「アクアポニックスでいちごは育ちますか」。この質問に、はっきり答えているページがほとんどありません。
出てくるのは、育てられますという一行か、企業の栽培システムの紹介か、海外の写真です。実際に穫って、食べた話が見当たらない。
うちでは育てました。実も穫れました。この記事では、その味と、なぜその味になるのかを書きます。ほかの作物がどうなるかは、一覧のほうにまとめてあります。
- 育ちます。うちは深水式の槽に苗を植えて、実まで穫れました。
- 味は水っぽい(みずみずしい)。ただし、おいしい。水耕栽培のいちごと同じ方向の味です。
- 水っぽくなるのは甘さをつくる2つのつまみが、どちらも回せないから。魚がいるぶんの制約です。
- 植えるのは夏の終わりから秋口に、苗を買って。暑い盛りに入れると、その年の実が減ります。
- 冬はそのまま越しました。虫はハダニが出ます。
アクアポニックスでいちごは育つ|深水式の槽で実まで穫れた
結論から書きます。育ちます。うちでは深水式(根を養液に浮かべる方式)の槽に苗を植えて、実まで穫りました。
培地を敷いた槽ではなく、深水式のほうです。いちごは根が水に浸かりっぱなしを嫌う、と言われることがありますが、酸素が足りていれば問題は出ませんでした。この装置ではポンプが水を回し続けているので、根に当たる水はいつも新しい状態です。
むしろ深水式は、いちごと相性のいいところがあります。水の量が多いぶん温度が急に変わりません。いちごは夏の高温が苦手なので、根の周りの温度が動きにくいのは有利に働きます。
ただし、育つことと、店で買うような実が穫れることは別です。ここからが本題になります。

味|水っぽい。それでも、おいしい
穫れた実を食べた感想を、そのまま書きます。水っぽかった。みずみずしい、と言ってもいい。そして、おいしかった。
これは矛盾していません。水分が多くて、香りと酸味と甘さがそれに乗っている。かじると果汁が出る。露地のいちごのような、噛みしめると密度のある甘さとは、方向が違います。
そしてもうひとつ、大事なことがあります。この味は、アクアポニックス特有のものではありません。水耕栽培で育てられたいちごを食べたことがあれば、同じ感じだと分かるはずです。
つまり、水っぽさの原因は魚ではない。水で育てていることそのものにあります。ここが分かると、次に何を変えればいいかが見えてきます。
正直に書けば、改良の余地はあります。今の時点で「店のいちごと同じものが穫れる」とは言えません。ただ、家で穫って、その場で食べる実としては十分においしいものでした。

なぜ水っぽくなるのか|甘さをつくる2つのつまみ
ここが、この記事でいちばん書きたいところです。いちごの甘さは、育て方で作られます。プロは、2つのつまみを回して甘さを作っています。
1つめが、水の量です。与える水を絞ると、実に行く水が減って、味が濃くなります。高い棚で育てる方式では、与えた養液のうちどれだけが下に抜けたかを測りながら、この加減を毎日調整しています。
2つめが、肥料の濃さです。養液を濃くすると、実がしまります。大分県の指導マニュアルでは、下に抜けた養液の濃さを0.3〜0.6という範囲に保つよう示されていて、それを週ごとに見ながら濃くしたり薄めたりします。濃くしすぎると葉の先が枯れるので、上限も決まっています。
ここで、アクアポニックスに戻ります。この2つのつまみが、どちらも回せません。
水は絞れません。この装置の水は、魚が泳いでいる水です。絞るという操作が存在しない。ポンプは24時間まわり続けていますから、根はいつでも水に触れています。
濃さも上げられません。養分を濃くするということは、魚のいる水そのものを濃くするということです。魚が先に耐えられなくなります。そもそもこの装置の養分は魚の餌から来るので、増やしたければ餌を増やすしかなく、それは水を汚すことと同じです。
だから、水っぽくなる。これは失敗ではなく、魚と一緒に育てることの、構造上の帰結です。

植える時期|夏の終わりから秋口に、苗を買う
うちが植えたのは、夏から秋口にかけてです。買った苗を入れました。この時期になるのには理由があります。
いちごは、涼しくなって、昼が短くなると花の芽をつくります。逆に言えば、暑いうちは花の準備が進みません。秋に植えて冬を越し、春に穫るというのが基本の流れです。
ここで注意がひとつ。農研機構の試験では、花芽をつくらせる処理をした苗を、昼35度・夜20度という条件に10日あてたところ、その年の収穫が約4割減ったと報告されています(品種はさちのか)。日平均25度を超える日が15〜20日続くと、処理の効果が失われやすいともあります。
家庭の装置に置き換えると、暑い盛りに苗を入れるのは分が悪いということです。買ってきた苗を9月の猛暑日に植えるより、涼しくなるのを待ったほうが、その年の実は増えます。
苗から始めるのをすすめるのも、同じ理由です。ランナー(親株から伸びるつる)で増やす方法もありますが、時間がかかります。1年目は苗を買ってください。増やすのは、うまくいってからで足ります。
冬|そのまま越した
うちは、冬をそのまま越しました。特別なことはしていません。
いちごは寒さに強い植物です。屋外で冬を越すのが本来の姿で、むしろ一定の寒さに当たらないと、春にうまく動き出しません。暖かい部屋に入れてやるのは、親切なようで逆効果になります。
ただし、装置のほうには注意が要ります。水が凍ると魚も配管も危ないので、屋外で冬を越すなら、そこは別に手を打ってください。いちごが平気でも、装置が平気とは限りません。
冬のあいだ、いちごは葉を減らして小さくなります。枯れたように見えても、芯が生きていれば春に動きます。慌てて抜かないでください。
いちごに出る虫はハダニ
うちでいちごに出たのはハダニです。乾いて暑くなってくると現れます。
ハダニは葉の裏につきます。葉に細かい白い点が散り、進むとかすれた色になる。気づくのが遅れやすい虫です。
この装置では、薬に頼れません。魚に効くだけでなく、水の中で働いている細菌まで巻き添えにするからです。だから出はじめに手で取るのが、いちばん確実で、いちばん早いということになります。
予防として効くのは、葉の裏に水をかけることです。ハダニは乾いた場所を好むので、それだけで増え方が変わります。
足りなくなる栄養は、カリウムとカルシウム
実をつける作物に共通する話ですが、いちごでも同じです。この装置で足りなくなるのは、窒素ではありません。
魚の餌から来るのは主に窒素です。葉を茂らせる分には足ります。足りなくなるのは、実をつくるときに要るカリウムと、細胞を固めるカルシウム。そして鉄です。
葉ばかり元気で花が少ない、実が付いても大きくならない。そういうときは、この不足を疑ってください。補い方は肥料の記事にまとめました。魚がいるので、規定より薄く使うのが前提になります。
いちごのデメリットは、槽が1年ふさがること
味の話より先に知っておいたほうがいいのは、時間の話です。
葉物なら、植えて1か月ほどで穫れます。抜いたらすぐ次を植えられる。ところがいちごは秋に植えて、穫れるのは春です。冬のあいだ、その穴はふさがったまま動きません。
家庭サイズの装置は、植えられる穴の数が限られています。いちごに何株か渡すと、そのぶん半年以上、ほかの野菜が作れません。これがいちばん実感する代償でした。
もうひとつ、株が横に広がります。葉を張り、ランナーを伸ばして隣の穴まで来る。放っておくと、周りの野菜に光が届かなくなります。
だからおすすめの入り方は決まっています。装置が安定してから、余っている穴で数株だけ。最初の作物には向きません。
うまくいかないとしたら、どこでつまずくか
いちごが失敗するときの原因は、だいたい4つに絞れます。
1つめが、植える時期の暑さです。これが最も多い。涼しくなるのを待たずに入れると、花の準備が進まないまま冬に入ります。
2つめが、受粉です。いちごは虫か風で花粉が動かないと、実がいびつになったり、そもそも太らなかったりします。屋内や、締め切ったハウスの中では虫が来ません。咲いた花を、柔らかい筆で軽くなでてやってください。数日おきで足ります。
いびつな実ができたときは、味を疑う前にここを見てください。ふくらみ方が片寄っているのは、花粉が回りきらなかった跡です。外に置いていて虫が来る環境なら、何もしなくてかまいません。
3つめが、栄養の偏りです。葉ばかり茂って花が咲かないなら、これを疑います。次の章で書きます。
4つめが、根の酸素です。深水式で育てる以上、水が動いていることが前提になります。ポンプが弱っていて水が回りきっていないと、根が先に傷みます。実がならないと騒ぐ前に、水の流れを見てください。
なお、1株から何個穫れるかを気にする人が多いのですが、家庭サイズでは株を増やすほうが早いです。1株を大きくして数を稼ぐのはプロの技で、穴が余っているなら植える数で解決したほうが確実です。
甘くしたい人へ|できることと、できないこと
最後に、ここまでの話を実際の手に落とします。
できないのは、水を絞ることと、養液を濃くすること。この2つは魚がいる限り諦めてください。プロが使う一番効く手が、そのまま使えません。
できるのは、光を増やすことです。甘さのもとは葉が光でつくります。日当たりのいい場所に置くだけで、実の味は変わります。屋内なら、ここが最大の差になります。
それから、穫るのを急がないこと。赤くなってから1日か2日置くと、味が乗ります。買ういちごは輸送があるので早めに穫りますが、家で穫るならその制約がありません。これは家で育てる人だけが使える手です。
そして、実を減らすこと。1株にたくさん付けると、ひとつずつが薄くなります。花を間引くと残りに回ります。穫り方の考え方は収穫の記事と同じです。
これらを全部やっても、露地のいちごと同じにはなりません。それでも、穫ってすぐ食べられる実は、店では買えません。そこを取りに行く育て方だと考えてください。
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まとめ
アクアポニックスでいちごは育ちます。うちは深水式の槽に苗を植えて、実まで穫りました。
味は水っぽく、そしておいしい。水を絞ることも養液を濃くすることもできないので、甘さを詰める手が使えません。魚と一緒に育てる以上、そこは構造として受け入れることになります。
植えるのは夏の終わりから秋口。冬はそのまま越す。虫はハダニ。足りなくなるのはカリウムとカルシウム。
そのうえで、光を足し、穫るのを1日待ち、実の数を減らす。できることはここにあります。改良の余地は、まだ残っています。
参考にした資料
- 大分県農林水産研究指導センター「イチゴ高設栽培における排液計測を活用したかん水・肥培管理マニュアル」(2020年3月30日 最終更新)
- 農研機構「イチゴの花芽発達に悪影響を及ぼす高温遭遇の程度」(2007年・品種 さちのか)
よくある質問(FAQ)
Q. アクアポニックスでいちごは育ちますか。
A. 育ちます。うちでは深水式の槽に苗を植えて、実まで穫れました。根が水に浸かり続ける方式ですが、ポンプで水が回っていて酸素が足りていれば問題は出ませんでした。
Q. アクアポニックスのいちごは、どんな味ですか。
A. 水っぽい(みずみずしい)けれど、おいしいです。これはアクアポニックス特有の味ではなく、水耕栽培で育てたいちごと同じ方向の味でした。
Q. なぜ水っぽくなるのですか。
A. いちごの甘さは、水を絞ることと養液を濃くすることで作られます。アクアポニックスはその2つがどちらもできません。水は魚のためにいつもあり、濃さは魚が耐えられる範囲までしか上げられないからです。
Q. いちごは何月から始められますか。
A. 夏の終わりから秋口です。いちごは涼しくなって昼が短くなると花の芽をつくるので、秋に植えて冬を越し、春に穫るのが基本になります。暑い盛りに植えると、その年の実が減ります。
Q. 苗から始めますか、ランナーから増やしますか。
A. 1年目は苗を買ってください。ランナーで増やす方法もありますが時間がかかります。うちも苗を買って植えました。
Q. 冬はどうすればいいですか。
A. そのままで越します。いちごは寒さに強く、一定の寒さに当たらないと春にうまく動きません。ただし水が凍ると魚と配管が危ないので、装置のほうには別に手を打ってください。
Q. いちごにはどんな虫が出ますか。
A. ハダニです。乾いて暑くなると葉の裏につきます。この装置では薬が使えないので、出はじめに手で取るのが確実です。葉の裏に水をかけると増え方が変わります。

