魚が浮いた朝のことは、たぶん一生おぼえています。うちも、全滅させたことがあります。
アクアポニックスは、失敗の種類がそれほど多くありません。同じ場所で、同じ順番でつまずきます。だから先に地図を渡しておけば、そのほとんどは避けられます。この記事は、その地図です。うちが実際にやった失敗も、隠さずに書きます。
- 失敗は設計・製作・立ち上げ・運用の4段階で起きます。前の段階のものほど、あとで直せません。
- いちばん多いのは、待てずに魚を入れること。毒を処理する細菌が育つ前に入れると、魚が持ちません。
- 次に多いのが植えすぎです。葉が薄いまま止まるのは、世話ではなく株の数の問題です。
- 製作でつまずくのは、たいてい水漏れと径の食い違い。うちも最初は漏らしました。
- 「うまくいっている」と感じている時期がいちばん危ないという共通点があります。

失敗は4つの段階に分かれる
順番に意味があります。前の段階でつまずくほど、あとから直すのが難しくなります。設計の失敗は作り直しになりますが、運用の失敗は明日から直せます。
だから、いま困っている人は下から探してください。これから始める人は、上から読んでください。
段階1|設計の失敗|買ってから考える
いちばん重い失敗が、置き場所と大きさを決める前に買うことです。装置は買い直せますが、置き場所は買い直せません。
日当たりが足りない場所に置いてしまう。水道から遠くて足し水が続かない。傾いた床に置いて、水位が片側に寄る。どれも、あとで気づいても動かせないことがあります。あとから変えられない4つを先に決めるのは、このためです。
もう一つが、小さすぎる容器で始めることです。水が少ないほど、水温も水質も一日のうちで大きく振れます。初心者ほど大きめの水量にしたほうが失敗しにくいという、直感と逆の関係があります。
そして、始める時期。寒い時期に始めると立ち上げに倍の時間がかかります。10月に思い立って、11月に組んで、12月に魚を入れて失敗する。これは季節の問題であって、腕の問題ではありません。
段階2|製作の失敗|漏れる、合わない
ここはうちが実際につまずいた場所です。本当の初期は、水漏れしました。
底に穴を開けて管を通す構造なので、そこから漏れます。対策はシールテープと、必要ならシリコンシーラント。組んだ日にいきなり魚を入れず、まず水だけで1日置いて、床が濡れていないかを確かめてください。
もう一つが、径の食い違いです。穴あけに使う刃の直径と、塩ビ管の直径は一致しません。表示が同じでも、実際の寸法は多少ずれます。うちも最初はここで手間取りました。買う前に、刃と管を並べて確かめるのがいちばん早い。
培地の選び方も、この段階の失敗です。安いからと赤玉土を使うと、崩れて詰まります。詰まった培地は洗っても戻らないので、全部出して入れ替えることになります。
最後に、栽培槽を高く置きすぎること。作業はしやすくなりますが、水を持ち上げる高さのぶんだけ電気を払い続けることになります。
段階3|立ち上げの失敗|待てない
もっとも多く、もっとももったいない失敗がこれです。組み上がった装置に、すぐ魚を入れてしまう。
組んだばかりの水には、魚の出す毒を処理する細菌がいません。魚を入れずに1〜3週間回して細菌を育てるのが正しい手順で、ここを飛ばすと、魚がその毒を全部引き受けることになります。
次に多いのが、数値が動いたのを失敗だと受け取ってしまうことです。立ち上げ中はアンモニアも亜硝酸も派手に上下します。それは順調に進んでいる証拠なのに、驚いて水を全部換え、また最初からやり直す。この往復に何か月も費やす人がいます。
逆に、三つとも数値が出ないのを「きれいな水」だと思うのも間違いです。何も出ていないのは、まだ何も始まっていない状態です。
そして、最初から魚を入れすぎること。少なめから始めて、水ができてから足すほうが安全です。
段階4|運用の失敗|植えすぎ、減らさない、洗いすぎ
ここからは、動きはじめた装置で起きる失敗です。明日から直せるものばかりですが、気づきにくい。
いちばん多いのが、植えすぎです。栽培槽の穴が8つあると、8株植えたくなります。けれど養えるかどうかを決めているのは穴の数ではなく餌の量で、魚が小さければ1株にも届きません。

写真がその現物です。うちが種を直に播いて、間引かなかった結果、どれも葉が薄いまま止まりました。枯れてはいません。ただ、全部が中途半端に細い。直し方は「魚を増やす」ではなく「株を減らす」です。
秋の失敗は、餌を減らさないことです。魚はまだ食べます。けれど水温が下がると消化も細菌の処理も鈍るので、同じ量を入れ続けると水が汚れます。食欲ではなく水温で決めてください。
そして、ろ材の洗いすぎ。培地のぬめりは汚れではなく細菌の住まいです。水道水でゴシゴシ洗うと、細菌ごと流れます。きれい好きな人ほどやりがちな失敗です。
薬も同じ理由で危険です。魚に効く薬は細菌にも効きます。治療した魚の水は、システムに戻せません。
うちがやった失敗を、時系列で
他人の失敗談は他人事に読めるので、うちの分を並べます。順番も、そのままです。
最初は水漏れでした。穴を開けて管を通した継ぎ目から染みる。シールテープを巻き直し、必要なところにはシリコンシーラントを打って止めました。いま組むなら、最初からそうします。
次が葉の薄さです。種を直に播いて、もったいなくて間引かなかった。結果、栽培槽いっぱいの、細い葉物ができました。魚が出せる栄養に対して株が多すぎただけの話です。
そして、魚を全滅させた朝があります。これはいまも書くのが重いのですが、隠しても誰の役にも立ちません。生き物を預かる以上、その可能性は最後まで消えません。
設備を大きくしてからは、失敗の種類が変わりました。水の話ではなく、続ける話と、売る話になっていきます。そちらの失敗は別の記事にまとめました。

失敗しやすい人に共通する、たった1つの癖
4段階を通して見ると、原因はほぼ1つに集約されます。手を出しすぎることです。
待てずに魚を入れる。もったいなくて間引かない。きれいにしたくて洗う。数値が動いたから水を換える。心配だから餌を足す。どれも善意で、どれも装置を壊す方向に働きます。
この装置がうまく回っているとき、人間の仕事は驚くほど少ない。餌をやって、水位を見て、たまに測る。やらないことのほうが多いという感覚に慣れるまでが、いちばんの山かもしれません。
もう一つ共通するのが、うまくいっている時期に測らなくなることです。立ち上げ中は毎日測るのに、安定すると測らない。半年ぶりに測ったらpHが6を割っていた、という崩れ方は本当によく起こります。
症状から、どの失敗かを引く
いま起きていることから逆に引けるように、代表的な症状を並べます。
入れた魚が数日で弱った。立ち上げ不足です。細菌が育つ前に毒が出ています。餌を止めて、水を3分の1だけ換えて、あとは待ちます。次からは、魚を入れずに回す期間を必ず取ってください。
野菜が細いまま、色も薄い。植えすぎか、餌が少なすぎるかです。同じことの裏表なので、まず株を減らします。それでも変わらないなら、魚の側が小さすぎます。
新しい葉だけが黄色い。栄養不足ですが、種類が絞れます。新しい葉から黄色くなるのは鉄で、しかもpHが高いと鉄は吸えません。足す前にpHを見てください。
古い葉の先から枯れてくる。こちらはカリウムです。実をつける段階で足りなくなる代表格で、葉物では起きにくい。
根が茶色くてどろっとしている。根腐れ=酸素不足です。水が動いていないか、培地が細かすぎて詰まっています。
水が臭う。よどみです。臭いを消すのではなく、沈殿がたまっている場所と、流れが届いていない場所を探します。
白く濁った。細菌の急増で、餌を入れすぎた直後やろ材を洗った直後に起こります。餌を止めて待てば澄みます。ここで水を換えると長引きます。
失敗したあと、どこから戻すか
すでに失敗している人向けに、戻し方の順番を書いておきます。慌てて全部やり直す必要はありません。
まず餌を止めます。何が起きているか分からないときの最初の一手はこれです。餌を入れなければ毒は増えません。魚は数日食べなくても平気です。
次に測ります。アンモニア・亜硝酸・硝酸塩・pHの4つで、いまどの段階かが分かります。ここを飛ばして手を打つと、たいてい間違った方向へ動きます。
そのうえで、換えるとしても3分の1まで。全量を換えると、できあがった水と細菌を捨てて、立ち上げからやり直しになります。
そして、株が多いと感じたら間引きます。減らす方向の手当ては、たいてい正しい。足す方向の手当てを試すのは、そのあとです。
→ 容器ごとの記録を、次に迷ったときに引き出せる
どんなアプリか見てみる(登録はメールアドレスだけ・30秒。記録と通知はずっと無料です)
まとめ
設計、製作、立ち上げ、運用。失敗はこの4か所でしか起きません。そして原因をたどると、たいてい「手を出しすぎた」に行き着きます。
待つこと、間引くこと、洗わないこと。どれも我慢の話です。この装置でいちばん難しいのは、たぶん技術ではなく、放っておく勇気のほうです。
よくある質問(FAQ)
Q. アクアポニックスの失敗例で、いちばん多いのは何ですか。
A. 立ち上げを待てずに魚を入れることです。組んだばかりの水には毒を処理する細菌がいないため、魚がその毒を全部引き受けることになります。魚を入れずに1〜3週間回してください。
Q. 野菜の葉が薄いまま育ちません。失敗でしょうか。
A. 株の植えすぎです。養える量は穴の数ではなく餌の量で決まっているので、魚が小さければ全部が細くなります。直し方は魚を増やすことではなく、株を減らすことです。
Q. 水が漏れます。どうすればいいですか。
A. 底に管を通した継ぎ目から漏れることがほとんどです。シールテープを巻き直し、必要ならシリコンシーラントで止めます。組んだ日は魚を入れず、水だけで1日置いて確かめてください。
Q. 魚が死んでしまいました。何から手をつけますか。
A. まず餌を止めます。次にアンモニア・亜硝酸・硝酸塩・pHを測って、いまどの段階かを確かめます。水を換えるとしても3分の1までにしてください。全量交換は細菌ごと捨てることになります。
Q. 失敗しないために、いちばん大事なことは何ですか。
A. 手を出しすぎないことです。待てずに入れる、もったいなくて間引かない、きれいにしたくて洗う。どれも善意ですが、装置を壊す方向に働きます。うまくいっている時期ほど測り続けてください。

