栽培槽に穴が8つ空いていたら、苗を8つ買ってきて全部に植える。誰でもそうします。空いている穴を見ると、埋めたくなるものです。
ひと月後、8株ともなんとなく薄い。枯れてはいないけれど、店で売っている葉の色にならない。水は澄んでいるし、魚は元気に寄ってくる。それでも野菜だけが止まっています。
このとき足りていないのは、たいてい肥料でも日当たりでもありません。魚に入れた餌の量です。アクアポニックスでは、その日に入れた餌が、その日に野菜へ回せる栄養の全部になります。
- 60cm水槽の上に載る栽培槽(60×30cm)なら、葉物で1日7〜9グラム。プランター1つぶんなら2〜3グラム。
- もとの目安は1平方メートルあたり1日40〜50グラム。実のなる野菜は50〜80グラム。
- ひとつ決めれば、残りは計算で出ます。野菜・魚・容器のどこから入っても同じ数字に着きます。
- ただし水の量だけは別枠。餌から出した水量をそのまま使うと、観賞魚には狭すぎます。
- 与えすぎたとき、アクアポニックスは水換えで逃げられません。水を捨てない仕組みだからです。

まず答え:栽培槽の大きさで、そのまま読める
栽培槽の縦と横を測ってください。それだけで、その日に入れる量が出ます。

| 栽培槽の大きさ | 面積 | 葉物なら1日 | 植えられる株数 |
|---|---|---|---|
| 30×20cm(プランター1つ) | 0.06m² | 2〜3グラム | 1〜2株 |
| 45×30cm | 0.14m² | 5〜7グラム | 3株 |
| 60×30cm(60cm水槽の上) | 0.18m² | 7〜9グラム | 4株 |
| 90×45cm | 0.41m² | 16〜20グラム | 8〜10株 |
| 1m×1m | 1.00m² | 40〜50グラム | 20〜25株 |
トマトやナスのような実のなる野菜は、同じ面積で1.5倍ほど要ります。60×30cmなら1日9〜14グラムで、それでも植えられるのは1株です。
いちばん上の行を見てください。プランターひとつぶんの栽培槽で、1日2〜3グラム。キッチンスケールに載せると、ほんのひとつまみです。8つの穴を全部埋めるには、この数字では足りないことがすぐ分かります。
ここから先は、この数字がどこから来たのか、そして自分の魚でその量を出せるのかという話になります。急がないなら、読み進めてください。
餌の量を決めているのは、魚の腹ではない
水面に寄ってきた魚を見て、もう少し入れてやろうと思う。ふつうの水槽なら、それで困ることはまずありません。食べきる量を入れて、残ったら取る。判断の材料は魚だけです。
アクアポニックスでは、その判断が栽培槽まで届きます。餌が魚に入り、フンとして水に出て、細菌が硝酸塩に変え、野菜が根から吸う。入り口は餌ひとつしかありません。
肥料を足せば済む話でもありません。足せば魚に効いてしまいます。だから栽培槽を見て、そこから餌の量を決めることになります。魚の腹ではなく、葉の数を見て決める——これがふつうの飼育といちばん違うところです。
国連食糧農業機関の手引きは、この関係を給餌率比という数字で示しています。葉物なら栽培面積1平方メートルあたり1日40〜50グラム、実のなる野菜なら50〜80グラム。実のなる野菜は花と実を作るぶん、3割ほど多く要ります。
ひとつ決めれば、残りは計算で出る
この比率が便利なのは、どこかひとつ決めると、あとが芋づる式に決まるところです。設計というと難しく聞こえますが、やることは順番に割り算していくだけです。

手引きに載っている計算例をそのままたどってみます。レタスを週に25株穫りたい、と決めるところから始めます。
レタスは苗を植えてから収穫まで4週間かかります。毎週25株を穫り続けるには、常に100株が育っている状態が要ります。1平方メートルに20〜25株植えられるので、栽培面積は4平方メートル。
4平方メートルに1平方メートルあたり50グラムをかけて、1日の餌は200グラム。魚は体重の1〜2%を食べるので、200グラムを食べる魚の量は10〜20キログラム。ろ材は餌1グラムあたり1リットルなので200リットルです。
穫りたい野菜の数を決めただけで、面積も餌も魚の量もろ材も出てきました。逆に言えば、この4つのどれかを勝手に変えると、どこかが必ず崩れます。
入口は3つある
手引きは「まず何株穫りたいかを決めよ」と書いていますが、趣味では順番が逆になることのほうが多いはずです。すでに魚がいる。あるいは、使える容器が決まっている。

どこから入っても構いません。全部が同じ「1日に入れる餌の量」に合流するので、そこから先は同じ計算になります。順に見ていきます。
入口1|穫りたい野菜から決める
いちばん素直なやり方です。さきほどの計算例がこれにあたります。ただし家庭の規模だと、必要な魚の量が現実離れした数字になることがあります。レタス100株で魚10キロというのは、家庭では扱いきれません。
出てきた数字が大きすぎたら、穫りたい株数のほうを下げてください。合わないのは計算ではなく、望みの規模のほうです。
入口2|いま飼っている魚から決める
趣味で始めるなら、たいていこちらです。うちも初年度は、魚が少ないまま野菜だけ増やして栄養を切らしました。「魚のフンで育つ」と聞いていたので、魚の量が効いてくるとは思っていなかったのです。
順番は簡単です。魚の体長を測って体重を出し、そこに1〜2%をかける。さきほどの鎖を、下から上へたどるだけです。
体重は、体長から出せます。コイについては184の研究をまとめた式があるので、メジャーで測るだけで済みます。その式で計算すると、こうなります。
| 錦鯉 | 体重 | 1日の餌 | 養える葉物 |
|---|---|---|---|
| 20センチ1匹 | 約150グラム | 1.5〜3グラム | レタス1〜2株 |
| 20センチ3匹 | 約440グラム | 4〜9グラム | レタス2〜5株 |
| 30センチ2匹 | 約950グラム | 10〜19グラム | レタス4〜12株 |
思ったより少ない、と感じるはずです。20センチの錦鯉が3匹いても、レタスは2株から5株。栽培槽に穴が8つ空いていても、埋められるのは半分以下です。
入口3|手持ちの容器から決める
容器が先に決まっている場合は、そこから入れる魚の量を出します。手引きは水1000リットルあたり10〜20キログラムを目安にしています。
100リットルの容器なら魚1〜2キログラム、餌は1日10〜40グラム、養える葉物は0.2〜1平方メートルでレタス4〜25株。ただしこの密度をそのまま観賞魚に当てはめてはいけません。次に書きます。
水の量だけは、別に決める
ここがいちばんの落とし穴です。計算がきれいに通るぶん、気づかないまま進んでしまいます。

さきほどの計算で、20センチの錦鯉3匹に必要な水量を手引きの密度から出すと、22リットルから44リットルという答えが出ます。これは錦鯉には狭すぎます。
手引きの密度は、ティラピアを効率よく育てるための養殖の数字です。魚を短期間で出荷サイズまで持っていく前提で組まれていて、何年も同じ魚を眺める飼い方の数字ではありません。
つまり、餌の量から決まるのは栽培面積とろ材まで。水の量は魚の側の都合で、別に決める必要があります。錦鯉なら何センチの個体を何匹飼うのか、そこから水量を出してください。この考え方は錦鯉は水槽で飼える?にまとめています。
ふたつを混ぜると、計算上は成り立つのに魚が窮屈という設備ができます。紙の上で釣り合っていることと、魚が無理なく暮らせることは別です。
締め飼いをすると、減るのは魚ではなく野菜
この水槽で飼い続けたいから、大きくしたくない。そう考えて餌を半分にする。錦鯉ではよくある判断で、締め飼いと呼ばれます。

ふつうの水槽なら、これは魚だけの話で終わります。アクアポニックスでは、絞ったその週から栽培槽の葉も薄くなります。魚の成長を抑えたぶんが、そのまま収穫の減りになって出てくる。
どちらを取るかを、先に決めておいてください。魚を小さいまま眺めたいなら、野菜は諦めるか、株数をうんと減らす。野菜を穫りたいなら、魚が育つことを受け入れて、大きくなった魚を移す先を用意しておく。
両方を同時に狙うと、たいてい両方が中途半端になります。魚は思ったより育ち、野菜は思ったより穫れない、という形に落ち着きます。
与えすぎたとき、水換えで逃げられない
入れすぎたと気づいたとき、水槽なら水を換えればやり直せます。半分抜いて新しい水を足せば、たいていのことは無かったことになります。

アクアポニックスには、その手がありません。水を捨てない仕組みで組んでいるので、入れすぎた分は系の中に残ります。
フロリダ大学の資料は、飼い主のいちばん多い失敗は与えすぎで、その結果として水質が悪化すると書いています。アクアポニックスでは、この悪化が居座ります。
順番はこうです。食べ残しが底に沈む。分解されてアンモニアが出る。細菌が処理しきれなければ亜硝酸が溜まる。ここまで来ると、魚より先に細菌が参ります。処理する側が弱れば、数日遅れで魚に来ます。
だから、入れる前に量ることが効いてきます。硝酸塩は試験紙で読めるので、週に一度、決まった曜日に測ってください。上がり続けているなら餌が多すぎ、まったく出ないなら少なすぎです。数値の見方はアクアポニックスの硝化サイクルに書きました。
毎日ほぼ同じ量を、切らさずに
三日ぶりに帰ってきて、水槽をのぞく。腹が減っているだろうと思って、いつもより多めに入れる。よくある場面ですが、これがいちばん体に負担をかける与え方です。

同じ量でも、渡し方で結果が変わります。日本語ではあまり語られていない話なので、少し詳しく書きます。
グラスゴー大学の研究チームがトゲウオで行った実験では、速く育った個体は寿命の中央値が14.5%短くなり、ゆっくり育った個体は30.6%延びました。最終的な体の大きさとは無関係でした。
同じ研究室の別の実験では、食べた総量が同じでも、飢えさせてから一気に与えた個体のほうが寿命が短くなっています。原因は、そのあとに起きる急な成長です。
アクアポニックスでは、これがもう一段効きます。餌がばらつくと、野菜に届く栄養もばらつきます。数日抜いてから多めに入れると、魚にも野菜にも、そして細菌にも負担がかかります。細菌の数はそれまでの餌の量に釣り合っているので、急に増えた分を処理しきれません。
毎日ほぼ同じ量を、切らさずに。旅行などで空けるなら、取り返そうとせず、戻ったあとも同じ量に戻すだけにしてください。
なお、これはトゲウオでの実験です。錦鯉やメダカで同じことが起きると言い切れるわけではありません。ただ「速く育てると寿命が縮む」という関係が魚で実験的に示されていることは、長く飼うつもりなら知っておく価値があります。
冬は餌が止まる。そのとき野菜はどうなるか
水温が下がってくると、餌を入れても魚が寄ってこなくなります。無理に入れても沈むだけなので、止めることになります。

ここで見落としやすいのが、栽培槽のほうです。餌が止まるということは、野菜に届く栄養も止まるということでもあります。
だから冬の栽培槽は、夏と同じようには育ちません。株数を減らすか、葉物に絞るか、そもそも冬は休ませるか。餌を止める水温の目安と、うちで加温せずに越冬した記録はアクアポニックスの冬越しにまとめています。
メダカで組む場合は、桁が変わる
ここまで錦鯉を例に書いてきましたが、メダカで組むと数字の桁がひとつ変わります。同じ計算は使えるものの、出てくる答えの感覚がまるで違います。
メダカ1匹はおよそ0.4グラム。20センチの錦鯉1匹ぶんの餌を出すには、メダカが200匹ほど要ります。60センチの水槽に入るのが30匹から50匹ですから、水槽3本から7本ぶんです。
だからメダカで組むなら、栽培槽を大きくしないほうが結果が出ます。株を減らして、残した株に栄養を集めるという考え方です。詳しくはメダカのアクアポニックスに書きました。
まとめ:栽培槽を見て、餌を決める
穴が8つ空いているから8株植える。この判断だけを変えれば、たいていは足ります。埋めるのは穴ではなく、餌で養える数までです。
持っておく数字はひとつでいい。葉物なら1平方メートルあたり1日40〜50グラム。ここから面積へも、魚へも、容器へも、逆にたどれます。
気をつけるのは2つ。水の量だけは魚の都合で別に決めること。そして毎日ほぼ同じ量を切らさずに与えることです。
紙の上で釣り合わせるところまでは、計算でできます。そのあと合わせ込むのは、硝酸塩の数値と、野菜の葉の色です。

→ 個人で始めたアクアポニックスの費用と失敗をnoteで読む
あわせて読みたい:アクアポニックス
- アクアポニックスの硝化サイクル|いまどの段階かを数値で見分ける
- アクアポニックスは水換え不要?成り立つ条件と、必要になるとき
- アクアポニックスで野菜が育たない|魚が元気でも止まる3つの理由
- メダカのアクアポニックス|栽培槽は小さいほど野菜が穫れる
よくある質問
アクアポニックスの餌は、1日どれくらい与えればいいですか。
栽培面積から決めます。葉物なら1平方メートルあたり1日40〜50グラム、実のなる野菜なら50〜80グラムが国連食糧農業機関の目安です。栽培槽が0.5平方メートルなら葉物で1日20〜25グラム。ふつうの水槽のように「食べきる量」で決めると、野菜に届く栄養が足りているかどうかが分かりません。
20センチの錦鯉が3匹います。野菜はどれくらい育てられますか。
レタスなら2株から5株です。20センチの錦鯉は1匹約150グラムなので3匹で約440グラム、体重の1〜2%として1日の餌は4〜9グラム。葉物は1平方メートルあたり40〜50グラム必要なので、養えるのは0.1〜0.2平方メートルほどになります。栽培槽に穴が8つあっても、半分以下しか埋められません。
餌の量から必要な水の量も計算していいですか。
いけません。手引きの飼育密度は水1000リットルあたり魚10〜20キログラムですが、これはティラピアを効率よく育てる養殖の数字です。この密度で錦鯉を飼うと窮屈になります。餌の量から決まるのは栽培面積とろ材までで、水の量は魚の大きさと数から別に決めてください。
錦鯉を大きくしたくないので餌を絞っています。野菜への影響はありますか。
あります。餌を半分に絞れば、野菜に届く栄養も半分になります。締め飼いはふつうの水槽なら魚だけの話ですが、アクアポニックスでは収穫量がそのまま減ります。魚を小さいまま眺めたいなら野菜の株数を減らす、野菜を穫りたいなら魚が育つ前提で移す先を用意する、と先に決めておくほうが失敗しません。
与えすぎたときは、どうすればいいですか。
まず沈んだ餌をその日のうちに取り出してください。アクアポニックスは水を捨てない仕組みなので、水換えでやり直すことができません。食べ残しはアンモニアになり、処理が追いつかなければ亜硝酸が溜まります。このとき先に弱るのは魚ではなく細菌で、数日遅れで魚に来ます。硝酸塩を週に一度測って、上がり続けているなら量を減らしてください。
旅行で数日空けたあと、まとめて多めに与えてもいいですか。
やめてください。トゲウオの実験では、食べた総量が同じでも飢えさせてから一気に与えた個体は寿命が短くなりました。原因は急な成長です。アクアポニックスではさらに、細菌の数がそれまでの餌の量に釣り合っているため、急に増えた分を処理しきれません。戻ったあとも、いつもと同じ量に戻すだけにしてください。
