いちばん冷えた朝、ハウスの外に置いた水には薄い氷が張っていました。同じ日、ビニール1枚を隔てた内側の水は、指を入れても冷たいだけで、氷はどこにもありません。気温は氷点下2℃。加温設備は入れていません。
ハウスは、その1枚のぶんだけ季節を弱めてくれます。ただし、もらうものがあれば払うものもあって、うちの場合はそれが水と、夏の暑さでした。
- ハウスの中は、氷点下2℃の朝でも水が凍りませんでした。加温も照明も使っていません。
- かわりに雨が一滴も入りません。減った水は全部こちらで足すことになります。
- 夏は外より暑くなります。遮光と風の通り道を、暑くなる前に作っておきます。
- 虫は入りにくくなりますが、いったん入ると天敵がいないぶん増えます。
- ハウスが無くても、簡易温室と水量の確保で冬の1枚目は代わりになります。

ハウスが変えるのは4つ
屋外にそのまま置いた装置と、ハウスに入れた装置。違いは細かく数えるときりがありませんが、運用が変わるのは4つだけです。得るものが2つ、払うものが2つ。順に書きます。

もらうもの1|冬に凍らない
アクアポニックスの冬でいちばん怖いのは、水が凍って配管が割れることと、ポンプが止まることです。ハウスは、この2つを起こりにくくします。
うちのハウスでは、いちばん冷えた朝でも中の水に氷が張りませんでした。外に置いた水には薄氷が張っていた日です。ビニール1枚でも、夜のあいだに逃げる熱をそれだけ抑えてくれます。
そのおかげで、冬の仕事はほとんど無くなります。餌を止めて、野菜に寒冷紗を掛けて、あとは凍結だけ見る。加温も照明も使っていないのは、ハウスと寒冷紗と水量の3枚で足りているからです。
同じ農場でも、ベランダに置いた大きい水槽のほうは水面が凍ります。魚は底で無事に越しますが、装置の運用としては別の季節を過ごしている感覚です。
もらうもの2|虫が入りにくい
アクアポニックスは、葉に掛けた薬がそのまま魚の水に落ちます。だから効く順は、手で取る・粘着シート・資材という地味な並びになります。
ハウスは、その手前の段階で効きます。開口部が限られているぶん、外から飛んでくる虫が減る。薬という手札が無い畑では、これはかなり大きい利点です。
ただし裏返しがあります。いったん入り込んだ虫は、天敵もいないまま増えます。屋外なら風や鳥やクモが勝手に減らしてくれる相手が、ハウスの中では最後まで残ります。持ち込む苗は、外で数日見てから入れるくらいでちょうどいいです。
払うもの1|雨が一滴も入らない
ここが、ハウスをいちばん見落としやすい点です。屋外の容器なら、減った水のいくらかは雨が補ってくれます。ハウスの中では、それがゼロになります。
蒸発と、葉から抜けていく水だけが進みます。だから夏はほぼ毎日、減ったぶんをカルキを抜いた水で足すことになります。足し水が日課になるという意味では、ハウスは屋外より手が掛かります。
いいこともあります。雨が入らないぶん、水質が急に動きません。強い雨のあとに数値が振れる、という現象がそもそも起きない。梅雨に気をつけるのが水ではなく空気の側だけになるのも、屋根があるからです。
払うもの2|夏は外より暑い
冬に効いた1枚は、夏には逆に働きます。日ざしを通して熱をためるのがビニールの仕事なので、何もしなければハウスの中は外より暑くなります。
水温が上がると、水に溶ける酸素が減ります。魚が苦しくなるのはもちろん、根も酸素を必要としているので、暑さは水の上と下の両方に効いてきます。
やることは2つです。夏のあいだは寒冷紗で日ざしを弱めること。そして、開けられる面を開けて風の通り道を作ること。冬にふとんとして使う布を、夏は日よけとして使う。同じ1枚が季節で役割を変えます。
この切り替えは、暑くなってからでは遅れます。7月に入る前に遮光まで済ませておくのが、うちの手順です。
夏の遮光と換気|具体的にどうするか
「遮光と換気」で終わらせると手が動かないので、うちのやり方を書きます。
遮光に使うのは寒冷紗です。掛けるのは栽培槽の上で、ハウス全体を覆う必要はありません。野菜と水面に直射が当たらなければ目的は達します。色は白を選びます。黒や銀は遮光の力が強すぎて、夏でも野菜の育ちが落ちます。
掛ける時期は、暑くなってからでは遅い。7月に入る前に済ませます。外すのは9月の後半、朝晩が涼しくなってからです。
換気は、開けられる面をすべて開けるのが基本です。大事なのは風の入口と出口を対角に作ることで、片側だけ開けても空気は動きません。入口を低い位置に、出口を高い位置にすると、暖まった空気が上から抜けていきます。
それでも足りないときは、水の側で受けます。水面に日陰を作る、水量を増やす、水を落とす高さを上げて空気を巻き込ませる。水温と酸素の話はそのままハウスの夏の話でもあります。
アクアポニックスの冬対策は?
よく聞かれる質問なので、ハウスがある場合と無い場合に分けて答えます。
ハウスがある場合、やることは3つだけです。餌を止める。野菜に寒冷紗を掛ける。ポンプは止めずに回したままにする。うちはこれで、加温も照明も無しで越しています。
餌を止める判断は日付ではなく水温で決めます。水温が下がると魚の消化も細菌の働きも鈍るので、食べるからといって与え続けると水が汚れます。止める水温と再開の考え方は冬越しの記事にまとめました。
ハウスが無い場合は、逃げる熱を減らす工夫を足します。簡易温室をかぶせる、容器を大きくして水量を増やす、風の当たらない壁際へ寄せる。効くのは「風を止めること」と「水を多くすること」の2つで、この順に効きます。
屋外で水面が凍っても、水の中まで凍りきらなければ魚は底で越します。危ないのは、全体が凍る浅い容器と、配管の中に残った水です。冬に入る前に、露出した配管の水が抜けるようにしておいてください。
ハウス・ベランダ・屋外を、条件で比べる
置き場所を決めかねている人のために、3つを同じ物差しで並べます。うちは3つとも使っているので、感覚としてはこうです。
冬の強さは、ハウスがいちばんです。次がベランダで、屋外に直接置くのがいちばん弱い。ベランダが意外に粘るのは、壁と屋根と建物の熱があるからです。
足し水の手間は、その逆順になります。屋外は雨が補ってくれるぶん楽で、ベランダは屋根のかかり方しだい、ハウスは全部こちらの仕事です。毎日の足し水が続けられるかは、置き場所を決める前に考えておくべき点です。
夏の暑さは、ハウスがいちばん厳しく、次がベランダのコンクリート照り返し、屋外が比較的まし。ただし屋外は日陰を作りやすいので、対策の打ちやすさまで含めると差は縮まります。
虫は、ハウスが少なく、屋外が多い。逆に鳥や猫のような大きい相手はハウスがゼロです。ベランダは高さのぶん虫も減りますが、鳥は来ます。
まとめると、ハウスは「冬と虫」を買って、「水と夏の暑さ」を払う置き方です。屋外はその逆。ベランダはちょうど中間で、始めやすさでは一番です。
光は、思っているより減る
ビニールは透明に見えますが、光を素通しにはしません。新しいうちでもいくらか減り、汚れと経年でさらに落ちます。
葉物なら気にならない差ですが、実ものを狙うときは効いてきます。実ものが難しい理由は栄養の側にもあるので、光まで削られると条件が二重に厳しくなります。ハウスでいきなりトマトに挑まないほうがいいのは、このためです。
ハウスの中の、どこに置くか
ハウスに入れると決めたあと、次に迷うのが位置です。同じハウスの中でも、場所によって条件はかなり違います。
まず、中央より端のほうが冷えます。壁のビニールに近いほど外気の影響を受けるので、冬を気にするなら中寄りに置きます。逆に夏は、開口部に近いほうが風が通って涼しい。年間で見れば、風の通り道に近い中寄りが無難です。
次に、南側に背の高いものを置かないこと。ハウスの中でも思ったより日陰はできます。装置を南寄りに、背の高い作物や棚は北寄りに配置します。
そして作業動線です。足し水はほぼ毎日の仕事なので、蛇口やホースから遠い位置に置くと続きません。毎日通う場所だと考えて、通路側に寄せてください。
床が土のままなら、脚が沈まないように板やブロックを噛ませます。水平が崩れると栽培槽の水位が片寄り、低いほうだけが常に浸かった状態になります。

ハウスが無い人はどうするか
冬に効いていたのは、ハウスという建物そのものではなく「風を止めて、熱の逃げ道を減らす1枚」です。だから代わりは立てられます。
ベランダや庭なら、背の低い簡易温室をかぶせるだけでも1枚目になります。ベランダで始める場合は、そこに壁と屋根がある条件も加わるので、思っているより冷えません。
ただし、小さい設備ほど水量が足りません。水は空気よりゆっくりしか冷えないので、水量そのものが3枚目の保温材です。容器を小さくするほど、朝の冷え込みが直に届きます。ハウスを持たない場合こそ、水量に余裕を持たせてください。
→ 容器ごとの記録を、次に迷ったときに引き出せる
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まとめ
ハウスは冬をやさしくして、虫を遠ざけます。かわりに雨をくれなくなり、夏はこちらが暑さを引き受けます。
もらうものと払うものが決まっているだけで、どちらが上ということはありません。屋外なら雨と風に任せる部分を、ハウスでは自分の手で足す。それだけの違いです。
よくある質問(FAQ)
Q. ビニールハウスなら冬でも加温は要りませんか。
A. うちは加温していません。氷点下2℃の朝でも中の水に氷は張りませんでした。ただし魚が錦鯉だから成り立つ話で、ティラピアのような熱帯の魚では加温が必要です。
Q. ハウスの中は雨が入りませんが、水はどうなりますか。
A. 蒸発と葉からの蒸散だけが進むので、減る一方です。夏はほぼ毎日、カルキを抜いた水を足すことになります。屋外より足し水の手間は増えます。
Q. 夏のハウスは暑すぎませんか。
A. 何もしなければ外より暑くなります。寒冷紗で日ざしを弱め、開けられる面を開けて風を通してください。水温が上がると水に溶ける酸素が減るため、暑さ対策は魚の対策でもあります。
Q. ハウスがなくてもアクアポニックスの冬は越せますか。
A. 越せます。効いているのは建物ではなく、風を止めて熱の逃げ道を減らす1枚です。簡易温室と寒冷紗、そして水量の確保で代わりになります。
Q. ハウスに入れると虫は出ませんか。
A. 外から入ってくる数は減ります。ただし一度入ると天敵がいないので増えます。持ち込む苗は外でしばらく様子を見てから入れてください。

