葉が黄色い。実が付かない。育ちが止まった。園芸をやってきた人なら、次にすることは決まっています。肥料をやる。
ところがアクアポニックスでは、その手が最初に来ません。水の中に魚がいるからです。畑なら土が受け止めてくれるものが、ここでは全部えらに届きます。
この記事は「足していいのか」という判断だけを扱います。どの栄養が足りないかの見分けは足りない栄養は3つに、pHの直し方は別の記事にまとめてあるので、そちらを先に読んでも構いません。
- 足せます。うちは実際に足していますし、効果もありました。ただし入れ方に条件があります。
- いちばん大事なのは、規定量より薄めること。魚がいる水なので、園芸の表示どおりには入れません。
- 足す前に3つ試してください。株を減らす、pHを見る、魚を増やす。診断の順番としては肥料が最後です。
- ただし長く回すなら、足し続けることになります。魚の餌からは窒素しか十分に来ないからです。
- 「アクアポニックスは肥料がいらない」は、窒素に限った話です。ここを誤解すると育ちが止まります。

アクアポニックスに肥料を足す前に、試す3つ
足りないと感じたとき、じつは肥料以外に原因があることのほうが多い。順に潰します。
1つめ、株を減らす。いちばん多い誤診がこれです。栄養が足りないのではなく、魚が出せる量に対して株が多すぎる。全部が中途半端に細いなら、まず間引いてください。減らした瞬間に、残りが伸びはじめます。
2つめ、pHを見る。水に栄養が入っていても、pHが合っていないと根が吸えません。とくに鉄は、pHが高いと吸収されにくくなります。新しい葉から黄色くなるときは、鉄を足す前にpHを測るのが順番です。
3つめ、魚を増やす。この装置の窒素は餌から来ます。餌の量を増やせる余地があるかを先に確かめてください。魚を増やせるなら、それがいちばん自然な「肥料」です。
この3つで直らなかったときに、はじめて足す話になります。順番を飛ばして足すと、効くのは野菜ではなく魚のほうです。

水耕栽培の液体肥料を、そのまま入れてはいけない理由
いちばん危ない誤解から書きます。水耕栽培用の肥料は、魚がいない前提で作られています。
あの手の肥料は、植物が必要とする成分を高い濃度で溶かしたものです。設計思想として、水の中に生き物がいることを想定していません。だから魚への影響は検証されていない。「植物に良いから、魚にも問題ないだろう」は成り立ちません。
とくに気をつけるのが、銅を含むものです。植物には微量要素として必要でも、魚とエビには少量で強く効きます。成分表示に銅の名前があるなら、この装置には向きません。
もうひとつが濃度です。水耕栽培は肥料濃度を高く保って回しますが、この装置ではその濃さに魚が耐えられません。数値で管理している水に、別の設計の液体を入れることになります。
ただし、これは「絶対に入れるな」という話ではありません。実際にうちで試したものもあります。その話は次の章に書きます。
うちで実際に試したもの|ハイポネックス・メネデール・リキダス・HB101
ここまで慎重な書き方をしてきましたが、うちでは市販の園芸用の資材を実際に使っています。隠す理由がないので、そのまま書きます。
試したのは、ハイポネックス、メネデール、リキダス、HB101。うちにある設備すべてで試して、4つとも効果がありました。魚にも野菜にも、はっきりしたネガティブなことは起こっていません。
ただし入れ方に条件があります。規定量より薄めて使っています。園芸用の表示は、魚がいない前提の濃度です。そのまま入れる話ではありません。
そしてこの一文を、そのまま真似の根拠にしないでください。これは「安全だと確かめた」ではなく、「うちの条件では起きなかった」という意味です。水量も魚の種類も設備の大きさも、読んでいるあなたの環境とは違います。
とくに水量です。同じ量を入れても、水が少ない容器では濃度が跳ね上がります。家庭サイズの小さい装置ほど余裕がありません。薄める、少量から、魚を数日見る。この3つは崩さないでください。
結局、添加し続けることになる
ここが、この記事でいちばん伝えたいことです。何年か回してみて出た結論を書きます。
窒素は魚から供給されます。けれど、それ以外の不足しがちな栄養素は来ません。だから添加し続けることになります。
理由は、魚の餌が魚のために作られているからです。窒素は豊富に入っていますが、植物が必要とするカリウム・カルシウム・鉄は、魚にとって必要な量しか入っていない。この偏りは、装置をうまく回しても消えません。
「アクアポニックスは肥料がいらない」という説明をよく見かけます。あれは窒素に限った話です。窒素だけを見れば正しいのですが、それを全部の栄養に広げて読むと、葉は茂るのに実が付かない装置ができあがります。
だから長く回すつもりなら、足す作業は日常の一部になります。餌やりや足し水と同じ列に並ぶと考えたほうが、実際に近い。
逆に言えば、足すことを後ろめたく思う必要はありません。魚の餌という一本の入口だけで、植物が必要とするものを全部まかなうのは、そもそも無理があります。仕組みの限界であって、腕の問題ではありません。
それでも足りないとき、何を選ぶか
3つを試して、それでも足りない。ここからが本題です。選ぶときの基準は2つあります。
基準1:魚に無害だと分かっているか。これが最優先です。野菜のためにやったことで魚を落としたら、装置そのものが止まります。
基準2:行き過ぎたときに戻せるか。溶けきる材料は、入れた量がそのまま結果になります。自分で止まる材料のほうが安全なのは、pHの話とまったく同じ理屈です。
この2つを満たすのが、うちが常用している貝殻とカキ殻です。カルシウムを供給しながら、酸が減れば溶けるのが止まる。入れすぎても暴走しません。網の袋に入れておけば、量の増減も引き上げるだけで済みます。
鉄については、この装置で最も不足しやすい微量要素として知られています。補い方と、pHとの関係は鉄の記事に詳しく書きました。
カリウムとカルシウムは、実ものを穫るときに足りなくなる二大要素です。葉物だけを育てているなら、まず出番はありません。
足すときの実務|濃くしない、いきなり入れない
何を足すか決まったら、入れ方です。ここでの失敗は、たいてい急ぎすぎたことが原因です。
少量から始めてください。表示されている量の半分以下から入れて、数日おきに様子を見ます。魚の泳ぎ、餌への反応、水の濁り。異変があれば、その時点で止めます。
入れるのは栽培槽の側にします。魚の水槽へ直接落とすと、薄まる前の濃い水に魚が触れます。培地を通しながら薄まっていく経路のほうが安全です。
そして、足した日を記録してください。効いたかどうかは、数日から数週間たたないと分かりません。記録が無いと、次に同じ判断をするときに何も学べません。
やってはいけないのは、複数を同時に足すことです。効いても効かなくても、どれが原因か分からなくなります。いちばん少ないものが全体の上限を決める以上、当てるべきは1つだけです。
そもそも、なぜ栄養が足りなくなるのか
足す話の前に、仕組みを一度だけ確かめておきます。ここが分かると、何を足せばいいかが自分で判断できるようになります。
この装置で野菜が受け取る栄養は、魚のフンを細菌が変えたものです。だから供給されるのは、魚の餌に入っていた成分に限られます。
魚の餌は、魚を育てるために作られています。野菜を育てるために作られてはいません。窒素は豊富に入っていますが、植物が実をつけるのに要るカリウムやカルシウムは、魚にとって必要な量しか入っていない。
ここに構造的な偏りが生まれます。葉を茂らせる窒素は足りるのに、実をつける栄養は足りない。葉物が易しく実ものが難しいと言われるのは、根性論ではなく、この配合の問題です。
だから足りなくなるのは、いつも決まった顔ぶれです。カリウム、カルシウム、鉄。そしてこの3つは、いちばん少ないものが全体の上限を決めるという法則に従います。窒素をいくら増やしても、鉄が足りなければそこで止まります。
足したあと、効いたかどうかをどう見るか
入れたら終わりではありません。効果の判定にも順番があります。
まず見るのは新しい葉です。すでに傷んだ葉は元に戻りません。足したものが効いていれば、あとから出てくる葉の色や大きさが変わります。古い葉を見て「変わらない」と判断して、追加で足してしまうのがよくある失敗です。
時間の目安は、早くて数日、遅ければ数週間です。植物の生育そのものが遅い季節なら、判定にはさらに時間がかかります。冬に足しても、そもそも動きません。
そして魚の側も見てください。餌への反応、泳ぎ方、えらの動き。野菜に効いていても魚に無理が出ているなら、それは成功ではありません。数値も並行して測ると、判断が早くなります。
効かなかった場合は、量を増やす前にそもそも診断が合っていたかを疑ってください。鉄不足だと思っていたものが、じつはpHの問題だった。これはうちも通った道です。
肥料より先に効く、無料の手当て
お金をかけずに栄養の巡りを良くする方法があります。順に効きます。
光を確かめる。栄養が足りているのに育たない設備は、たいてい光が足りていません。育たない3つの理由のうち、光は肥料では埋められない項目です。
沈殿を吸い出す。底にたまった泥は、分解されずに滞留している栄養でもあります。吸い出して流れを回復させると、詰まっていた分が動きはじめます。
水温を見る。低い水温では、細菌の処理も根の吸収も鈍ります。冬に育ちが止まるのは栄養不足ではなく季節です。ここで肥料を足しても、行き場がありません。
この3つは、どれも費用がゼロです。肥料を買う前に、順に確かめてください。

魚に薬を使ったあとの水は、どうするか
肥料の話から少し外れますが、同じ「水に何かを入れる」問題なので触れておきます。
魚の治療に使った薬と塩は、システムに戻せません。薬は硝化を担う細菌にも効きますし、塩は野菜を枯らします。うちは実際に塩を入れて野菜を全部枯らしたことがあります。
治療は別の容器で行い、終わってから魚だけを戻す。戻していいかどうかの線引きは別の記事にまとめました。
この原則を守っているかぎり、肥料についても答えは同じ形になります。入れる前に、それが魚と細菌に何をするかを考える。畑と違って、この装置では入れたものが全部つながっています。
→ 容器ごとの記録を、次に迷ったときに引き出せる
どんなアプリか見てみる(登録はメールアドレスだけ・30秒。記録と通知はずっと無料です)
まとめ
診断の順番としては、肥料は最後です。株を減らす、pHを見る、魚を増やす。この3つで直ることのほうが多い。
けれど長く回すなら、結局は足し続けることになります。窒素は魚から来ますが、それ以外の不足しがちな栄養素は来ないからです。うちも4種類を、規定より薄めて使っています。
畑と違って、この装置では入れたものが全部つながっています。野菜のためにやったことが、魚に届く。その一点だけ忘れなければ、判断を大きく間違えません。
よくある質問(FAQ)
Q. アクアポニックスに肥料を足してもいいですか。
A. 足せますが順番があります。まず株を減らす、pHを見る、魚を増やすの3つを試してください。それでも足りないときだけ、魚に無害で行き過ぎたときに戻せる材料を選びます。
Q. 水耕栽培用の液体肥料は使えますか。
A. そのまま入れるのは避けてください。水耕栽培の肥料は魚がいない前提で作られており、濃度も魚を想定していません。とくに銅を含むものは、魚とエビに少量で強く効きます。
Q. ハイポネックスやメネデールは使えますか。
A. うちではハイポネックス・メネデール・リキダス・HB101を試して、魚にも野菜にもはっきりしたネガティブなことは起こりませんでした。ただしこれは「安全だと確かめた」ではなく「うちの条件では起きなかった」という意味です。水量が少ないほど濃度が跳ね上がるので、試すなら自己責任で、表示量の半分以下から始めて魚の様子を数日見てください。
Q. 何を足すのがいちばん安全ですか。
A. 基準は2つです。魚に無害だと分かっていること、そして行き過ぎたときに戻せること。うちが常用している貝殻とカキ殻は、酸が減れば溶けるのが止まるので暴走しません。
Q. 足した肥料が効いたかは、どこを見れば分かりますか。
A. 新しく出てくる葉を見てください。すでに傷んだ葉は元に戻りません。目安は早くて数日、遅ければ数週間です。あわせて魚の様子と水質の数値も見て、野菜に効いていても魚に無理が出ていないかを確かめます。
Q. 肥料を足す前に、無料でできることはありますか。
A. あります。光が足りているかを確かめる、底の沈殿を吸い出して流れを回復させる、水温を見る。この3つは費用ゼロで、肥料では埋められない部分を埋めます。
