気に入った子どうしで殖やして、気づけば3世代目の容器が並んでいる。
買ってきた1組から殖やして、気に入った子を残して、その子どうしでまた殖やす。そうやって同じ親の血を世代でつないでいくのが、メダカの累代です。けれど、ずっと兄妹どうしで続けていいのか。どこかで弱くなるのではないか。新しい親を入れたほうがいいのか。その線がどこにも書いていません。
この記事は、研究所で兄妹交配を続けた記録を手がかりに、その線を引きます。何世代で崩れるとは言い切れません。そのかわり、崩れはじめたときにどこに出るか、そのとき何をするかを決めておきます。

- 兄妹で何十世代も続いた系統は実際にある。ただし研究所でも、途中で多くの家系の繁殖力が落ちて消えた。
- 「何世代まで大丈夫」という線は無い。見るのは卵の数・孵化・体の形の3つ。
- 前兆が1世代だけなら水温と餌を直す。同じ条件で2世代続いたら、新しい血を入れる。
- 新しい血は、同じ品種で、別の場所で殖やされた親から。違う品種は入れない。
- どの親からどの子が出たかを記録しないと、崩れたときに戻れない。
メダカの累代は何世代まで続くのか|研究所では26世代を超えた。ただし多くの家系が途中で消えた
答えを先に書きます。兄妹どうしで何十世代も続けた系統は、実際にあります。ただし、それは途中で弱った家系を落として、残った家系だけをつないだ結果です。
放射線医学総合研究所では、1974年からメダカの兄妹交配を続けました。水温25℃・明るい時間16時間で飼い、1年に5世代を回しています。その報告には、近親交配を続けるうちに、多くの家系で繁殖力が落ちたと書かれています。それでもヒメダカの2家系と野生型の3家系は、1979年までの5年で22世代に達し、報告の時点で26世代を超えていました(Hyodo-Taguchi 1982, Medaka 1:31-32)。
研究の世界では、20世代以上にわたって兄妹交配を繰り返し、遺伝子がそろいきった系統を「近交系」と呼びます(岡村 2004, 筑波医療科学)。同じ系統の魚どうしなら、体の性質がほとんど同じになるので、実験に使われます。
家庭の累代に置きかえると、こうなります。兄妹で続けること自体は、すぐに失敗するやり方ではありません。けれど、どの家系が残るかは、やってみないと分かりません。研究所は家系をいくつも並べて、弱ったものを落とせました。1つの容器で1つの系統だけをつないでいる家庭では、その1つが弱ったら終わりです。
私は、同じ系統を兄妹どうしで3世代以上つないだことがあります。そのあいだ、目に見える崩れはありませんでした。ただ、それは私の系統がたまたま残る側だったというだけで、何世代までなら大丈夫という線にはなりません。

兄妹で続けると、何が起きるのか|隠れていた弱い遺伝子が、そろって表に出る
メダカは、遺伝子を父と母から1つずつ、2つで1組として持っています。弱さにつながる遺伝子の多くは、もう1つが普通の遺伝子なら表に出ません。2つとも弱いほうがそろったときに、はじめて体に出ます。
よその系統どうしで殖やすなら、同じ弱い遺伝子を父と母の両方が持っている見込みは小さい。兄妹どうしは、同じ親から同じ遺伝子を受け継いでいるので、その見込みがぐっと上がります。世代を重ねるほど、2つがそろった子の割合が増えていきます。
トランプにたとえると、同じ山から配ったカードどうしでペアを作るようなものです。山にジョーカーが1枚混ざっていれば、何度か配るうちにジョーカーどうしのペアができます。混ざっていなければ、何度配ってもできません。研究所で残った家系と消えた家系の差は、この「山に何が混ざっていたか」の差だと考えると分かりやすいと思います。
逆に言えば、そろうのは悪い遺伝子だけではありません。残したい色や形の遺伝子もそろっていきます。累代で品種の特徴が安定していくのは、この働きのおかげです。そろえたいものと、そろってほしくないものが、同じ仕組みでそろう。累代の難しさは、ここにあります。
崩れる前兆はどこに出るのか|卵、孵化、体の形の3つ
研究所の報告で落ちたのは「繁殖力」でした。家庭で同じことを見るなら、見る場所は次の3つです。どれも毎日の世話のついでに見られます。
1つめは、卵の数です。同じ水温・同じ餌・同じ日の長さで、前の世代より卵が目に見えて少ない。ただし、卵が少ないのは水温や日の長さでも起きます。先に卵を産まないときに見るところを確かめて、条件が同じなのに減っているときだけ、系統を疑います。
2つめは、孵化です。卵は産むのに、白く濁る卵が増えた、孵っても数日で落ちる針子が多い。これも水温が外れていると起きるので、卵の水温の線の中に入っているかを先に見ます。
3つめは、体の形です。背骨が曲がった子、ひれが欠けた子、体が極端に小さい子が、前の世代より目に見えて増えた。背曲がりには、生まれつきで遺伝する型と、育つ途中で起きる型があります。見分け方は背曲がりの記事に書きました。
3世代目でオスばかりになった、という話も見かけます。これは崩れとは別の話で、メダカの性は孵化するときの水温でも傾きます。水温が高すぎるとオスが増えることがあるので、まず卵の水温を疑ってください。

兄妹で続けるか、新しい血を入れるか|前兆が2世代続いたら入れる
前兆が1回出ただけでは、系統のせいとは限りません。水温や餌の当たり外れで、1世代だけ悪いことはよくあります。そこで、同じ条件で2世代続けて悪かったら、新しい血を入れると決めておきます。迷ったら、この線で判断してください。

入れるのは、同じ品種で、別の場所で殖やされた親です。違う品種を入れると、色や形がまざって元に戻らなくなります。品種が混ざる話は違う種類のメダカを混ぜる記事にまとめました。
私も、よそから親を買い足して入れたことがあります。入れた直後の世代は、それまでの系統の特徴が少し薄まります。新しい親が持ってきた遺伝子が混ざるからです。そこから選別で、残したい特徴の子を選び直していけば、数世代で元の姿に近づいていきます。
新しい血を入れることは、失敗ではありません。累代を長く続けている人ほど、どこかで入れています。入れずに守り続けたい系統なら、次の章のように、自分の手元で系統を分けておく方法があります。
2つの容器で系統を分けて回す|外から入れずに、遠い親どうしを掛ける
同じ品種を2つの容器に分けて、それぞれの中で殖やします。容器Aの系統と容器Bの系統は、世代を重ねるほど少しずつ違う遺伝子の組み合わせになっていきます。前兆が出たら、AのオスとBのメスを掛け合わせます。兄妹よりは遠い親どうしになるので、そろってしまった弱い遺伝子が、もう一度ばらけます。

この方法の弱点は、容器と手間が倍になることです。容器が1つしか置けないなら、向きません。そのときは、前の章のとおり、外から同じ品種の親を入れるほうが早いです。
同じ形の容器を2つ並べると、系統AとBを同じ条件で比べられます。
私は、系統を2つの容器に分けて回したことはありません。ここに書いたのは、研究所が家系をいくつも並べて残すのと同じ考え方を、家庭の容器の数に合わせた方法です。片方が冬越しで全滅しても、もう片方が残るという意味でも、守りたい系統なら試す価値があります。
1組から殖やすか、何組かから殖やすか|親の組が多いほど、そろうのは遅い
同じ累代でも、毎世代1組だけを親にするのと、3組を親にするのとでは、遺伝子がそろう速さが違います。
1組だけなら、次の世代の子は全員が同じ父と母の兄妹です。そこからまた1組を選べば、兄妹どうしの掛け合わせが毎世代続きます。研究所の兄妹交配と同じ、いちばん速くそろうやり方です。
3組を親にして、卵をまとめて育てれば、次の世代の子どうしは、半分血のつながったいとこのような関係も混ざります。親にする組が多いほど、同じ弱い遺伝子が2つそろう見込みは下がり、そろうのはゆっくりになります。そのかわり、残したい特徴がそろうのも遅くなります。
迷ったら、基本は2〜3組を親にすると決めておくと、そろう速さと崩れにくさの間に収まります。何組で始めるかは種親は何匹の記事に、オスとメスの比率と一緒に書きました。どうしても1匹の特徴を残したいときだけ、その子を中心に1組で回します。
何世代目かは、どう数えるのか|親を選び直した回数で数える
累代の世代は、親を選び直した回数で数えます。買ってきた親、または最初に手に入れた親が初代です。その子から親を選んで殖やした子が2世代目、そこからまた選んだ子が3世代目です。
屋外で親と子が同じ容器にいて、いつのまにか増えている場合は、世代が混ざって数えられません。累代として記録するなら、産卵床ごと卵を別の容器に移して、親と子を分けておく必要があります。数えられない世代は、崩れが出たときに「何世代目からか」が分からないので、前兆が2世代続いたかどうかも判断できなくなります。
研究所が1年に5世代を回せたのは、25℃と長い明るさで、孵化から2〜3か月で親になるように飼ったからです。屋外で季節に任せて殖やすなら、1年に1〜2世代がふつうの進み方です。3世代つなぐのに2〜3年かかる、と考えておくと、記録をつける意味が見えてきます。
記録しないと、戻れない|どの親から、どの子が出たか
累代でいちばん困るのは、崩れが出たときに「どこから崩れたのか」が分からないことです。去年の親はどれだったか、新しい血はいつ入れたか、何世代目か。覚えているつもりでも、3世代たつと混ざります。
残しておくのは、次の4つだけで足ります。
- 容器ごとの品種と、何世代目か
- 親にした個体を選んだ日と、その特徴
- 新しい血を入れた日と、どこから来た親か
- 卵の数、孵化、形の崩れの、その世代の様子
紙のノートでもかまいません。大事なのは、世代をまたいで同じ場所に書くことです。前兆が2世代続いたかどうかは、前の世代の記録がないと判断できません。
どこで見切るか|終わりの判断
線を決めておきます。
- 前兆が1世代だけなら、水温と餌を直してもう1世代見る。系統のせいとは限らない。
- 同じ条件で2世代続いたら、新しい血を入れる。同じ品種で、別の場所で殖やされた親を。
- 新しい血を入れても、次の世代で同じ前兆が出たら、その系統は親を総入れ替えする。系統の問題ではなく、飼い方の側に原因が残っている見込みが高い。
- 守りたい系統は、2つの容器に分けておく。片方を冬に失っても、つなげる。
累代は、トランプの山を手元で配り続けるようなものです。何が混ざっていたかは、配ってみないと分かりません。記録をつけて、2世代続いたら手を打つ。それだけ決めておけば、何世代までという数字がなくても迷いません。
まとめ
兄妹どうしで何十世代も続いたメダカの系統は、研究所に実際にあります。ただしそれは、途中で繁殖力が落ちた多くの家系を落として、残った家系だけをつないだ結果です。家庭で1系統だけをつなぐなら、何世代までなら大丈夫という線はありません。
かわりに見るのは、卵の数・孵化・体の形の3つです。1世代だけの不調は水温や餌でも起きるので、同じ条件で2世代続いたら、同じ品種で別の場所で殖やされた親を入れます。守りたい系統は2つの容器に分け、どの親からどの子が出たかを世代をまたいで記録しておきます。
よくある質問(FAQ)
Q. メダカは兄妹で何世代まで交配できますか。
A. 研究所では兄妹交配を26世代以上続けた系統がありますが、途中で多くの家系の繁殖力が落ちて消えています。何世代までなら大丈夫という線はありません。卵の数・孵化・体の形に前兆が2世代続けて出たら、新しい血を入れるのが目安です。
Q. 累代と近親交配は同じですか。
A. 累代は、同じ系統を世代を重ねてつないでいくことです。家庭の累代では兄妹どうしで殖やすことが多いので、近親交配を含むことがほとんどです。
Q. 新しい血はどこから入れればいいですか。
A. 同じ品種で、別の場所で殖やされた親を入れます。違う品種を入れると色や形が混ざって戻らなくなります。入れた直後の世代は特徴が少し薄まるので、選別で残したい子を選び直します。
Q. 3世代目でオスばかりになりました。累代のせいですか。
A. 累代のせいとは限りません。メダカの性は孵化するときの水温でも傾き、高すぎるとオスが増えることがあります。先に卵を管理した水温を確かめてください。
Q. 累代の記録には何を書けばいいですか。
A. 容器ごとの品種と何世代目か、親を選んだ日とその特徴、新しい血を入れた日とどこから来た親か、その世代の卵の数・孵化・形の崩れの4つで足ります。前兆が2世代続いたかを判断するには、前の世代の記録が要ります。
Q. 屋外で親と子が同じ容器にいます。何世代目か分かりません。
A. 親と子が混ざった容器では世代を数えられません。累代として記録するなら、産卵床ごと卵を別の容器に移して、親と子を分けてから数えはじめてください。
Q. 累代を続けると背曲がりが増えますか。
A. 背曲がりには遺伝する型と、育つ途中で起きる型があります。兄妹交配で遺伝する型がそろって出ることはありえますが、増えたと感じたら、まず過密やけがなど育つ途中の原因を除いてから系統を疑います。
次に見るのは、ここ
残す子を選ぶ見方を知るならメダカの選別のやり方へ。
最初の親を何匹そろえるかならメダカの種親は何匹へ。
曲がった子が出たときの見分けならメダカの背曲がりへ。
