アクアポニックスでは、農薬が使えません。葉に掛けたものが、そのまま同じ水に落ちるからです。土耕なら土が受け止めますが、ここには土がありません。
では何をするか。いちばん効くのは、手で取ることと水で流すことです。地味ですが、その場で数が減り、効いたかどうかを自分の目で確かめられます。
なぜ農薬が使えないのか、何が効く順なのか、そして鷲林寺アクアファームで実際にやったこと——うまくいったことも、いかなかったことも——を書きます。
なぜアクアポニックスで農薬が使えないのか

いちばん分かりやすいのは魚です。葉に掛けたものは水に落ち、その水は魚のいる槽へ戻ります。土耕では土が吸着して薄まりますが、アクアポニックスにはその緩衝がありません。
ただ、本当に怖いのはバクテリアのほうです。アンモニアを処理している硝化バクテリアが弱ると、アンモニアがたまりはじめます。
そのとき魚はまだ元気に見えるので気づけません。数日遅れで一気に来ます。この仕組みはアクアポニックスの硝化サイクルにまとめました。
水が入れ替わらないことも効きます。同じ水を回し続ける仕組みなので、一度入ったものは流れて薄まりません。土耕なら雨で流れるものが、ここでは残り続けます。
制度の面もあります。農薬は「この作物の、この害虫に、この使い方で」という組み合わせで登録されています。魚のいる水耕での使用は、そこに書かれていません。書かれていない使い方は、登録の範囲外になります(農林水産省「農薬疑義資材コーナー」)。
どんな虫が、いつ出るのか

ここで実際に出たのは、いちごのハダニ、それから空芯菜と金時草のアブラムシです。アブラムシは春から初夏、ハダニは乾いて暑くなってからでした。
「土が無いから虫は出ない」と思われがちですが、そうはなりません。飛んでくる虫は土と関係なく来ます。土から出てくる虫(ネキリムシなど)が減るだけで、葉に付く虫はふつうに出ます。
どれも、出はじめに気づけば手で取れる数で済みます。逆に言えば、気づくのが遅れると一気に手に負えなくなるということです。毎日でなくていいので、葉の裏を見る習慣だけは持っておいてください。
何から手をつければよいのか

手で取る、水で流す。これがいちばん確実です。アブラムシなら指でこすり落とすか、ホースの水を葉の裏に当てて飛ばす。ひどい葉は、そのまま切り落としてしまうほうが早いです。
地味ですが、この手当てには他に無い強みがあります。やった結果がその場で分かることです。散布した資材が効いたかどうかは何日も分かりませんが、手で取れば、取った数だけ確実に減っています。
黄色い粘着シートは、思ったより働く
黄色い粘着シートを使っていました。よく取れます。吊るしておくだけで、あとは何もしなくていい。手間に対して取れる数がいちばん多い手当てでした。
黄色に虫が寄る性質を使ったもので、コナジラミやアブラムシの飛んでいる成虫が貼り付きます。葉に貼り付いて動かない虫には届かないので、「これから増えるぶんを減らす」ためのものと考えてください。
もうひとつ、数を見る道具にもなります。前の週よりシートが埋まっているなら、虫が増えているということです。葉を1枚ずつ見るより早く気づけます。
散布する資材は、何を使うのか
使っていたのは、ニームオイルとサフオイル乳剤の2つです。
サフオイル乳剤は、登録のある農薬です(登録番号22801)。有効成分はサフラワー油と綿実油で、97.0%が油。虫の気門を物理的にふさいで効かせる剤なので、薬剤に抵抗のついた虫にも同じように効きます。有機農業の資材としても認められていて、野菜なら収穫の前日まで使えます。
魚への影響も、調べられてはいます。メーカーの安全データシートでは、コイの半数致死濃度(96時間)が1リットルあたり1000ミリグラムを超え、水生生物への有害性は「区分に該当しない」と分類されています。ただし製品ページには、余った薬液は川などに流さず、水産動植物に影響を与えないよう処理すること、と書かれています。
使う前にJAへも問い合わせました。返ってきたのは「魚には影響が少ない。多少水槽に入っても影響は少ないが、入れるものではない」という答えです。
ニームオイルのときに製造元からもらった答えと、ほとんど同じでした。つまりどちらも「入ってしまったぶんは気にしなくていい。ただし基本は入れるものではない」。この立ち位置で使っていました。
ニームオイルのほうは、日本では農薬として登録されていません。土壌活性剤・環境改善資材として売られているもので、虫を殺す薬ではなく、予防として使うものです。詳しくはニームオイルは効くのかにまとめました。

散布するとき、水に入れないためにどうするか

上から霧を落とすと、葉を越えたぶんがそのまま水に入ります。スプレーの口を下から上へ向けて、葉を持ち上げながら吹き上げてください。虫が付くのは葉の裏なので、この掛け方は届く場所としても正しいです。
確実なのは、散布のあいだ水面をふさぐことです。シートや板を掛けるだけで足ります。正直に書いておくと、そこまではしていませんでした。散布のしかたで水に入らないように気をつけた程度です。
それで魚に異変が出たことはありませんでしたが、ふさいでおくほうが確実なのは間違いありません。手間としては数十秒の話なので、これから始める人は最初から習慣にしておくほうがいいと思います。
時間帯は朝か夕方です。気温の高い日中や直射日光の下で掛けると、油分の残った葉が焼けます。25℃を超える時間は避けてください。
見つけたら、その日に何をするか
まず、その葉を見てください。数匹なら指でこすり落とせば終わりです。固まって付いているなら、その葉ごと切って持ち出してください。切った葉をその場に落とすと、そこから戻ります。
数が多いときは水で流します。ホースの水を葉の裏に当てて飛ばすだけです。このとき落ちた虫が水槽に入りますが、魚が食べるので問題ありません。むしろ餌になります。
株ごとひどくなっていたら、その株を栽培槽から出すことも考えてください。1株を惜しんで全体に広げるより、1株を捨てて残りを守るほうが結果として収穫は多くなります。判断が早いほど、捨てる数は少なくて済みます。
そのあとで、増えるぶんを止める手当てに移ります。粘着シートを吊るす、資材を撒く、網を掛ける。いま付いている虫を減らすのと、これから来る虫を止めるのは、別の作業です。
虫が出にくい育て方はあるのか
風が通るようにすることです。葉が重なって空気が動かない場所に、虫は付きます。密に植えすぎない、下の方の古い葉を落とす。これだけで、出方がはっきり変わります。
古い葉を落とすのは、虫のためだけではありません。光が下まで届くようになり、風も通り、葉の裏を見るのも楽になります。虫を早く見つけられる形にしておく、というのがいちばんの予防です。
肥料の与えすぎも虫を呼びます。窒素が多いと葉が柔らかく育ち、アブラムシが好む状態になります。アクアポニックスでは魚の量で栄養が決まるので、魚を詰め込みすぎると同じことが起きます。栄養の見方は野菜が育たない原因と対策にまとめました。
もし魚に異変が出たら
散布したあとに魚の様子がおかしくなったら、まず水を換えてください。3分の1から半分を、同じ水温の水で入れ替えます。原因を突き止めるより先に、濃度を下げるほうが早いです。
次に、アンモニアと亜硝酸を測ってください。これが上がっていたら、魚ではなく硝化バクテリアのほうが先に落ちています。数字で見えるので、慌てる前に測るのが確実です。餌を止めて、水換えを続けながら戻るのを待ちます。
野菜のほうも見ておきます。葉が焼けていたら、濃すぎたか、暑い時間に掛けたかのどちらかです。次からは薄めるか、時間帯を変えてください。
天敵は、当てになるのか
当てにはできません。うちでも、テントウムシを畑から採ってきて入れたことがあります。結果は、気づいたらいなくなっていました。
生き物なので、こちらの都合では動きません。餌が足りなければ移動しますし、囲われていなければ飛んでいきます。施設の中に閉じ込めておく仕組みがあれば別ですが、個人の規模では難しいです。
来てくれたら助かる、くらいの位置づけがちょうどいいと思います。テントウムシが自然に来ているなら、殺虫剤を撒かないだけで居着くことがあります。それも、農薬を使わない仕組みの副産物です。
防虫ネットは、張ったほうがいいのか
飛んでくる成虫を入れなければ、そのあとの手当てはほとんど要りません。ただし、張れば済むという話でもありません。目を細かくするほど風が通らなくなり、光も減ります。
うちでは張っていませんでした。ビニールハウスで、側面を開けて風を通していたからです。そこにネットを張れば風が止まり、遮光も増える。夏に熱がこもるほうが怖いと考えて、張らない選択をしていました。
この判断は、資材の性質から見ても外れていません。コナジラミやアブラムシまで止めようとすると0.4mm目以下が要りますが、そこまで細かいと風が通りません。虫を止めるか、風を通すか。長いあいだ、その二択でした。

農研機構の試験では、0.6mm目のネットで覆ったコマツナのハウスについて、株の高さ(0.2m)の温度は側面を開けたハウスと大きな差が無かった一方、人の高さ(1.5m)の暑さ指数は上がり、安全に作業できる時間帯は日の出後と日没前の数時間に限られた、と報告されています(農研機構「開口部を防虫ネットで被覆したコマツナ栽培ハウスでの作業温熱環境の改善」)。
つまり、野菜そのものより先に、中で作業する人のほうが参るということです。この試験では、1〜2m毎秒の送風と天窓による換気を組み合わせると改善したとされています。張るなら、風を送る手段とセットで考えるほうが現実的です。
赤いネットなら、二択を崩せるかもしれない
近年、色で虫の行動を抑える資材が出ています。赤い色のネットは、目を粗くしても微小な害虫が入りにくいというものです。
福島県農業総合センターの現地試験では、0.8mm目の赤色系ネットをハウスの側面に張ったところ、ダリアの開花期にアザミウマ類を低密度に抑えられ、農薬の散布回数がネット無しの半分以下になったと報告されています。
価格は1平方メートルあたり160〜170円(福島県農業総合センター「赤色系防虫ネット等によるアザミウマ類の侵入抑制効果」)。
0.4mmと0.8mmでは、風の通りがまるで違います。同じ効果で目を倍に開けられるなら、熱がこもる問題はかなり軽くなります。
ただし、赤いぶん光は減ります。市販品では透光率65%、つまり3割以上が遮られるものもあります。風は通るが、光は落ちる。ここは正直に天秤です。
逃げ道はあります。側面だけに張ることです。福島の試験も側面への設置でした。天井を覆わなければ、上からの光は減りません。こちらも側面を開けていたので、そこだけ赤いネットに替えるという形が取れたはずです。
ハウスの側面に赤いネットが張ってあるのは、見かけたことがありました。ただ、そこまで調べていませんでした。いま知っていたら、側面だけで試していたと思います。これから始める人には、試してみる価値がある選択肢だと思います。
屋外の容器や、ハウスではない場所なら、目の粗い白いネットでも十分です。1mm目ならコナジラミやヨトウガの成虫は止まりますし、トンボが卵を産みつけるのも防げます。アブラムシは通り抜けるので、そこは手で取ることになります。
よくある質問
アクアポニックスで農薬は使えますか。
基本的に使えません。葉に掛けたものが同じ水に落ちて、魚と硝化バクテリアに届くからです。土耕なら土が受け止めますが、ここには土がありません。しかも同じ水を回し続ける仕組みなので、一度入ったものは薄まらずに残ります。
サフオイル乳剤は使えますか。
うちでは使っていました。使う前にJAへ魚毒性を確認したところ、「魚には影響が少ない。多少水槽に入っても影響は少ないが、入れるものではない」という回答でした。有効成分はサフラワー油と綿実油で、物理的に虫の気門をふさぐ剤です。
いちばん効くのは何ですか。
手で取ることと、水で流すことです。その場で数が減り、効いたかどうかを自分の目で確かめられます。次が黄色い粘着シート。資材の散布は予防なので、効いたかどうかが分かりにくいという性質があります。
黄色い粘着シートは効きますか。
使っていて、よく取れました。吊るしておくだけで手間がかからず、取れた数を見れば「いまどれくらいいるか」の目安にもなります。ただし葉に貼り付いている虫には届かないので、飛ぶ虫を減らすためのものと考えてください。
テントウムシを入れれば解決しますか。
しません。畑から採ってきて入れたことがありますが、気づいたらいなくなっていました。生き物なので、こちらの都合では動きません。来てくれたら助かる、くらいの位置づけです。
防虫ネットは必要ですか。
張っておくほうが確実です。農場では張っていませんでしたが、飛んでくる成虫を入れないのがいちばん手間の少ない防ぎ方です。アブラムシまで止めたいなら0.4mm目以下、コナジラミやヨトウガの成虫までなら1mm目で足ります。
虫はいつごろ出ますか。
アブラムシは春から初夏、ハダニは乾いた暑い時期です。いちごにハダニ、空芯菜と金時草にアブラムシが出ました。どれも出はじめに気づけば、手で取れる数で済みます。
まとめ
アクアポニックスで農薬が使えないのは、魚だけでなく、硝化バクテリアと、水が入れ替わらない仕組みのためです。土耕で使えるものが、そのまま使えるわけではありません。
効く順は、手で取る・水で流す、黄色い粘着シート、資材の散布、天敵。上ほど、効いたかどうかを自分の目で確かめられます。天敵は当てにしないでください。
防虫ネットは、張れば済む話ではありません。目を細かくするほど風が通らず、光も減ります。ハウスの熱を嫌って、張りませんでした。いま選ぶなら、側面だけに赤いネットを張って試すと思います。
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