭サイズなら数万円で組めますし、事業規模でも面積あたりの単価はそこまで跳ねません。

費用が膨らむのは、装置の外側です。置く場所をどうするか。屋根が要るのか、電気をどこから引くのか、水はどこから来るのか。そして、その土地で本当にやっていいのか。設備より先に、場所の条件が金額を決めます。

もう一つが時間です。立ち上げの数週間は、何も穫れないまま設備が動き続けます。魚を入れるまで収穫はなく、始まっても最初はわずかです。売上が立つまでの空白を、どこまで持ちこたえられるか。ここが実質的な初期費用になります。

だから「初期費用はいくらですか」には、正確には「設備はいくら、場所はいくら、無収入の期間は何か月」と3つに分けて答える必要があります。見学に来た人の多くは、1つめだけを気にしていました。

「難しいのか」の、いちばん誤解されている点

3つめの質問です。これも構造だけ書きます。

多くの人が「難しさ=水質管理」だと思って来ます。魚を死なせないか、野菜が枯れないか。けれどそこは測って手を打つ手順が決まっているぶん、いちばん解決しやすい領域です。

実際に苦しくなるのは、毎日同じことを続ける部分です。餌をやり、水位を見て、穫って、届ける。この装置の難しさは、頭の難しさではなく、続ける難しさのほうに寄っています。

もう一つ、始める前には見えにくいのが、判断が全部自分に降ってくることです。魚が浮いた朝も、注文が入らない週も、決めるのは自分だけ。やることが少ない装置だからこそ、うまくいかないときに手持ち無沙汰になります。

収穫したスイスチャードを袋に詰めたところ。赤・黄・白の茎が並んでいる
袋に詰めたところで、見た目は普通の葉物と変わりません。単価の壁はここにあります。

それでも、個人に向いている場所がある

ここまで厳しい話を続けましたが、悲観だけで終わらせるつもりはありません。実際にうちは会社を辞めて、この道を選んでいます。

個人に向いているのは、規模で勝負しない売り方です。さきほどの5つのうち、体験と情報は、面積が小さくても成り立ちます。設備が小さくても、伝えられることの価値は減りません。

うちの見学が成り立ったのも、そこに理由があります。来た100人は、野菜を買いに来たのではありません。やってみたい人が、実際にやっている場所を見に来ました。その需要は、大きい農場でなくても受けられます。

個人だけでなく、建築・福祉・教育の分野の法人も来ました。関西が中心でしたが、遠くはつくば、長崎、高知からも。見学でご案内していた中身はこちらにまとめていますが、いまは運営体制の見直しで受け付けを止めています。再開が決まれば、そのページでお知らせします。

もうひとつは、正直さが効く分野だということです。きれいな入門記事は検索すればいくらでも出てきます。けれど「実際にやったらどこで詰まるのか」は、詰まった人しか書けません。魚を全滅させた朝のことも、想像の10倍大変だったことも、書けるのは走った人だけです。

実数は、どこにあるか

ここまでが構造の話です。ただ、見学に来た人が本当に知りたかったのは、もっと具体的なことでした。

いくらかかって、いくら残るのか。初期費用のどこで夢が詰むのか。本当の難所はどこなのか。この3つは、実際の数字を出さないと答えになりません。そして実際の数字は、無料で書き散らすには重すぎます。

そこで、100人と話して分かったことを、実数のまま1本にまとめました。アクアポニックスで「新規事業」は成立するのかという有料記事です。前半は無料で読めるので、3つの質問のどれが自分の関心かを確かめてから判断してください。

行政とのやり取りだけを詳しく知りたい場合は、念書を書くまでの記録を別にまとめてあります。こちらも前半は無料です。

この記事を読んで「思ったより厳しいな」と感じたなら、それが正しい第一印象です。そのうえで進みたい人にとって、うちの詰まった記録が近道になれば十分だと思っています。

事業として考えるなら、記録が土台になります。いつ何匹入れて、いつどれだけ穫れたか。「メダカ台帳」は容器ごとの記録が1タップ。趣味の段階から付けておくと、数字で話せるようになります。
→ 容器ごとの記録を、次に迷ったときに引き出せる
どんなアプリか見てみる(登録はメールアドレスだけ・30秒。記録と通知はずっと無料です)

まとめ

野菜だけを見れば、アクアポニックスは儲かりません。穫れる量が餌の量で決まっている以上、規模のない生産は必ず頭打ちになります。

けれど売り方は5つあって、そのうち2つは面積を要しません。個人が入るなら、そこです。技術はもう解けていて、残っている難しさは全部、売る側にあります。

よくある質問(FAQ)

Q. アクアポニックスは儲かりますか。

A. 何を売るかで答えが変わります。野菜だけで考えると、穫れる量の上限が餌の量で決まるため規模が要り、家庭サイズでは黒字になりません。体験や情報など、面積で勝負しない売り方のほうが個人には向いています。

Q. 家庭のアクアポニックスで食費は浮きますか。

A. ほぼ浮きません。魚が出す栄養の量が収穫の上限を決めるので、家庭サイズの装置で穫れるのは食卓1回ぶんのサラダという水準です。元を取る対象は食費ではないと考えてください。

Q. 事業にするなら、どれくらいの規模が必要ですか。

A. 栽培面積を決めると魚の規模も自動的に決まります。葉物は1平方メートルあたり1日40〜50グラムの餌が目安なので、100平方メートルなら毎日4〜5キログラムを食べる魚が必要になります。

Q. アクアポニックスの課題は何ですか。

A. 技術の課題はほぼ解けています。残っているのは販路・制度・単価という事業の側の課題です。とくに、見た目が普通の野菜と変わらないため、物語を伝えないと単価が上がりません。

Q. アクアポニックスの維持費はいくらですか。

A. 家庭サイズなら加温しない前提で月に数百円から数千円です。事業規模では電気と餌が水量と収穫量に比例して増えますが、実際にいちばん効くのは人件費です。

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