「この野菜は、アクアポニックスで育つのか」。検索してもだいたい出てくるのは、育てやすい定番の数種類だけです。いちご、きゅうり、わさび、ブルーベリー。名前を入れて調べても、はっきりした答えが返ってこない品目がたくさん残ります。
この記事は、その空白を埋めるための一覧表です。30品目を4つの群に分けて、可否と難易度をひとことずつ付けました。ただ表を眺めるだけだと丸暗記になるので、先に判定の物差しを3つだけ渡します。これを持っておけば、表に載っていない作物も自分で判定できます。
- 判定は3つの物差しで決まります。葉か実か・pHが合うか・夏の水温に耐えるか。
- 葉物とハーブはほぼ全部できます。迷ったらこの群から選べば失敗しません。
- 実ものは可能ですが、花が咲いた時点でカリウムとカルシウムが足りなくなります。
- できないのは、酸性土を好む果樹と、冷たい流水が要る作物です。ここだけは装置の性質と正面からぶつかります。
- 根菜は方式しだい。培地を敷いた栽培槽なら形にはなりますが、割に合うかは別の話です。

判定の物差しは3つだけ
1つめは、葉か実かです。魚の餌から届く栄養は窒素に偏ります。葉を茂らせるのが窒素の仕事なので、葉物はそのまま育ちます。いっぽう実をつける段階で急に要りはじめるカリウムとカルシウムは、この装置ではいちばん足りない栄養として全体の上限を決めます。
2つめは、pHです。装置の水は6〜7のあたりで落ち着きます。硝化細菌が働きやすい範囲がそこだからで、無理に動かすと魚と細菌に無理が来ます。だから強い酸性を好む作物は、はじめから相手が違います。
3つめは、夏の水温です。屋外の装置は、真夏に25〜30℃まで上がります。冷たい水でしか育たない作物は、この時点で候補から外れます。
この3つに全部当てはまるのが葉物とハーブで、1つ欠けるのが実もの、2つ以上ぶつかるのが向かない作物です。表もその順に並べました。
品目別の一覧|30品目の可否と難易度
難易度は「うちの家庭サイズの装置で、追加の手当てをせずに穫れるか」を基準にしています。むずかしい品目も、栄養を足せば穫れないわけではありません。
◎ そのままできる|葉物とハーブ
| 品目 | 難易度 | ひとこと |
|---|---|---|
| リーフレタス | やさしい | 最初の1株の定番。6〜8週間で穫れる |
| サニーレタス・赤リーフ | やさしい | うちの栽培槽の主力。色も出る |
| スイスチャード | やさしい | 茎が色づいて丈夫。長く穫れる |
| 小松菜 | やさしい | 生育が早く、間引きながら穫れる |
| チンゲンサイ | やさしい | 小松菜と同じ扱いでよい |
| ほうれん草 | ふつう | 暑さに弱い。秋まきなら安定する |
| ベビーリーフ | やさしい | 密にまいて若いうちに刈る使い方 |
| 水菜 | やさしい | 早い。株間だけ空けておく |
| 空心菜 | やさしい | 真夏に伸びる数少ない葉物 |
| クレソン | やさしい | 水に浸かる場所を好む。相性が良い |
| バジル | やさしい | うちでもよく茂る。摘むほど枝が増える |
| ミント | やさしい | 強すぎるので容器を分けたいほど |
| シソ | やさしい | 高温に強い。夏の常連 |
| ネギ | ふつう | 収穫まで3〜4か月と長いが再生する |
| イタリアンパセリ | ふつう | 発芽がゆっくり。育てば長持ち |
| パクチー | ふつう | 表の適温より、日本の夏の湿気に弱い |
| ルッコラ | やさしい | 早く穫れる。辛みは日照で変わる |
| 豆苗 | やさしい | 種の養分だけで伸びる。装置がなくてもできる |
○ できるが手当てが要る|実もの
| 品目 | 難易度 | ひとこと |
|---|---|---|
| ミニトマト | むずかしい | 着果でカリウムとカルシウムが不足する |
| 大玉トマト | むずかしい | 尻腐れが出やすい。まずミニから |
| きゅうり | むずかしい | 支柱と水量が要る。実の付きが栄養で止まる |
| ピーマン・パプリカ | むずかしい | 期間が長く、後半に息切れしやすい |
| ゴーヤ | ふつう | つるが強く、夏の日よけを兼ねられる |
| いちご | むずかしい | 定番の挑戦品目。実は小さくなりがち |
| なす | むずかしい | 肥料食い。家庭サイズでは分が悪い |
| オクラ | ふつう | 暑さに強い。根が深いので培地に厚みが要る |
△ 方式しだい|根菜と特殊
| 品目 | 難易度 | ひとこと |
|---|---|---|
| ラディッシュ | ふつう | 小さいので培地でも形になる |
| ニンジン・大根 | むずかしい | 培地の深さが足りず、また根が分かれやすい |
| じゃがいも | むずかしい | 土のほうが早い。あえてやる理由が薄い |
| 枝豆・大豆 | ふつう | 自分で窒素を作る作物。葉ばかり茂りやすい |
| 稲 | ふつう | 水を張る作物なので相性は良い。量は穫れない |
| ブロッコリー | むずかしい | 株が大きく、収穫までが長い |
× 装置とぶつかる|向かない作物
| 品目 | 難易度 | ひとこと |
|---|---|---|
| ブルーベリー | 不可に近い | 好むpHは4.3〜5.5。装置の水と両立しない |
| わさび | 不可に近い | 冷たい流水が要る。夏の水温で溶ける |
| パイナップル | 不可に近い | 育つが2年かかる。容器の占有が重すぎる |
| 海ぶどう | 不可 | 海水の作物。淡水の装置では育たない |
| 高麗人参 | 不可に近い | 数年かかり、日陰と土の条件が特殊 |

うちで実際に穫れているもの
表の判定は理屈だけではありません。うちの栽培槽で毎年穫れているのは、リーフレタス、赤いサニーレタス、スイスチャード、そしてバジルです。写真の並びがそのまま、いちばん外れの少ない選び方になっています。
この4つに共通しているのは、葉を食べる作物だという一点だけです。花も実も咲かせないので、カリウムもカルシウムも要らない。魚が出す窒素だけで最後まで走りきれます。冬に寒冷紗の下でゆっくり動いているのも、この顔ぶれです。
逆に言えば、実ものに手を出した瞬間から作業が増えます。増えること自体は悪くありませんが、最初の1年でいきなり挑むと、たいてい「アクアポニックスは育たない」という結論のほうが先に出ます。
主要5品目の、育て方の要点
表のひとことだけでは足りないので、選ばれることの多い5つを掘り下げます。
リーフレタス。種はスポンジにまいて、本葉が2〜3枚になったら培地へ移します。植える間隔は、育ったときに葉が触れ合わない程度。込み合うと下の葉から溶けます。6〜8週間で穫りごろですが、待つと硬くなるので早めに外葉から穫りはじめてください。暑さには弱く、真夏は苦みが出ます。
バジル。発芽に光が要るので、種は培地の表面に置いて軽く押さえる程度にします。本葉が4枚になったら先端を摘む。ここで摘むかどうかで、その後の茂り方がまったく変わります。摘まずに育てると背が高くなって花が咲き、そこで葉が硬くなって終わります。
スイスチャード。種の皮が硬いので、まく前に半日ほど水に浸けると発芽がそろいます。1粒から複数の芽が出るため、元気な1本を残して間引きます。丈夫で長く穫れて、赤や黄の茎で見た目もいい。うちの栽培槽に常にいる品目です。
小松菜。生育が早く、まいてから1か月ほどで穫れはじめます。密にまいて、間引いたものをベビーリーフとして食べれば無駄がありません。虫が付きやすいので、薬が使えないぶん、見つけ次第で手で取るのが基本になります。
ミニトマト。実ものに挑むならここからです。植えるのは1株だけ。脇芽をこまめに取って、主枝1本に絞ります。花が咲いた時点から栄養の要求が変わるので、そこが見どころです。尻腐れが出たら、それはカルシウムが実に届いていない合図です。
実ものを穫るために、何を足すか
実ものが難しいのは、要る栄養がこの装置に足りないからです。逆に言えば、足せば穫れます。
ただし足し方には順番があります。まず疑うのは、栄養の種類ではなく量そのものです。魚が小さければ、そもそも全部が足りません。餌の量に対して株が多いという、いちばんよくある形でないかを先に確かめてください。
そのうえで足りないのがカリウムとカルシウムです。カリウムは古い葉の先から枯れる形で出て、カルシウムは実の尻が黒く凹む形で出ます。どちらも症状が出てから足しても間に合わないことがあるので、花が咲いた時点で先回りするのが実ものの作法です。
何を使うかは、魚がいることが制約になります。魚に無害な範囲でしか足せません。うちが貝殻を使っているのも、溶けすぎずに自分で止まる材料だからです。液体の肥料を使う場合は、必ず少量から、魚の様子を見ながらにしてください。
同じ栽培槽に、何種類まで植えていいか
混植そのものは問題ありません。うちの栽培槽にもレタスとスイスチャードが同居しています。ただし組み合わせには相性があります。
いっしょにしていいのは、背丈と収穫の時期が近いものです。レタスとスイスチャード、小松菜とルッコラ。どれも葉物で、同じ時期に穫って、同じ時期に空きます。
避けたほうがいいのは、背丈が大きく違う組み合わせです。トマトやゴーヤのように上へ伸びるものと葉物を並べると、葉物が日陰になります。実ものは、栽培槽の北側か端に寄せてください。
ミントだけは別扱いです。放っておくと根を伸ばして、ほかの株の場所を奪います。育てるなら鉢のまま培地に埋めるか、槽そのものを分けるのが安全です。

「育たない」と言われる3つの理由
いちばん多い原因は、株の植えすぎです。栽培槽の穴が8つあると、つい8株植えたくなります。けれど養えるかどうかを決めているのは穴の数ではなく餌の量で、メダカの水槽なら葉物1株に届かないこともあります。細いまま止まっているなら、間引くほうが早い。
2つめは、栄養の種類の読み違えです。葉が黄色いといっても、新しい葉から黄色くなるなら鉄、古い葉の先から枯れてくるならカリウムと、原因は分かれます。品目のせいにする前に、葉のどこが変わったかを見てください。
3つめが、季節との食い違いです。ほうれん草を真夏にまけば、どんな装置でもうまくいきません。まく時期は1年カレンダーのとおりで、これは土の畑と変わりません。
栽培槽に生えてくる、植えていないもの
培地の表面に、覚えのない芽が出ることがあります。風で飛んできた種か、鳥が落としたものです。放っておくと養分を横取りするので、見つけたら抜きます。
緑色のぬめりや藻も同じように気になりますが、こちらは場所によって放っていいものと、取るべきものが分かれます。植えていない草は抜く、藻は吸込口だけ見る。この2つで足ります。
→ 容器ごとの記録を、次に迷ったときに引き出せる
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まとめ
葉か実か、pHが合うか、夏の水温に耐えるか。この3つを順に当てるだけで、表にない作物もだいたい判定できます。
そして最初の1年は、迷わず葉物です。実ものも根菜も逃げません。装置が安定してから、余った穴で1株だけ試す。その順番がいちばん早く、いちばん穫れます。
よくある質問(FAQ)
Q. アクアポニックスでいちごは育ちますか。
A. 育ちますが、実が大きくなりにくい品目です。花が咲いた時点でカリウムとカルシウムが不足しやすく、追加で補わないと小粒のまま止まります。最初の作物には向きません。
Q. アクアポニックスできゅうりやトマトは作れますか。
A. 作れます。ただし着果期にカリウムとカルシウムが足りなくなるので、トマトは尻腐れ、きゅうりは実の肥大不良が起きやすくなります。葉物で装置を安定させてから挑んでください。
Q. 根菜(大根やニンジン)は無理ですか。
A. 培地を敷いた栽培槽ならラディッシュのような小さいものは形になります。大根やニンジンは深さが足りず、根が分かれやすいので割に合いません。
Q. ブルーベリーやわさびが向かないのはなぜですか。
A. ブルーベリーが好むpHは4.3〜5.5で、装置の水(6〜7)とは両立しません。わさびは冷たい流水を好むため、夏に25℃を超える水では育ちません。どちらも装置の性質と正面からぶつかります。
Q. いちばん失敗しにくい品目はどれですか。
A. リーフレタスです。6〜8週間で穫れて、窒素中心で育ち、pHも水温も装置の範囲に収まります。うちの栽培槽でも主力の一つです。

