朝は元気だったのに、夕方に見たら葉が寝ている。水に手を入れると、ぬるい。この時期の水耕栽培で最初に壊れるのは、葉ではなく根です。
そして厄介なのは、根は見えないところで進むことです。葉に出たときには、もう何日か経っています。
だから夏は、症状ではなく数字で先回りします。見るのは水温、ひとつだけです。
- 線を引くのは22℃です。ここを超えたあたりから、根の側に無理が出はじめます。
- 暑さそのものより先に、酸欠として出ます。水温が上がると溶ける酸素が減り、根が使う量は増えるからです。
- 下げる手には順番があります。①日射を切る ②水量を増やす ③風を当てる ④冷やす。
- ①がいちばん効きます。水温を上げているのは日射なので、断てばそもそも上がりません。
- 氷は最後の手です。入れた場所だけを冷やし、溶ければ元に戻ります。

水耕栽培の夏の水温は、何度から危ないか
結論から書きます。22℃です。
15℃から22℃のあいだなら、根はよく伸びます。酸素も足りています。ここが本来の場所です。
22℃を超えたあたりから、根が傷むリスクが上がりはじめます。いきなり枯れるわけではありませんが、余裕が無くなります。
25℃を超えると、根の色が変わりはじめます。白かった根が、先のほうから茶色くなる。この段階で気づければ、まだ戻せます。
30℃を超えたら、成長は止まったと考えてください。葉が元気に見えていても、根はもう働いていません。葉に出るのはそのあとです。
ひとつ言い添えると、これは養液の温度であって、気温ではありません。気温35℃でも、日陰の大きな槽なら水温は25℃で済むことがあります。逆に、気温28℃でも直射に当たった小さな容器は30℃を超えます。
なぜ22℃で線を引くのか
この数字の理由だけ、短く書いておきます。減るものと、増えるものが同時に起きるからです。
水に溶けていられる酸素の量は、水温で決まっています。米国地質調査所の溶存酸素飽和データによると、20℃で約9.1mg/L、25℃で約8.3mg/L、30℃で約7.6mg/L。水温が上がるほど、溶ける量そのものが減ります。
いっぽうで、水温が上がると根の呼吸は活発になります。使う量は増えます。
減るものと増えるものが逆方向に動くので、差は思ったより早く詰まります。溶存酸素が4〜5mg/Lを下回ると、根は酸素を使わない呼吸に切り替わり、その過程で出る物質が根を弱らせます。
だから高水温の害は、暑さではなく酸欠として出てきます。仕組みの詳しいところは、根腐れの記事に書いてあります。ここでは下げ方を扱います。

① 日射を切る|いちばん効く
下げる手の中で、いちばん効くのはこれです。順番を守ってください。
理由は単純で、水温を上げているのが日射だからです。冷やす手はすべて「上がったものを下げる」ですが、日射を切るのは「そもそも上げない」です。
やり方は、槽の上に日よけを渡すだけです。すだれ、寒冷紗、板。全部を覆う必要はありません。日が当たる時間帯だけ、半分を切れば十分に効きます。
ここで迷うのが、植物にも日が必要なことです。だから覆うのは槽であって、葉ではありません。水面を隠して、葉は出す。これが基本です。
ハウスの中なら、屋根の側で切ります。ハウスは冬に凍らないかわりに、夏は外より上がります。閉じた空間なので、日射がそのまま溜まります。
掛け方にもコツがあります。槽の真上にベタ置きしないでください。少し浮かせて隙間を作ると、日射を切りながら熱がこもりません。ブルーシートのように通気のないもので密着させると、下に熱が溜まります。
もうひとつ、槽そのものの色も効きます。黒い容器は熱を受けます。買い替えるほどではありませんが、置き場所を選べるなら覚えておいてください。
置き場所を変えるだけで下がることがある
日よけの前に、動かせるなら試してほしいことがあります。置き場所です。
水温を押し上げているのは日射なので、日が当たる時間が短い場所に移すだけで下がります。南向きと西向きは、いちばん暑い時間に日が当たります。とくに西日は、気温がすでに高いところへ日射が重なるので効きます。
逆に効くのが、軒下、建物の北側、木陰。明るいけれど直射は当たらない場所です。葉物なら、これで足ります。
それから照り返しです。コンクリートやアスファルトは日中に熱を溜め、日が陰ってからも出し続けます。地面に直置きすると、下からも熱が入ります。すのこや台を1枚はさむだけで違います。
そして風が抜けるか。壁と壁のあいだや、囲われた場所は空気が動きません。同じ日陰でも、風の通る側のほうが下がります。
ここまでは道具も電気も要りません。買う前に、動かす。これが順番です。
② 水量を増やす|同じ熱量でも上がらない
次に効くのが水量です。水が多いほど、同じ日射でも温度は上がりません。
これは水の性質そのもので、道具も電気も要りません。浅くて小さい容器ほど、水温は激しく振れます。朝は20℃なのに昼に32℃、ということが起こります。
ペットボトルや小さな水差しでやっている場合、夏はここが最初に壊れます。容器を大きくするだけで、その日から振れ幅が減ります。
すでに槽がある場合は、水位を下げないことです。夏は蒸発で減ります。減ったぶんだけ水量が落ち、温度が振れやすくなります。
水位の低下には、もうひとつ困ることがあります。ポンプが空気を吸います。吸い込み口が水面より上に出れば、循環が止まります。循環が止まれば、酸素を運ぶ手も同時に止まります。夏に水位を放置すると、水温と酸素の両方で首を絞める形になります。
足すのは朝のうちにしてください。昼に冷たい水をどっと入れると、水温が急に動きます。1日のうちに大きく動く変化は、それ自体が負担です。
そして地面から離してください。コンクリートやアスファルトの上に直置きすると、下からも熱が入ります。すのこや台を1枚はさむだけで違います。
③ 風を当てる|蒸発で下がる
3つめが風です。水は蒸発するときに熱を奪うので、水面に風が当たれば温度は下がります。
扇風機でもサーキュレーターでも構いません。強く当てる必要はありません。水面がわずかに動く程度で効きます。
この手には、おまけが付きます。水面が動けば、そこから酸素が入ります。高水温で減っているものを、同時に補えます。
ただし副作用もあります。蒸発が進むので、水が早く減ります。②で書いた水位の話と裏表なので、足し水の頻度は上がると考えてください。
屋内なら、風を当てるだけで水面に藻が付きにくくなるという利点もあります。動いている水面には、付きにくいからです。
④ 冷やす|最後の手にする理由
最後が、直接冷やす手です。順番として最後なのには理由があります。
まず氷。入れた場所の水だけを局所的に冷やし、溶け終われば元に戻ります。そのあいだ、根は冷たいところと温かいところの差にさらされます。
凍らせたペットボトルも同じです。効いているように見えるのは数時間だけで、いちばん暑い夕方には戻っています。
水を入れ替えて下げるのも勧めません。温度が一気に動くうえ、養液の濃さも変わります。根にとっては二重の変化です。
それでも下げたい規模なら、水を冷やす機械(チラー)があります。事業規模のハウスでは、遮光ネットと組み合わせて使われています。
ただし、家庭ではまず釣り合いません。買うときの費用も大きいのですが、それ以上に効くのが動かし続ける電気代です。夏のあいだ、水温が上がるたびに動く機械なので、いちばん暑い時期にいちばん回ります。
うちも入れていません。入れれば確実に下がるのは分かっていて、それでも見送っているのがここです。①〜③をやりきってから考える手だと思ってください。
言い方を変えます。①〜③が効かないほど暑いなら、それは夏に育てる品目の選び方の問題かもしれません。暑さに耐える品目に切り替えるほうが、機械より早く片付きます。

魚がいる場合|先に減らすのは餌
アクアポニックスなら、話がひとつ増えます。同じ水に魚がいます。
やることは同じですが、順番の前に1つ足します。餌を減らすことです。
水温が上がると、水中の酸素は減ります。そこへ餌を与えれば、食べ残しの分解にも酸素が使われ、残りが減ります。根と魚と菌が、同じ酸素を取り合う形になります。
魚の側の目安は30℃です。植物の22℃より高いので、先に苦しくなるのは根のほうだと考えてください。魚が平気に見えていても、根はもう限界かもしれません。
そしてエアレーションを強めます。減っている酸素を足す手なので、夏はここを惜しまないでください。
室内とベランダで、詰まるところが違う
同じ夏でも、置き場所で引っかかる場所が変わります。
ベランダは下からの熱です。コンクリートの床は日中に蓄熱し、日が陰ってからも放り出し続けます。日射を切っても水温が下がらないなら、疑うのはここです。台に載せて、床から離してください。
手すりの内側も熱が溜まります。風が抜けないぶん、空気が動きません。ベランダで置き場所を選べるなら、風の通る側に寄せてください。
室内は逆で、日射より部屋の温度が効きます。冷房を切って出かけた日の午後、閉め切った部屋は外より上がります。人がいない時間帯に、いちばん暑くなります。
そして室内には、日射の代わりに照明があります。植物育成ライトは光と一緒に熱も出すので、水面に近すぎると温度を押し上げます。距離を取ると、葉焼けと水温の両方に効きます。
共通して言えるのは、気温ではなく水温を測ることです。同じ室温でも、置き場所と容器の大きさで水温はまるで違います。
うちのハウスでやっていること、やれていないこと
ここまで一般の話を書いてきたので、うちが実際に使っているものを並べます。
3つです。遮光ネット、扇風機、サーキュレーター。これだけです。
ハウスは冬に凍らないかわりに、夏は閉じたぶん熱が溜まります。だから最初に効くのは遮光ネットで、これが①にあたります。
風のほうを2種類使っているのは、やっている仕事が違うからです。水面に当てて蒸発させるのと、こもった空気そのものを動かすのとは別の話で、後者を止めるとハウスの上のほうに熱が溜まったままになります。
そして、入れられていないものがあります。
空動扇です。ハウスの棟に付ける無動力の換気扇で、電気も電池も要りません。内蔵された形状記憶ばねが温度で開き、風を動力に、溜まった熱気を外へ出す仕組みです。無風のときに太陽光でファンを助ける型もあります。
入れたいと思ったまま、予算の都合で設備投資まで届きませんでした。だからうちの夏は、いまも扇風機とサーキュレーターで回しています。
ここを正直に書くのは、「まず機械を買う」以外の道があると知ってほしいからです。①〜③は、どれも大きな買い物をせずにできます。うちがそうしています。
いつ終わるか|終わりの判断
始め方だけでなく、やめどきも決めておきます。
始めるのは、日中の水温が22℃を超える日が続くようになったとき。気温ではなく水温です。1日1回、いちばん暑い時間に測ってください。
やめるのは、22℃を下回る日が続くようになったとき。日よけを1枚ずつ外していきます。一度に全部外さないでください。日射が急に戻ると、水温も一気に動きます。
外したあとも、週間予報に真夏日が見えたらその週だけ戻す。付け外しが面倒なら、9月いっぱいは掛けたままでも構いません。
最後にひとつ。夏の水温対策は、育てるための手ではなく、生き延びさせるための手です。22℃を超えた水で無理に伸ばそうとするより、秋の作付けに間に合わせるほうが、結果として穫れます。
まとめ
夏の水耕栽培は、22℃で線を引きます。気温ではなく、養液の温度です。
害は暑さより先に酸欠として出ます。水温が上がると溶ける酸素が減り、根が使う量は増えるからです。
下げる手は、①日射を切る ②水量を増やす ③風を当てる ④冷やす、の順。上から順にやってください。①がいちばん効きます。
氷は最後です。入れた場所だけを冷やし、溶ければ戻ります。やめどきは、水温が22℃を下回る日が続くようになったときです。
よくある質問(FAQ)
Q. 水耕栽培の夏の水温は、何度までなら大丈夫ですか。
A. 22℃で線を引いてください。15〜22℃なら根はよく伸びますが、22℃を超えたあたりから根が傷むリスクが上がり、30℃を超えると成長は止まります。これは気温ではなく養液の温度です。
Q. 水耕栽培の植物は夏に腐りやすいですか。
A. 腐りやすくなります。水温が上がると水に溶ける酸素が減り、一方で根が使う量は増えるためです。暑さそのものより先に、酸欠として出ます。
Q. 氷を入れて水温を下げてもいいですか。
A. 最後の手にしてください。入れた場所の水だけを局所的に冷やし、溶ければ元に戻ります。先に日よけと水量で下げるほうが確実です。
Q. いちばん効く対策はどれですか。
A. 日射を切ることです。水温を上げているのが日射なので、冷やす手と違って、そもそも上がらなくなります。槽の水面を覆い、葉は出してください。
Q. 小さい容器で育てています。夏はどうすればいいですか。
A. 容器を大きくしてください。水が多いほど同じ日射でも温度は上がりません。浅くて小さい容器は、朝20℃から昼32℃まで振れることがあります。
Q. 扇風機を当てるのは効きますか。
A. 効きます。水は蒸発するときに熱を奪うので、水面がわずかに動く程度で下がります。水面が動けば酸素も入ります。ただし蒸発が進むので、水は早く減ります。
Q. 魚も一緒に飼っています。何を変えればいいですか。
A. 先に餌を減らしてください。食べ残しの分解にも酸素が使われ、根と魚と菌で酸素を取り合う形になります。あわせてエアレーションを強めます。
Q. いつまで対策を続ければいいですか。
A. 日中の水温が22℃を下回る日が続くようになったら、日よけを1枚ずつ外します。一度に全部外すと、日射が戻って水温が一気に動きます。
次に見るのは、ここ
なぜ酸素で決まるのかは根腐れの原因は酸素不足|水耕栽培より強い理由と対策4つへ。もう葉に出ているなら水耕栽培で枯れる|どこから枯れたかで、原因が分かれるへ。魚がいる水で測るならアクアポニックスの水質管理|初心者が知るべき5つの数値へ。魚の側の目安はメダカの水温を下げる方法|氷はダメ、効くのは日よけと水量へ。秋の作付けに切り替えるならアクアポニックスの1年カレンダー|月ごとのやることへ。

