アクアポニックスは、魚のフンが野菜の栄養になる循環型のしくみです。ところが実際に育ててみると、葉が黄ばんだり、実がつかなかったり、思ったように育たないことがあります。
魚のフンだけでは足りない栄養素があります。ただし全部が足りないわけではありません。足りなくなりやすいのは、主にカリウム・カルシウム・鉄の3つで、逆に窒素は十分に供給されます。
そしてもうひとつ大事なことがあります。症状が出たときにいきなり肥料を足すのは正解ではありません。水の中に栄養があっても、根が吸えない状態になっていることがあるからです。

- 魚のフンだけでは足りない栄養素があります。足りなくなりやすいのは、主にカリウム・カルシウム・鉄の3つで、窒素は十分に供給されます。
- 症状が出ても、いきなり肥料を足すのは正解ではありません。水に栄養があっても、根が吸えない状態のことがあります。
- 足す前にpHを疑ってください。pHが高いと、鉄などは水に溶けていられず、根から吸えない形に変わります。
- 症状の出る場所で見分けます。古い葉からならカリウム、新芽からなら鉄、成長点や実の尻ならカルシウムです。
- 補うときは一度に大量に入れない。入れすぎは野菜より先に魚に影響します。
アクアポニックスで、なぜ足りない栄養が出るのか
この考え方は国連食糧農業機関の技術報告(2014年)にもまとめられています。魚の餌からは足りにくい養分がある、というのは知られている話です。

理由はシンプルで、水に入る栄養は魚のエサに由来するものだけだからです。魚が食べたものが体を通り、フンとして出て、バクテリアが分解して植物が使える形になります。この経路に乗らない栄養素は、いつまで経っても増えません。
魚のエサはタンパク質と脂質が中心なので、そこから生まれる窒素は豊富に供給されます。一方でカリウムやカルシウム、鉄はエサに含まれる量がもともと少ないため、植物が使う速度に供給が追いつきません。

葉物野菜が主に窒素で育つのに対し、実物野菜は着果の段階でカリウムとカルシウムを多く必要とします。葉物が育てやすく実物野菜が難しいと言われるのは、この供給の偏りが理由です。
植物の成長は、いちばん足りない栄養素の量で頭打ちになります。この考え方はリービッヒの最小律として知られていて、他の栄養をいくら足しても、不足している1つを補わないかぎり成長は伸びません。
症状から、どれが足りないか見分ける
幸い、不足している栄養素によって症状の出方が違います。どこから症状が出るかを見れば、専門的な測定をしなくてもおおよその見当がつきます。

| 症状 | 疑う栄養素 | 出る場所 |
|---|---|---|
| 葉先が枯れて茶色くなる | カリウム | 古い葉から |
| 成長点が枯れる・実の尻が黒く腐る | カルシウム | 新しい部分 |
| 葉が黄色く、葉脈だけ緑が残る | 鉄 | 新芽から |
見分けの手がかりは古い葉から出るか、新しい葉から出るかです。カリウムのように植物の体内を移動できる栄養素は、不足すると古い葉から新しい葉へ送られるため、症状は古い葉に先に出ます。逆に鉄やカルシウムは移動しにくいので、新しく作られる部分から異常が出ます。
それぞれの詳しい対処は、カリウム不足、尻腐れとカルシウム、鉄不足と葉の黄化の各記事にまとめています。いちごのように実を穫る野菜でカリウムとカルシウムがどう効くかは、アクアポニックスでいちごは育つのかに書いています。

肥料を足す前に、pHを疑う
ここが多くの解説で抜けているところです。症状が出ていても、水の中には栄養が足りているケースがあります。足りないのではなく、吸えていないという状態です。

植物が栄養を吸収できるかどうかは、水のpHに左右されます。とくに鉄は影響が大きく、pHが高い(アルカリ寄り)と水に溶けていられなくなり、根から吸えない形に変わってしまいます。この状態では、鉄をいくら足しても症状は改善しません。
アクアポニックスの適正pHは6.8前後です。ここから大きく外れているなら、まずpHを戻すことが先決です。測らずに肥料を足すと、効かないうえに水質だけが乱れます。
pHを直しても改善しない場合に、はじめて補給を検討してください。鉄については、pHが高めでも植物が吸収できる形に加工された「キレート鉄」という選択肢があります。普通の鉄剤を入れても効かなかった環境では、こちらに替えるだけで解決することがあります。
補い方は2通りある

不足が確認できたら、補い方は大きく2つに分かれます。どちらが正しいというものではなく、症状を特定できているかどうかで選び分けます。
単肥:足りないものだけを足す
症状から不足している栄養素を特定できているなら、それだけを補うほうが確実です。余計なものを入れずに済むぶん、水質への影響も最小限に抑えられます。
カリウム不足なら炭酸カリウムを使います。ただし一度に大量に入れないでください。少量から始めて数日かけて様子を見るのが鉄則です。
カリウムはpHを上げる働きもあるため、入れすぎると今度は鉄が吸えなくなるという別の問題を引き起こします。何を足すにしても、少量ずつが原則です。
複合肥料:まとめて補う
どれが不足しているか特定しきれない場合や、複数が同時に不足していそうな場合は、微量元素をまとめて含む液肥のほうが向いています。
単肥のように狙い撃ちはできませんが、「何が足りないか分からないまま個別に試す」よりは早く安定します。魚がいる環境で使える製品かどうかだけは、必ず確認してください。
→ 個人で始めたアクアポニックスの費用と失敗をnoteで読む
入れすぎのほうが危ない
足りない状態は成長が止まるだけですが、入れすぎは魚に影響します。アクアポニックスが普通の水耕栽培と違うのは、同じ水で魚が生きているという一点です。
とくに注意したいのが、園芸用の肥料をそのまま使うことです。植物向けに作られた製品には魚に有害な成分が含まれることがあり、濃度も水槽用には濃すぎます。
迷ったら少なく入れて、1週間ほど様子を見てください。足りなければあとから足せますが、入れすぎた分は水換えでしか抜けません。取り返しのつきやすい方向に倒しておくのが安全です。

そもそも足りているかを測る
症状は出ていないけれど不安、という段階なら、測ってしまうのが早道です。試験紙を水に浸すだけで、pHと硝酸塩の値をその場で確認できます。
硝酸塩が十分にあるのに育ちが悪いなら、窒素以外が不足しているサインです。逆に硝酸塩が低いなら、魚の数やエサの量そのものを見直す必要があります。
まとめ:足りなくなりやすいのは3つ
魚のフンだけで足りなくなりやすいのは、主にカリウム・カルシウム・鉄の3つです。窒素は十分に供給されるので、葉物野菜であれば追加の肥料なしでも育つことがほとんどです。
症状が出たら、まずpHを測って6.8前後から外れていないかを確認する。それから、症状に合う栄養素を少量ずつ補う。この順番なら、水質を乱さずに立て直しやすくなります。
どこで見切るか|終わりの判断
線を決めておきます。症状が出たら、肥料より先にpHを測ります。6.8前後から大きく外れているなら、まずpHを戻すところまでが最初の手当てです。pHが高いままだと、鉄などは根から吸えない形に変わるので、足しても効きません。
pHを直しても改善しないときに、はじめて補給します。症状の出る場所で当たりを付け、古い葉からならカリウム、新芽からなら鉄、成長点や実の尻ならカルシウムです。単肥なら少量から始めて数日かけて様子を見ます。迷ったら少なく入れて、1週間ほど待ちます。
見る場所も、症状の出方に合わせます。鉄やカルシウムは植物の中を移動しにくく、新しく作られる部分に異常が出るので、足したあとに出てくる新芽や成長点を見ます。カリウムは古い葉に先に出るので、古い葉の傷みが先へ進んでいないかを見ます。
普通の鉄剤で効かなかった環境では、pHが高めでも吸収できるキレート鉄に替えます。どれが足りないか特定しきれないときは、微量元素をまとめて含む液肥に切り替えます。カリウムを足したあとはpHも測ってください。pHを上げる働きがあり、入れすぎると今度は鉄が吸えなくなります。入れすぎた分は、水換えでしか抜けません。
よくある質問(FAQ)
Q. アクアポニックスは魚のフンだけで野菜が育ちますか?
A. 葉物野菜なら育つことが多いです。窒素は魚のエサ由来で十分に供給されるためです。ただしカリウム・カルシウム・鉄は不足しやすく、実物野菜を育てる場合は補給が必要になります。
Q. どの栄養素が足りないか、どう見分けますか?
A. 症状が出る場所で判断できます。古い葉から葉先が枯れるならカリウム、成長点が枯れたり実の尻が黒くなるならカルシウム、新芽が黄色く葉脈だけ緑が残るなら鉄を疑ってください。
Q. 症状が出たらすぐ肥料を足していいですか?
A. まずpHを測ってください。水に栄養があっても、pHが高いと鉄などは吸収できない形に変わってしまいます。この状態で肥料を足しても効かず、水質だけが乱れます。適正は6.8前後です。
Q. カリウムを補うときの注意点はありますか?
A. 一度に大量に入れないでください。少量から始めて数日かけて様子を見ます。カリウムにはpHを上げる働きもあるため、入れすぎると今度は鉄が吸えなくなります。
Q. 園芸用の肥料を使ってもいいですか?
A. おすすめしません。植物向けに作られた製品には魚に有害な成分が含まれることがあり、濃度も水槽用には濃すぎます。魚がいる環境で使えると明記された製品を選んでください。
Q. 単肥と複合肥料はどちらがいいですか?
A. 症状から不足している栄養素を特定できているなら単肥のほうが確実で、水質への影響も抑えられます。特定しきれない場合や複数が不足している場合は、微量元素をまとめて含む複合肥料が向いています。
次に見るのは、ここ
葉が枯れ始めたならどこから枯れたかへ。肥料を足しても効かない理由を知りたいならリービッヒの最小律へ。新しい葉が白っぽく黄色いなら鉄不足へ。トマトの実の尻が黒くなったならトマトの尻腐れへ。

