「水耕栽培なら虫は来ない」。そう聞いて始めた人が、最初につまずくところです。土を使わないのだから、虫も湧かないはずだ。そう考えるのは自然です。
先に答えを書きます。虫は来ます。ただし、来る虫の顔ぶれが変わります。減るものと、まったく減らないものがある。そこを分けて考えると、手当ての順番が決まります。
うちはアクアポニックスなので、選べる薬が限られます。水耕栽培にはその制限がないぶん、選択肢が広い。そこも含めて書きます。
- 虫は来ます。土がないと減るのは、土に住む虫だけです。
- 葉につく虫は飛んできます。アブラムシ、ハダニ、コナジラミ。土とは関係ありません。
- いちばん多い持ち込み口は買ってきた苗です。売り場ですでに卵が付いています。
- 室内なら頻度は落ちます。ただしゼロにはなりません。天敵もいないので、入ると増えます。
- 効く順は入り口をふさぐ→出はじめに手で取る→粘着シート。薬は最後です。
- 薬を使うなら、選べる幅が広いのが水耕栽培の強み。魚がいると物理系に限られます。

水耕栽培でも虫は来る|減るのは土に住む虫だけ
まず、期待と現実を合わせます。土を使わないことで減る虫は、たしかにいます。
土の中で育つ虫です。根を食べる幼虫、地際で茎を切る虫、湿った土と落ち葉のあるところにいるナメクジやダンゴムシ。これらは培地に住めないので、ほぼ来なくなります。ここは水耕栽培の本当の利点です。
問題は、そこから先です。葉につく虫は、土があってもなくても飛んできます。アブラムシ、ハダニ、コナジラミ。この3つは土とまったく関係がありません。
考えてみれば当たり前で、これらの虫が食べているのは葉と茎の汁です。土は住処でも餌でもない。土を無くしても、彼らの生活には何も影響しません。
うちで実際に出たのも、この顔ぶれでした。いちごにハダニ、空芯菜と金時草にアブラムシです。培地はハイドロボールで、土は一粒も使っていません。

虫はどこから入ってくるのか
「虫がわく」という言い方をよく見かけますが、正確には湧きません。外から入ってきます。ここを取り違えると、対策の方向がずれます。
いちばん多いのは、買ってきた苗です。売り場に並んでいる時点で、葉の裏に卵が付いていることがあります。持ち帰って植えたら、数日後に増えはじめた——という順番です。
次が、窓や戸のすきまです。網戸の目より小さい虫がいます。アブラムシの羽のあるタイプは、その大きさなら通り抜けます。
それから、人や洗濯物について入ることもあります。ベランダに出したものを取り込むときが、いちばんありがちです。
そして最後に、中で増えます。ここが室内の怖いところで、外にいるはずの天敵がいません。テントウムシもクモも入ってきません。1匹が数十匹になるまでが、屋外より速い。
室内なら頻度が落ちるのは事実です。入る経路が限られるからです。ただし、入ってからの増え方は室内のほうが速いと考えてください。

小さい黒い虫は、何なのか
「小さい黒ゴマみたいな虫がいる」。これもよく検索されている言葉です。いくつか候補があるので、見分けを書いておきます。
葉や茎にじっとくっついて動かないなら、アブラムシです。黒いタイプがいます。びっしり並ぶのが特徴で、指でこすると潰れます。新芽や葉の裏に集まります。
飛び回っていて、水のまわりを漂うならコバエのなかまです。培地の表面や水面近くから飛び立ちます。こちらは葉を食べないので、植物への直接の害は小さい。
葉の裏で白く小さく、触れると舞い上がるならコナジラミです。黒くはありませんが、遠目には点に見えます。
見分けがつかないときは、まず動くかどうかを見てください。動かないなら植物につく虫、飛ぶなら水や培地から出ている虫。手当てが変わります。
コバエが出るのは、餌があるから
室内の水耕栽培でとくに嫌がられるのが、コバエです。台所に近い場所に置いていると、なおさら気になります。
出る理由は単純で、幼虫の餌になるものがあるからです。培地そのものは無機質で餌になりませんが、そこに有機物が溜まると話が変わります。
溜まるものは3つあります。枯れた根、落ちた葉、そして藻です。とくに藻は光と養分がそろえば必ず出るので、放っておくと餌が育ち続けることになります。
だから、コバエ対策は虫の対策というより掃除の話になります。枯れた根と落ちた葉を取り除く。藻を減らしたいなら光を切る。使っていない植え穴をふさぐのは、藻にもコバエにも同時に効きます。
養液の水面が直に空気に触れていると、そこに産みつけられます。ふたをする、穴をふさぐ。薬より先に、この2つのほうが効きます。
品目によって、つく虫が違う
「虫が来ない野菜はありますか」という問いもよく見ます。完全に来ないものはありません。ただ、つきやすさと、つく虫の種類には傾向があります。
うちの実例を書くと、いちごにはハダニ、空芯菜と金時草にはアブラムシが出ました。同じ設備で同じ時期でも、株によって出るものが違います。
やわらかい新芽が多いものほど、アブラムシがつきます。レタス類、豆のなかま、そして伸びの速い葉物。汁を吸いやすい柔らかい組織があるからです。
葉が乾きやすいものには、ハダニが出ます。実のなる株や、風がよく当たる場所の株です。ハダニは湿気を嫌うので、乾いた環境ほど増えます。
香りの強いハーブは、比較的つきにくいと言われます。ただしつかないわけではありません。うちでもハーブを育てていますが、まったく無縁というほどではない、というのが実感です。
だから品目で避けるより、どの株に何が出やすいかを知って、そこを重点的に見るほうが現実的です。いちごを育てているなら葉の裏の乾き具合を、レタスなら新芽を見る。
見つけた日に、何をするか
実際に見つけたとき、順番に迷わないよう書いておきます。
まず、数を数えてください。数匹なのか、葉が黒く見えるほどなのか。ここで手当てが分かれます。数匹なら、その場で取って終わりです。
次に、隣の株を見ます。1株で見つかったなら、たいてい隣にもいます。1株だけ処理して安心すると、数日後に同じことが起きます。
ひどい葉は、株ごとではなく葉ごと切ってください。付いている葉を落とすだけで、数がかなり減ります。切った葉は装置のそばに置かず、袋に入れて捨てます。
そのあと、置き場所を見直します。風が通っていないなら株間を空ける。窓の近くなら少し離す。同じ場所で繰り返し出るなら、環境のほうに原因があります。
最後に、日付を記録してください。虫は毎年おおよそ同じ時期に来ます。去年いつ出たかが分かっていれば、次はその手前で見はじめられます。これがいちばん効く予防です。

効く順は、入り口・手で取る・粘着シート
手当ての順番を書きます。効く順であって、思いつく順ではありません。
1つめ、入り口をふさぐ。買ってきた苗は、植える前に葉の裏を見てください。数分で済みます。ここで見つけられれば、そのあとの全部が要らなくなります。
2つめ、出はじめに手で取る。数匹のうちなら、これがいちばん速い。指でつまむ、テープに貼りつける、葉ごと切る。効く順で言えば、これが常に上位に来ます。
3つめ、黄色い粘着シート。飛ぶ虫に効きます。アブラムシの羽のあるタイプもコバエも、黄色に寄る性質があります。取るためというより、増えているかどうかを見るために置くと考えると使いやすい。
4つめ、葉水です。ハダニは乾いた場所を好むので、葉の裏に水をかけるだけで増え方が変わります。道具も費用も要りません。
そして最後が薬です。水耕栽培なら、ここで選べる幅が広くなります。うちのように魚がいると、選べるものがかなり絞られます。
選べる薬の幅は、水耕栽培のほうが広い
ここが、うちとの大きな違いです。ただし正確に書きます。アクアポニックスで使えないのは、化学の殺虫成分を使った薬です。魚に効くだけでなく、水の中で働いている細菌まで巻き添えにするからです。
いっぽうで、虫の気門を物理的にふさぐタイプなら使えます。殺虫成分ではなく、油の膜で呼吸を止める仕組みだからです。うちが使っていたのはサフオイル乳剤で、有効成分はサフラワー油と綿実油。97%が油です。使う前にJAへ魚毒性を確認して、「魚には影響が少ない」という回答を得ています。
つまり違いは、使えるか使えないかではありません。選べる幅です。水耕栽培なら化学の殺虫剤も選べる。アクアポニックスは物理系にほぼ限られる。そのぶん、抵抗のついた虫にも同じように効くという利点はありますが、選択肢が狭いのは事実です。
ただし別の制約が残ります。口に入れる野菜だということです。使うなら、その作物に登録のある薬を、書かれた時期と回数で使うことになります。収穫までの日数の決まりも守る必要があります。
家庭で数株を育てているだけなら、そこまでして薬を使う場面は、そう多くありません。手で取れる数のうちに気づくほうが、結局は早い。
薬を検討するのは、手で追いつかなくなったときだけで足ります。そしてその状態になったなら、株を抜いて仕切り直すという選択も同時に考えてください。数株なら、そのほうが速いこともあります。
防虫ネットは必要か
PAAにも出てくる問いなので、答えておきます。屋外なら効きます。室内なら、まず要りません。
屋外は飛んでくる虫の数が桁違いです。網の目を選べば、アブラムシまで止められます。ただし細かい目にするほど風が通らなくなり、中が蒸れます。
室内は、そもそも飛んでくる数が少ない。ネットで覆うより、苗を持ち込むときに見るほうが効きます。入り口が違うので、対策も違ってきます。
それより室内で効くのは、置き場所です。窓を開ける部屋の、風の通り道に置かない。それだけで入る回数が減ります。
もうひとつ、ベランダと室内を行き来させないことです。日に当てたくて外に出し、夕方に取り込む。この往復が、いちばん確実に虫を運びます。室内で育てると決めたなら、照明を足して中で完結させるほうが、結果として虫は減ります。

虫が出にくい育て方
最後に、出てから戦うより手前の話を書きます。
株を詰め込まないこと。葉が重なると風が通らず、湿気がこもり、虫が隠れます。見つけるのも遅れます。光の面からも株間は広いほうがいいので、ここは一石二鳥です。
枯れた葉を残さないこと。下のほうの葉が黄色くなったら取ってください。虫の隠れ場所であり、コバエの餌にもなります。
毎日、葉の裏を見ること。結局これがいちばん効きます。表からは分かりません。アブラムシもハダニもコナジラミも、全部裏にいます。
室内の水耕栽培なら、装置が生活の場にあります。毎日目に入るというのは、それだけで大きな利点です。数匹のうちに気づけるかどうかが、その後の手間を決めます。
見るのは、水やりのついでで足ります。数秒、葉を裏返すだけ。それを続けているかどうかで、同じ装置でも一年の手間がまるで変わります。
→ 容器ごとの記録を、次に迷ったときに引き出せる
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まとめ
水耕栽培でも虫は来ます。減るのは土に住む虫だけで、葉につく虫は土と関係なく飛んできます。
虫は湧くのではなく、入ってきます。いちばん多いのは買ってきた苗で、次が窓のすきま。だから入り口をふさぐのが最初の手になります。
コバエは、枯れた根と落ちた葉と藻が餌です。虫の対策というより掃除の話になります。
薬が使えるのは水耕栽培の強みですが、口に入れる野菜であることは変わりません。家庭で数株なら、毎日葉の裏を見て、数匹のうちに取るほうが速い。
よくある質問(FAQ)
Q. 水耕栽培では虫は来ませんか。
A. 来ます。土がないことで減るのは、土の中で育つ虫だけです。アブラムシ・ハダニ・コナジラミは葉と茎の汁を吸う虫なので、土の有無と関係なく飛んできます。
Q. 水耕栽培で虫がわくのはなぜですか。
A. 正確には湧きません。外から入ってきます。いちばん多いのは買ってきた苗に卵が付いている場合で、次が窓や戸のすきま、人や洗濯物について入る場合です。
Q. 小さい黒ゴマみたいな虫は何ですか。
A. 動かずに葉や茎にくっついているならアブラムシの黒いタイプ、飛び回って水のまわりを漂うならコバエのなかまです。まず動くかどうかを見ると分かれます。
Q. 水耕栽培にコバエが出るのはなぜですか。
A. 幼虫の餌になる有機物があるからです。培地そのものは餌になりませんが、枯れた根、落ちた葉、藻が溜まると餌になります。ふたをして水面を覆い、使っていない植え穴をふさぐと減ります。
Q. 虫が出たら、何から手をつければいいですか。
A. 入り口をふさぐ、出はじめに手で取る、黄色い粘着シート、葉水の順です。薬は最後で、家庭で数株なら使う場面はそう多くありません。
Q. 水耕栽培で虫除けネットは必要ですか。
A. 屋外なら効きます。室内ならまず要りません。室内は飛んでくる数が少ないので、苗を持ち込むときに葉の裏を見るほうが効きます。
Q. 室内なら虫は来ませんか。
A. 頻度は落ちますが、ゼロにはなりません。そして入ってからは室内のほうが速く増えます。テントウムシやクモといった天敵がいないからです。
