ニームオイルは、予防として使うものです。いま葉に付いている虫を、その日のうちに減らす薬ではありません。
日本では農薬として登録されていません。売られているのは土壌活性剤や環境改善資材で、商品にも「本品は農薬ではありません」と書かれています。つまり「これで駆除できる」と言い切れる裏づけは、公にはありません。
それでもアクアポニックスで使われるのは、化学農薬が魚とバクテリアに効いてしまって使えないからです。
やっかいなのは、効いたかどうかが分かりにくいことです。虫が減っても、ニームが効いたのか、ほかの理由で減ったのかは見分けられません。それでも使う理由と、使い方から書いていきます。
ニームオイルは、農薬なのか

登録のある農薬には、使ってよい作物と害虫、回数、時期が決められています。効き目も、魚への影響も、試験を経て確かめられています。その手続きを通ったものだけが「農薬」を名乗れます。
ニームオイルはその手続きを通っていません。農林水産省は、農薬登録を受けずに農作物への使用が推奨され、農薬としての効能効果を掲げるものを「農薬疑義資材」と呼んでいます(農林水産省「農薬疑義資材コーナー」)。
だからこの記事では「駆除できる」とは書きません。書けるのは、成分について研究で分かっていること、使っている人が何を感じているか、そして使うなら何に気をつけるか。この3つです。
ニームの成分は、虫にどう働くのか

ニームの種から採れる油には、アザディラクチンという成分が含まれます。この成分については、虫の食べる気を落とす、脱皮を妨げる、産卵を抑える、といった働きが研究されています。
どれも「その場で殺す」ものではありません。食べる気が落ちれば葉の被害は減りますが、虫は葉にいます。脱皮を妨げられた個体は次の段階へ進めませんが、それが目に見えるのは数日後です。産卵が抑えられれば数は減りますが、減るのは次の世代からです。
脱皮を妨げるというのは、虫が脱皮するときに出すホルモンの働きを邪魔するということです。ここから、効く相手と効かない相手の見当がつきます。もう脱皮しない成虫には、この仕組みは効きようがありません。大きく育った幼虫も、残りの脱皮の回数が少ないぶん、効きが表に出にくいことになります。
殺虫剤は、掛けたその日に虫が減ります。効いたかどうかが翌朝に分かります。ニームはそうなりません。ただ、この違いは弱点とは限りません。
虫の増え方は足し算ではないからです。アブラムシは卵ではなく子を産み、条件がそろえば数日で親になって、その子がまた産みます。一匹を見逃した二週間後に、葉が覆われていることになります。増える速さそのものを落とせるなら、数を減らすより先に効いてきます。
だから、虫の手当ては持ち込まない、増える速さを落とす、いま付いている数を減らす、この順で考えています。網は一つめ、ニームは二つめ、手で取るのは三つめです。いちばん効くのは一つめで、そこを飛ばして三つめだけをやると、毎年同じことになります。
何に効いて、何に効かないと言われているのか
使っている人の声で、いちばん多いのはアブラムシです。「1000倍に薄めて撒いたら数日でほとんど見なくなった」「春から続けていて、その年はほとんど出なかった」といった報告が、通販の評価欄に並びます。
一方で「効かなかった」という声もあります。ウリハムシ、ハモグリバエ、大きくなった青虫。このあたりは「無視される」「変わらなかった」という報告が目立ちます。ハダニやコナジラミは、人によって割れています。
この並びは、さきほどの仕組みと合っています。飛んできた成虫と、育ちきった幼虫が並んでいます。脱皮を妨げる成分なので、そうなるのは筋が通ります。
評価が割れるもうひとつの理由は、期待していたものの違いだと考えています。掛けた翌朝に虫が落ちていることを期待していれば、この資材は「効かない」に分類されます。ただそれは、殺す薬ではないものに殺虫を期待した、という話でもあります。
とはいえ、期待を合わせても効かない相手はいます。飛んできて葉をかじる成虫がそれで、こちらは脱皮も産卵もその場では関係ありません。成虫に対しては、撒くより入れないほうが早いということになります。
どちらも、使っている人の感想です。公的に確かめられた効き目ではありません。同じ製品でも、薄め方、掛ける頻度、その年の虫の出方で結果が変わるので、「誰がやってもこうなる」という数字は出しようがないのです。
確かなのは、いま葉に付いている虫を今日いなくしたいなら、この資材は向いていないということです。そういうときは手で取るか、水で流すほうが早い。ニームは、まだ来ていない虫に対して使うものです。
効き目が見えにくいのは、仕組みのせい

効き目が見えにくいのには理由があります。この成分が働きかけるのは、いま葉にいる虫の数ではなく、これから増える速さのほうだからです。食べる気が落ちても虫は葉にいます。産卵が抑えられても、減るのは次の世代からです。見ている場所と、効いている場所がずれています。
うちでも同じでした。週に2回ほど散布していましたが、効いているのかどうかは分かりませんでした。虫が出なかった週はありますが、それが散布のおかげなのか、その週がたまたまそうだったのかは判じようがありません。これは記録の取り方の問題ではなく、予防というものの性質です。
これは予防のもの全般に言えることです。歯を磨いていて虫歯にならなかった年に、磨いたおかげなのかどうかは分かりません。磨かなくても、その年はならなかったかもしれない。予防というのは、効いた証拠が手に入らない性質のものです。
それでも歯を磨くのは、証拠があるからではありません。仕組みが分かっていて、起きたときの損が大きくて、手間が小さいからです。予防の手当ては、その3つで決めることになります。
ニームに当てはめると、こうなります。脱皮を妨げる働きは研究されているので、仕組みは分かっている。虫が出れば葉はやられるので、起きたときの損は小さくない。費用は安く、手間は匂いのぶんだけ重い。だから、うちでは続けるという判断にしました。
ただし濃さでは押しません。アザディラクチンは日光で分解が早く、葉の上に長くは残りません。濃く撒いても残る時間は延びず、葉が焼けるだけです。濃度を上げるという選び方はせず、掛け直す間隔のほうで保ちました。
もし「効いたかどうかを確かめられる手当て」が欲しいなら、物理的に入れないほうが向いています。網は掛ければ入りません。目で見て確かめられます。
使うなら、どう散布するのか

薄め方は製品の説明に従ってください。500倍から1000倍が多いのですが、製品によって前提が違うので、袋や瓶に書かれている数字が正です。濃くしても効きは上がりません。葉が焼ける危険が増えるだけです。
掛けるのは朝か夕方です。気温が高い時間や直射日光の下で掛けると、油分が残った葉が焼けて、黄色くなったり縁が枯れたりします。25℃を超える時間帯は避けてください。
葉の裏まで掛けます。虫が付くのは裏側だからです。上から霧を落とすだけでは、いちばん要るところに届きません。スプレーの口を下から上へ向けて、葉を持ち上げながら吹き上げるのが確実です。
頻度は、予防なら7日から10日に1回。使いはじめの1〜2週間と虫が出やすい時期は3日から4日に1回。雨が降ったら掛け直します。一度で終わるものではないので、続けられる頻度かどうかで決めるのが現実的です。
売られているものは、容量と中身が少しずつ違います。原液を薄めて使うものが多く、200mlから250mlあたりが家庭では扱いやすい大きさです。レモングラスを混ぜたものもあります。
どれがよく効くか、という比べ方はできません。上に書いたとおり、効いたかどうかを自分の目で確かめにくい資材だからです。手に入りやすいものを、まず少量で試すのが現実的だと思います。
アクアポニックスで使うときに、いちばん気をつけること


水に入れないことです。養液や水槽に直接入れるのは避けてください。油分なので水に混ざらず、分離して配管やポンプに残ります。根が養分を吸うのを妨げるという指摘もあります。
散布のときは、水面をふさいでください。シートや板を掛けるだけで十分です。上から霧を落とすと、葉を越えたぶんがそのまま水に入ります。下から吹き上げる掛け方をするのは、葉の裏に届くからというだけでなく、水に落ちにくいからでもあります。
魚への影響については、製造元に直接問い合わせました。返ってきたのは「魚毒性は弱い。多少水槽に入る分には大きな影響を与えないだろう」という答えです。ですから、散布中に少し落ちたくらいで慌てる必要はありません。
正直に書いておくと、うちではふたを掛けるところまではしていませんでした。散布のしかたで水に入らないように気をつけた程度です。それで魚に異変が出たことはありませんでしたが、ふさいでおくほうが確実です。
ただし、聞いたのは魚についてです。硝化バクテリアへの影響は別の話で、そちらは確かめていません。アクアポニックスで先に崩れるのは、たいてい魚ではなくバクテリアのほうです。
アンモニアを処理する側が弱れば、数日遅れで魚に来ます。この仕組みはアクアポニックスの硝化サイクルにまとめました。
だから「入ってしまったぶんは気にしなくていい。ただし基本は入れるものではない」。これがこの記事の立場です。
使ってみて、困るところ
匂いです。これがいちばん多い不満で、「生ごみのよう」「玉ねぎが腐ったような匂い」と表現されます。乾けば薄れますが、掛けた直後はかなりのものです。住宅が近い場所では、時間帯を選ぶ必要があります。柑橘やユーカリを混ぜた製品は、そこが緩和されています。
葉焼けも起きます。濃すぎた、暑い時間に掛けた、直射日光が当たっていた。このどれかで、葉がぱりぱりになったり黄色くなったりします。原液で使うのは論外です。新しい製品を使うときは、まず数株だけで試してください。
開封したあとは長く持ちません。成分が落ちていくので、大きな容量を買って何年も置くという使い方には向きません。使う量から逆算して、小さいものを買い足すほうが無駄が出ません。
品質のばらつきにも触れておきます。過去には、ニームオイルとして売られていた製品から登録されていない農薬の成分が検出された例があり、農林水産省が対応を公表しています。古い話ですが、どこの何を買うかは見ておいたほうがよいということです。
確実なのは、入れないこと
虫の対策で、いちばん確実で、いちばん安いのは網です。掛ければ入りません。効いているかどうかを迷う余地がなく、目で見て確かめられます。
目の細かいものを選んでください。1mm目なら、アブラムシは通り抜けますが、コナジラミやヨトウガの成虫は止まります。産卵に来る成虫を止められれば、葉に付く数はそれだけで大きく減ります。
そのうえで、網では止まらないぶんにニームを使う。この順番が現実的です。資材だけで何とかしようとすると、頻度を上げるしかなくなって、手間と匂いが増えていきます。物理的な対策と天敵を含めた全体はアクアポニックスの害虫対策|効く順は、手で取る・粘着シート・資材にまとめました。
→ 個人で始めたアクアポニックスの費用と失敗をnoteで読む
よくある質問
ニームオイルは農薬ですか。
日本では農薬として登録されていません。売られているのは土壌活性剤や環境改善資材で、商品にも「本品は農薬ではありません」と書かれています。農林水産省は、登録を受けずに農薬としての効能効果を掲げるものを「農薬疑義資材」としています。
魚に害はありませんか。
製造元に直接問い合わせたところ、「魚毒性は弱い。多少水槽に入る分には大きな影響を与えないだろう」という回答でした。ですから、散布中に少し落ちたくらいで慌てる必要はありません。ただし基本は、水に入れるものではありません。
硝化バクテリアには影響しませんか。
確かめていません。製造元に聞いたのは魚についてで、バクテリアは別の話です。アクアポニックスで先に崩れるのは、たいてい魚ではなくバクテリアのほうです。だから「水に入れない」を基本にしておくのが安全側です。
どのくらいの頻度で散布すればいいですか。
予防として使うなら7日から10日に1回。使いはじめの1〜2週間と、虫が出やすい時期は3日から4日に1回が目安です。雨が降ったら掛け直します。一度で終わるものではないので、続けられる頻度かどうかで決めてください。
希釈倍率はどのくらいですか。
500倍から1000倍が多いのですが、製品によって違います。必ずその製品の説明に従ってください。濃くしても効きが上がるわけではなく、葉が焼ける危険だけが増えます。
散布する時間帯はいつがいいですか。
朝か夕方です。気温の高い日中や直射日光の下で掛けると、葉が焼けることがあります。25℃を超える時間帯は避けてください。
すぐに効果が出ますか。
出ません。虫を殺す薬ではなく、食べる気や脱皮、産卵を妨げる働きなので、減っていくのは次の世代からです。いま葉に付いている虫を今日いなくしたいなら、手で取るか、水で流すほうが早いです。
効いているかどうか、どう確かめればいいですか。
確かめにくいのが正直なところです。予防として使うものなので、虫が来なかったときに、それが散布のおかげなのか、その年がたまたまそうだったのかが分かりません。
確かめられる手当てが欲しいなら、防虫ネットのほうが向いています。掛ければ入らない。目で見て確かめられます。
まとめ
ニームオイルは予防として使うものです。いま付いている虫を今日いなくする薬ではありません。日本では農薬として登録がなく、土壌活性剤・環境改善資材として売られています。
使うなら、製品の説明どおりに薄め、朝か夕方に、葉の裏まで、7日から10日ごとに。アクアポニックスでは散布のあいだ水面をふさぎ、下から吹き上げる形で掛けてください。
効いているかどうかは、うちでは確かめられませんでした。ただ、虫が複利で増えること、そしてこの成分が増える速さを落とす側の働きであることは分かっています。だから、まず網で持ち込ませない。そこをすり抜けたぶんの増える速さを、ニームで落とす。この順番にしました。
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