子どもが、川でエビを採ってきた。小さな網の中で、透きとおった体が跳ねる。とりあえずメダカの鉢に入れて、あとで調べようと思った。その夜、名前を検索して「スジエビは肉食」という言葉が目に入る。
手元のエビがスジエビなのか、ミナミヌマエビなのか。見た目はどちらも小さくて透明で、色も茶色っぽい。体の色で比べると、かえって迷います。スジエビとミナミヌマエビの違いは、色ではなく形に出ます。はさみの長さと、腹のスジ。この2つで、たいていは分かります。
この記事では、スジエビとミナミヌマエビ、それにもう1種、取り違えやすいヤマトヌマエビの見分け方を、県や国の資料にある特徴から並べます。最後に、見分けたあとでメダカの容器に入れていいかどうかを決めます。
- 前の脚のはさみが細く長く、頭の先より前に出ればスジエビ。短く先に毛の束があればヌマエビの仲間。
- スジエビは透明な体の腹に横の黒いスジが7本、脚の関節が黄色。ミナミのスジは背中に縦の1本。
- ヤマトヌマエビは大きく、体の横に赤茶色の点の列。淡水の容器では増えない。
- スジエビはメダカの容器に入れない。分からないうちは別の容器に分ける。
- メダカと飼うエビは、店か通販で名前の確かなミナミヌマエビを買うほうが安心。
スジエビとミナミヌマエビの違い|はさみの長さと、腹の7本のスジで見分ける
答えを先に書きます。前の脚のはさみが細く長く、頭の先より前に出るならスジエビです。はさみが短く、先に毛の束が付いているならミナミヌマエビかヤマトヌマエビ。そのうえで、透明な体の腹に黒いスジが並んでいればスジエビ、と確かめます。
スジエビはテナガエビの仲間で、ミナミヌマエビとヤマトヌマエビはヌマエビの仲間です。同じ「小さい川のエビ」に見えても、科がちがいます。科がちがうと、はさみの形がちがう。だから、はさみを見るのがいちばん確かです。
大きさは、手がかりの1つにはなります。国土交通省の資料では、スジエビは体長約55mm(国土交通省 弥栄ダム 生き物図鑑・スジエビ)。京都府のレッドデータブックでは、ミナミヌマエビはオスが20mm未満、メスが28mm未満です(京都府レッドデータブック・ミナミヌマエビ)。ヤマトヌマエビは35〜45mmと、ミナミより一回り大きい。
ただし、大きさだけで決めるのは向きません。川で採れるスジエビには、まだ育ちきっていない2cmほどの若い個体も混じります。小さいからミナミ、とは言えない。迷ったら、まず、はさみを見ます。


はさみは長いか、短いか|体の色より確かな見分け方
網ですくったエビを、透明なコップに水ごと移す。横から見ると、頭の下から細い脚が何本も出ています。見るのは、いちばん前の2組の脚です。
テナガエビの仲間は、前から2番目の脚が著しく長いのが特徴です(ブリタニカ国際大百科事典・テナガエビ)。スジエビの場合、その脚の先に小さなはさみがあり、伸ばすと頭の先のとがった角より前に出ます。物をつまんで、口に運ぶ形です。
ヌマエビの仲間は、前の2組の脚にはさみがあるものの、先に毛の束が付いています(日本大百科全書・ヌマエビ)。ミナミヌマエビもヤマトヌマエビも、この形です。脚は短く、頭の先より前には出ません。底の藻や汚れを、ほうきのように掃き集めて食べる形です。
この違いは、体の色が変わっても変わりません。ミナミヌマエビは、住んでいる水や底の色で、透明にも茶色にも緑っぽくもなります。はさみの形は、どの色の個体でも同じです。体の色が服なら、はさみは骨格のようなもので、着替えても変わりません。
見えにくいときは、エビが餌を食べている時間を狙います。沈む餌をひと粒落とすと、前の脚を伸ばして口へ運ぶので、はさみの長さがはっきり見えます。長い脚でつまんでいればスジエビ、短い脚の先の毛で掻き寄せていればヌマエビの仲間です。

腹のスジと、脚の黄色|スジエビにだけある模様
はさみで「テナガエビの仲間かもしれない」と思ったら、次に体の模様を見ます。国土交通省の資料では、スジエビは「体は透明で、腹部に7本の黒いしま模様」があり、「足の関節が黄色く目立ちます」と書かれています(国土交通省 弥栄ダム 生き物図鑑・スジエビ)。
ここで1つ、取り違えやすい点があります。ミナミヌマエビにも、スジのように見える模様を持つ個体がいます。京都府の資料には「頭胸甲から腹部の正中線上にオリーブ色の縞模様がある個体も見られる」とあります(京都府レッドデータブック・ミナミヌマエビ)。
見分けは、スジの向きです。ミナミのスジは、背中の真ん中を頭から尾へ縦に1本通る線。スジエビのスジは、腹の節をまたいで横に入る黒い帯で、何本も並びます。縦に1本ならミナミ、横に何本もならスジエビ、です。
脚の関節の黄色も、スジエビの手がかりになります。透明な脚の節ごとに、黄色い点が並ぶ。ミナミヌマエビの脚は体と同じ色で、こうした黄色の点は目立ちません。はさみ、腹の横のスジ、脚の黄色。3つそろえば、スジエビと考えてよいでしょう。
ヤマトヌマエビとは、どう違うのか|点線の模様と、淡水では増えないこと
店でミナミヌマエビと並んで売られているのが、ヤマトヌマエビです。どちらもヌマエビの仲間なので、はさみの形は同じで、先に毛の束があります。はさみでは見分けられません。見るのは、大きさと体の横の点です。
ヤマトヌマエビは体長35〜45mmで、ヌマエビの仲間としては大型です(山口県レッドデータブック2018)。体の横に、小さな赤茶色の点が、切れた線のように並ぶ。兵庫県の資料は、この点の列があるので「他のヌマエビ類との区別は容易」と書いています(兵庫県レッドデータブック・ヤマトヌマエビ)。
もう1つの違いは、増えるかどうかです。ヤマトヌマエビの子は、生まれてしばらく海で育ちます。山口県の資料は、ヤマトヌマエビについて「淡水の水槽では繁殖しない」とはっきり書いています。メダカの容器で卵を抱えることはあっても、子は育ちません。
つまりヤマトは、入れた数より増えない掃除役です。コケをよく食べる大きめのエビが欲しく、数を自分で決めたい人には合います。増えて容器いっぱいになるのが困る人にも向いています。反対に、勝手に増えて数を保ってほしい人には向きません。それはミナミの役目です。
増えないので、入れた数がそのまま保たれます。メダカの成魚の容器のコケ取り役に。
ヤマトの側にも気をつけたい点はあります。ミナミより体が大きく、力も強い。弱った針子や死にかけた魚をつつくことがあり、エビが針子を食べる条件はエビは針子を食べるかの記事にまとめました。卵や針子のいる容器には入れません。
メダカの容器で増えるのは、どのエビか
ここまでの3種は、増え方がまるで違います。エビには、子が海で育つ種類と、川や池だけで一生を終える種類があります。山口県の資料は、長い幼生期を持つ種類は「淡水だけの飼育水槽では繁殖ができず」、川や池だけで生活を終える「陸封種」には「スジエビ、テナガエビ、ミナミヌマエビ」が含まれる、と整理しています(山口県レッドデータブック2018)。
ミナミヌマエビは、卵が大きく数が少ない。孵った子は、親と同じ形の小さなエビとして、すぐに底で暮らし始めます(佐藤ほか 1994年・鹿児島大学理学部紀要)。水に漂う時期がないので、メダカの容器の中でも、そのまま育ちます。
私のところでは、屋外の容器でメダカとミナミヌマエビを一緒にしています。冬を越して、春にはまた数が増えています。稚エビがメダカに食べられて減ったこともありません。数の目安は、メダカとほぼ同数で、メダカとエビの比率の記事に書きました。
スジエビは、話が少し込み入っています。最近の研究で、スジエビには2つの型があると分かってきました。一方の型の子は海水の混ざった水でしか育たず、海に注ぐ川の下流にだけいる。もう一方の型の子は、淡水でも育つ(池田・武田 2023年・水産育種)。採ってきた川によって、容器で増えることもあれば、増えないこともある、ということです。
スジエビは、メダカを食べるのか
検索すると、「スジエビは肉食」「メダカを襲う」という言葉がたくさん出てきます。読者の投稿にも、川で採ったエビをメダカの水槽に入れたあとで、それを知って不安になった、という話が並びます。では、資料ではどう書かれているのか。
国土交通省の生き物図鑑は、スジエビを「雑食性で、水草や小型水生動物の死がいなどを食べます」と書いています(国土交通省 弥栄ダム 生き物図鑑・スジエビ)。生きた魚を襲う、とは書いていません。私が探した範囲では、スジエビがメダカを捕まえて食べたと記した公的な資料や論文は、見つかりませんでした。
一方で、環境省は、小さな魚を守る手引きの中で、スジエビをはっきり危険な相手に挙げています。絶滅が心配される小魚カワバタモロコの保全の手引きに、スジエビが急に増えた場所や、釣り餌のスジエビ類が持ち込まれた場所で、カワバタモロコが「急激に減少したり、絶滅したりすることも確認されています」とあります。対策として、捕まえて取り除くことまで勧めています(環境省・カワバタモロコの保全の手引き)。
ここから言えるのは、こうです。スジエビは、なんでも食べる雑食のエビで、長いはさみで物をつかむ力がある。小さな魚が減った例が、国の資料に載っている。メダカを必ず食べるとは言えないけれど、メダカと同じ容器に入れる理由はない。針子や稚魚のいる容器なら、なおさらです。
これは、混泳できる相手を並べたメダカと混泳できる魚・エビの記事で、スジエビを「入れないほうがよい相手」に入れているのと同じ結論です。

川で採ったエビは、メダカの容器に入れていいか
見分けがついて、ミナミヌマエビだと分かった。それなら、川のエビをそのままメダカの容器に入れていいのか。私は、メダカと一緒に飼うエビは、店か通販で名前の確かなものを買うほうを勧めます。理由は3つあります。
1つめは、混ざりです。川でまとめてすくうと、ミナミの中に、若いスジエビやほかのエビが混じります。1匹ずつ全部のはさみを見るのは、現実には難しい。1匹でも見落とせば、メダカの容器に入ります。
2つめは、持ち込みです。川の水や泥には、メダカの容器にいない生き物が入っています。エビの体や、すくった水草に付いてくる。小さな巻貝や、メダカの卵を食べるヤゴも、こうして入ります。
3つめは、そもそも「ミナミヌマエビ」かどうかです。京都府の資料は、中国から入ったよく似たエビ(カワリヌマエビの仲間)について、「形態による本種との区別は困難」と書いています(京都府レッドデータブック・ミナミヌマエビ)。埼玉県では、県内の川で外国から来たと思われるこの仲間が広く見つかっていて、釣りの生き餌やペットとして買われたものが放されて増えた、とされています(埼玉県レッドデータブック・甲殻類)。琵琶湖でも在来のミナミと交雑している可能性が高い、と京都大学が発表しています(京都大学 2022年の発表)。
この3つめは、店で買っても完全には消えません。ただ、店の生体は売り物として選り分けられていて、スジエビが混じる心配はずっと小さい。メダカの容器に入れるなら、それで足ります。釣具店で売られる「ブツエビ」はカワリヌマエビの仲間、「シラサエビ」はスジエビの仲間の呼び名です(人と自然の博物館『共生のひろば』12号)。釣り餌のエビをメダカの容器に入れるのは避けます。
アクアリウムの店か通販で、ミナミヌマエビとして売られているものを選べば、見分けの心配はほぼなくなります。
メダカと同じ容器で増えて、数を保ってくれるのはミナミヌマエビです。40匹のセットなら、60cm水槽や大きめの睡蓮鉢でメダカとほぼ同数になります。
そして、買ったエビも、増えたエビも、川や池には放しません。外から来たエビが川で広がったのは、まさにそうして放されたものからです。川で採ったエビを飼わないと決めたら、採った同じ場所に、その日のうちに戻します。

見分けがつかないときは、どうするか|透明なコップで横から見る
はさみを見ても、どうしても分からないことがあります。エビが小さすぎる、すぐに隠れて見えない、はさみが片方取れている。そういうときの手順を決めておきます。
まず、メダカの容器から出して、別の容器に分けます。プラケースでも、バケツでも構いません。見分けがつくまでは、メダカとも、ほかのエビとも一緒にしない。これだけで、心配の大半はなくなります。
次に、透明なコップに1匹ずつ移して、横から見ます。上から見ると、エビの脚は体の下に隠れて見えません。横からなら、前の脚の長さと、腹の横のスジが同時に見えます。スマホで写真を撮って拡大すると、毛の束も分かります。
若い個体で決めきれないなら、2〜3週間、別の容器で育ててから見直します。育つほど、スジエビのはさみは長く、模様ははっきりします。それでも決まらないなら、メダカの容器には入れない。それが、いちばん安全な答えです。
どこで見切るか|終わりの判断
線を3本、決めておきます。
前の脚のはさみが長く、腹に横のスジが並んでいたら、スジエビとして扱い、メダカの容器から出します。飼うなら別の容器、飼わないなら採った場所へ戻します。メダカを食べたかどうかを確かめるために待つことはしません。
はさみが短く、先に毛の束があり、体の横に点の列がなければ、ミナミヌマエビとして扱います。ただし川で採った個体を、針子のいる容器や、大事な品種の容器に入れるのはやめておきます。メダカと飼うなら、店のミナミを、メダカとほぼ同数で入れる。
大きく、体の横に赤茶色の点が並んでいたら、ヤマトヌマエビです。メダカの成魚の容器には入れてよいが、増えないので、減った分は買い足す。卵や針子のいる容器には入れません。
見分けに2〜3週間かけても決まらないエビは、メダカの容器には入れない。それで困ることは、何もありません。
まとめ
スジエビとミナミヌマエビは、はさみで見分けます。前の脚のはさみが細く長く、頭の先より前に出ればスジエビ。短く、先に毛の束があればミナミヌマエビかヤマトヌマエビです。スジエビは、透明な体の腹に横の黒いスジが並び、脚の関節が黄色です。
ヤマトヌマエビは大きく、体の横に赤茶色の点が並びます。淡水の容器では増えません。ミナミヌマエビは、メダカの容器の中でそのまま増えます。
スジエビはメダカの容器に入れません。分からないエビは別の容器に分けて、横から見て決めます。メダカと飼うなら、店か通販で名前の確かなミナミヌマエビを選ぶのが安心です。
よくある質問(FAQ)
Q. スジエビとミナミヌマエビは、どこを見れば見分けられますか。
A. 前の脚のはさみです。スジエビはテナガエビの仲間で、前から2番目の脚が細く長く、頭の先より前に出ます。ミナミヌマエビははさみが短く、先に毛の束があります。そのうえで、透明な体の腹に横の黒いスジが並んでいればスジエビです。
Q. 川で採ったエビがスジエビか分かりません。メダカと一緒にしていいですか。
A. 分かるまでは別の容器に分けます。透明なコップに移して横から見て、はさみの長さと腹のスジを確かめます。それでも分からなければ、メダカの容器には入れません。
Q. スジエビはメダカを食べますか。
A. 国の生き物図鑑ではスジエビは雑食とされ、生きた魚を襲うとは書かれていません。一方で環境省の資料には、スジエビ類が増えた場所で小さな魚が急に減った例が載っています。メダカと同じ容器には入れないのが安全です。
Q. ミナミヌマエビにもスジがあります。スジエビですか。
A. スジの向きを見ます。ミナミヌマエビには、背中の真ん中を縦に1本通るオリーブ色の線を持つ個体がいます。スジエビのスジは、腹の節に横に入る黒い帯で、何本も並びます。
Q. ヤマトヌマエビとミナミヌマエビは、どう違いますか。
A. ヤマトヌマエビは体長35〜45mmで大きく、体の横に赤茶色の点が切れた線のように並びます。子が海で育つので、淡水の容器では増えません。ミナミヌマエビは小さく、淡水の容器でそのまま増えます。
Q. ヤマトヌマエビはメダカの稚魚を食べますか。
A. 弱った針子や死にかけた魚をつつくことがあります。メダカの成魚の容器なら問題になりにくいですが、卵や針子のいる容器には入れません。
Q. スジエビは水槽で増えますか。
A. スジエビには2つの型があり、一方の型の子は海水の混ざった水でしか育たず、もう一方は淡水でも育つことが分かっています。採った川によって、増えることも増えないこともあります。
Q. 釣り餌のエビをメダカの容器に入れてもいいですか。
A. 避けます。釣具店の「シラサエビ」はスジエビの仲間、「ブツエビ」は外国から入ったものを含むカワリヌマエビの仲間の呼び名です。メダカと飼うなら、アクアリウムの店か通販でミナミヌマエビとして売られているものを選びます。
次に見るのは、ここ
ヤマトやミナミと針子を同じ容器にするならエビはメダカの針子を食べるかへ。ミナミを何匹入れるか決めるならメダカとエビの比率へ。エビ以外の相手も考えるならメダカと混泳できる魚・エビへ。野菜の水槽にエビを入れるならアクアポニックスでエビは飼えるかへ。
